REPORTレポート
リサーチ&インサイト
防衛施設は誰のカネで整備すべきか?
老朽化が進む隊舎や公務員宿舎
2020年9月に、防衛施設学会が主催する「ミリタリーエンジニアテクノフェア」というシンポジウムに参加し、「民間資金による防衛施設整備の可能性」と題した講演をしてまいりました。
防衛省・自衛隊が管理する防衛施設には飛行場施設や港湾施設など各種装備品を運用するための基本施設の他に、レーダーサイトや弾薬庫など安全保障の基盤として重要な施設が多数あります。
実は、こういった防衛施設に加えて建物も数多く保有しており、庁舎や格納庫、倉庫、整備工場など約2万4000棟を数えます。ただ、そのうちの約5000棟は築50年以上が経過していると言われ、老朽化が深刻です。今後、老朽化施設が年を追うごとに増えることを考えれば、早急に建て替えなり、改修なりを進める必要があります。
防衛省・自衛隊の中で最も重要な人的基盤である自衛官については、階級に応じて駐屯地、基地内(営内)の隊舎への居住が義務づけられています。営外に居住する場合も、即応体制の確保という観点から自衛隊員が迅速に集まることができるよう、公務員宿舎を整備しています。
こういった自衛隊員が住む隊舎や公務員宿舎は部隊の迅速な初動体制を確保するための中核的基盤のひとつです。これまでも、旧耐震基準に基づいて建設されている一部の宿舎を耐震改修するなどの施策は取っているものの、高齢化に伴う社会保障費の増大と新型コロナウイルス関連の財政支出が膨れあがっている現状を鑑みれば、防衛施設の新設や改修に回す予算が潤沢にあるとは思えません。
米軍の軍用住宅民営化が成功した理由
国を支える自衛隊の宿舎が老朽化していては、いざという時に活動する自衛隊員の士気に関わりますので、民間資金を投入し、施設の建て替えを効率的に進める必要がある、という点はご理解いただけるのではないかと思います。
実際、米軍は米軍住宅の居住環境を改善するツールとして、1996年に軍用住宅民営化イニシアチブ(MHPI)を設立しています。文字通り、迅速かつ効率的に軍用住宅を供給するため、民間の事業者と50年間のリース契約を締結し、民間の事業者に住宅建設と維持管理を委ねるという仕組みです。こういったスキームが可能なのは、米軍による軍用住宅の家賃補助が比較的手厚く、民間の事業者が利益を確保しやすいという理由があります。
それに対して、日本の場合は家賃補助がそれほど手厚くないため、コンセッション方式で運営権を民間事業者に売却しようとしても、住宅の建設や維持管理など事業期間中の支出を上回る収入が得られないということが十分に考えられます。その場合、民間の事業者に参加するメリットがないため、家賃収入だけでなく、防衛省がサービス利用料という形で民間の事業者に対価を支払う必要があるでしょう。いわゆる混合型のコンセッションです。
ただ、予算の確保など難しい面はあるものの、民間の事業者が参加することで効率的な調達や創意工夫によるコスト削減が期待できます。たとえば、防衛上、問題にならない公務員宿舎の用地に余剰スペースがあれば、民間に貸し出すことでスペースを収益化したり、周辺開発をセットにしたりすることもできるでしょう。PPP(官民連携)によって公共支出の削減とサービスの質向上が実現すれば、国にはコンセッションを進める十分なメリットがあります。
モノからサービスの購入に発想を変えるべき
これまでのPFI(民間資本を活用した社会資本整備)は施設などモノの調達が中心だったため、予定価格や積算、仕様書などを行政サイドが細かく指定する必要がありました。結果的に、民間の創意工夫の余地が限られていました。
もちろん、宿舎を含む防衛施設については国家公務員宿舎法などの各種法律に縛られるためすべてが自由になるわけではありませんが、求めるサービスの価値を決め、その価値を満たしていれば手法は民間に任せるという方向に、つまりはモノの購入からサービスの購入に発想を変えていくことが大切ということです。
今のところ、防衛省関連のPPPはPFIによる東京・立川の公務員宿舎ぐらいですが、もっと活用していくべきだと思います。
WRITERレポート執筆者
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植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
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