REPORTレポート
リサーチ&インサイト
リチウム電池の技術が⾃動⾞を変える
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2010年8⽉
私の研究室の学⽣たちが20年来の⾏きつけにしている根津の舶来居酒屋「天井桟敷の⼈々」は、相変わらず経営危機にある。70歳を越えたママの年⾦を⼈件費に充てるありさまである。なぜか私は「天井桟敷を潰さない会」の会⻑に推されてい る。いや、既になっているのもしれないのだが、⾃分では分からない。
いずれにし ろ、しょせん資⾦⼒のない⼤学教員だから、なるべく頻繁に訪れるぐらいしか経営⽀援ができない。私にとって、⼤切な店である。この店で何度、学⽣達と有意義な 議論をしたことか。もっとも、それは午後8時半までだけのことで、その後はハチャメチャになるのが通常だったが。
ある⽇、この店の顧客の⼀⼈であるマスメディアの⽅からメールが来た。ドイツ の⾼級⾃動⾞メーカーBMWが主催するプレス向けセミナーのパネルディスカッションに出てほしいというのだ。当⽇まで3週間を切っていたときだったから、よほどの事情があったのだろう。20年来の付き合いがある居酒屋を使って私に依頼してくる のは、⾼等⼿段だ。
いずれにし ろ、しょせん資⾦⼒のない⼤学教員だから、なるべく頻繁に訪れるぐらいしか経営⽀援ができない。私にとって、⼤切な店である。この店で何度、学⽣達と有意義な 議論をしたことか。もっとも、それは午後8時半までだけのことで、その後はハチャメチャになるのが通常だったが。
ある⽇、この店の顧客の⼀⼈であるマスメディアの⽅からメールが来た。ドイツ の⾼級⾃動⾞メーカーBMWが主催するプレス向けセミナーのパネルディスカッションに出てほしいというのだ。当⽇まで3週間を切っていたときだったから、よほどの事情があったのだろう。20年来の付き合いがある居酒屋を使って私に依頼してくる のは、⾼等⼿段だ。
BMWの環境対応⾞、Mine-Eに試乗した
こんなイレギュラーないきさつで、6⽉のある⽇、東京ビッグサイトで⾏われたBMWのプレス向けセミナーのパネリストになった。5⼈のパネリストは環境省の⽅、電⼒会社の⽅、BMWのマーケティング担当と技術開発担当の⽅、それに私の5⼈だった。
BMWの技術者の⽅との出会い、開発中のBMWの環境対応⾞とのめぐり合いは⼤変有意義だった。
環境対応⾞の開発を担当する執⾏役員のクランツ⽒とは、セミナーの前や、電気⾃動⾞Mine-Eに試乗するとき、いろいろと議論できた。私も基本は技術者だからお互いに理解し合えることが多い。
私は聞いた。
「どうしてこんなに回⽣制動を強くしたのですか」
彼の答えは、
「やはり摩擦でエネルギーを損失させるのはもったいないからね」
彼は電池の冷却にこだわっていた。
「Mine-E は空冷にしているけど、⽔冷の⽅がいいかもしれない。なんで⽇産リーフに冷却システムがないのだろう」。
電池の専⾨家ではないけれど、私は答えた。
「電池にもいろいろありますからね。冷却のやさしいラミネート型電池の⽅が⾞に適しているかもしれませんね」。
⾃動⾞産業に経営⾰新を迫る、リチウム電池の技術⾰新
世界中の⾃動⾞メーカーは技術⾰新の荒波にもまれている。内燃機関の世界から ハイブリッド⾞、電気⾃動⾞の世界へ変わりつつあるのだ。2020年に電気⾃動⾞の⽣産台数は全⾃動⾞の10%、年産600万台というのが想定シナリオのようだが、世の中の動きはもっとダイナミックかもしれない。
世界中の⾃動⾞メーカーが商品モデルとビジネスモデルの⾰新を競うことだろ う。100年にわたって往復動エンジンを使った⾃動⾞産業は産業社会を引っ張ってきた。しかし、⽯油を使う往復動エンジンから電気モーターへの変化はあまりにも⼤きい。
⽇本の⾃動⾞産業の競争⼒の中でエンジンの占める割合は⼤きかった。例えば、53年排ガス規制対応のときのエンジンの技術⾰新は、⾃動⾞産業の競争⼒の向上へ⼤きく貢献した。
今度はリチウムイオン電池による技術⾰新が、⾃動⾞産業に経営⾰新を迫る時代になってきている。
Mini-Eを作ったBMWに、将来の⾃動⾞メーカー像を⾒る
BMWやメルセデスのような⾼級⾞メーカーの未来はどうなっているのだろう。
この⽇、BMWの⽅と話したり、Mini-Eに試乗した私の結論は、電気⾃動⾞の時代になっても⾃動⾞メーカーは発展し続けるだろうということだ。その理由を⼀⾔で⾔えば、電気⾃動⾞の⽅がガソリン⾞よりもっと⾞らしくなる可能性が⾼いからだ。
東京ビッグサイトの駐⾞場を仕切ったところにパイロンが並べられて、Mini-Eの試乗コースが作られていた。まるでジムカーナという⾃動⾞競技のコースのようだ。おまけにBMW専属のテストドライバーが最速のお⼿本を披露するものだから、環境対応⾞の試乗会と⾔うより、軽快なハンドリングで知られるMiniの楽しさを体 験する場になったかのようだった。
試乗⾞は、Miniの後席をつぶして、そこに32kwhのサムスン製の電池を積んでい る。それゆえ⾞重は1470kgに増加している。しかし、サスペンションやトラクション制御をこの重さに合せて改良していたので、Miniの軽快さは失なわれていなかっ た。いちばん印象的だったのは、電気モーター駆動特有の鋭い加速とアクセルを離 したときの強⼒な回⽣制動である。ブレーキを踏まなくても停⽌してしまうほど
だ。最⼤-0.3Gの加速度で減速する。もちろんこのときブレーキランプが点灯する。Mini-Eは、楽しくドライブできる電気⾃動⾞の好例と⾔えるだろう。
将来の多彩な電気⾃動⾞が⾒える
⽇産のリーフも楽しさと実⽤性を実現した電気⾃動⾞だ。だが、Mini-Eと違って極⼒現⾏のガソリン⾞と同じ味付けになるように設計されているように⾒える。鋭い加速はスカイラインやフーガ並みなのだが、ブレーキはガソリン⾞と同じように使わなければならない。
私が過去に試乗した3台⽬の電気⾃動⾞は、韓国の新興⾃動⾞メーカーCT&Tの⼩ 型⾞だった。沖縄のあるリゾート地に3台備えられていたので、研究室の沖縄合宿のとき、学⽣たちと試乗した。乗⽤⾞というよりカートのような2⼈乗りの⾞であっ た。構造は単純だが、これも電気⾃動⾞の⼀つの⽅向性だろう。買い物などのため の、半径10km以内の移動にしか⾞を使わない⼈も多い。このような⽅々のために はこんな⾞でいいのかもしれない。
三菱⾃動⾞のアイミーブやテスラモーターのロードスターには乗ったことがないが、Mini-E、リーフ、CT&Tに試乗しただけで、将来の多彩な電気⾃動⾞が⾒える ような気がした。
10年後の⾃動⾞はどのようになっているのだろうか。けっこう今より楽しい⾃動⾞社会になっているのではないだろうか。環境問題を解決すると同時に、便利かつ楽しい⾃動⾞社会がつくられていることを期待する。
環境問題の解決へと続く道は、新しい産業振興の道と平⾏して拓かれていくのが理想だろう。⾃動⾞会社もたくましく、変化を勝機にしてほしい。
WRITERレポート執筆者
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宮田 秀明
社外取締役
プロジェクトマネージャの先駆者、企業リーダー育成の第一人者であり、東京大学教授時代には様々な社会変革のプロジェクトを実行し、2011年に日本学士院賞、恩賜賞をそれぞれ受賞。その後同大学名誉教授に就任し、ビックデータ解析のスペシャリストとして学術的にもトップクラスを走る。東日本大震災を受け植村と共に気仙広域環境未来都市のプロジェクトマネージャに就任。インデックスコンサルティングの先導性に理解を示し、2017年から同社に参画。
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