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下請けビジネスモデルからの脱却

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2008年11⽉

⽇本の造船業が元気を取り戻すのは難しそうだ。過去には世界⼀だった造船企業が、韓国の下請けをするケースまで現れている。下請けは、ある意味で経営者にとって気の休まるビジネスと⾔える。リスクが⼩さいからだ。
 
しかし、下請け企業の利益は限定的だから、従業員の給料も低く抑えなければならない。下請けの仕事は内容が魅⼒的とは映らないため、優れた⼈材は集まらな   い。こうして技術⼒が低下して⼈材の劣化が進⾏していくと、その企業の未来は暗くなる。
 
今、韓国第2位の造船企業の株式の50%が売りに出されている。激しい争奪戦があるようで、数千億円の評価がされているようだ。⽇本では全く逆のことがあっ   た。数年前、⽇本の歴史ある⼤型造船所が⾮公式に売りに出されたが、買い⼿がつかなかったのだ。
 
「YS11」以来ほぼ半世紀ぶりの国産旅客機開発の意味
 
経営とはリスクを取ること。リスクを取らない下請けを⾏うと経営⼒が低下し企業価値も下がる。そして技術⼒の低下と⼈材劣化にまで進んでしまったら、企業の存続も難しくなるだろう。
 
下請けや⽣産に特化するような製造業にしてしまっている経営者の責任は重い。
 
⽇本の航空機産業も典型的な下請けビジネスを⾏っている。国産旅客機を持っているブラジルやインドネシア、ロシア、中国に劣る経営を⾏っていると⾔われても仕⽅なかった。
 
ようやく三菱重⼯業が国産旅客機の開発に本格的に取り組むのは素晴らしいことだ。国産旅客機の開発は⼩型プロペラ機「YS11」以来ほぼ半世紀ぶりで、2013年の就航を⽬指すという。全体的に重厚⻑⼤産業に向かう⼈材はもう⻑い期間、劣化し続けているのが事実だ。
 
しかし、⽇本の航空機産業は、下請けビジネス中⼼であるにもかかわらず、優秀な学⽣が向かい続けていた。経営的に問題が⼤きくなっていっていた⽇産⾃動⾞の場合もそうだった。⾶⾏機や⾃動⾞の世界には、給与をあまり気にしないマニア型の優秀な学⽣が向かい続けているのだ。
 
三菱重⼯のジェット旅客機「MRJ(ミツビシ・リージョナル・ジェット)」が成 功するまでには時間がかかるだろうし、⼤きな経営⼒が必要だろうが、⻑期戦略を 取って、下請けからの脱出を達成しなければ、⽇本の航空機産業も未来がないだろ う。「YS11」や国家プロジェクトだった短距離離着陸機「⾶⿃」のプロジェクトの轍を踏んではいけない。
 
⼯業製品に限らない。すべてのビジネスで下請けから脱出することが、⽇本の製造業が再び成⻑を取り戻すために必要なことである。
 
ITビジネスで例を挙げれば、⼀番下の層にいるのは材料や部品メーカーである。半導体やセラミック・コンデンサーを製造している企業の価値は⾼いがギリギリの利益しか⼿にできない場合が多い。その上にいるのはパソコン・メーカーやIT機器メーカーである。⼤きな利益を得ている企業もあるが、常に激しい消耗戦のような企業間競争がある。⼀番上の層にいるのはマイクロソフトやヤフーやグーグルである。ソフトウエアとそれを使ったITビジネスモデルを創造して世界を⽀配してい   る。
 
⼆次電池を下請けビジネスに終わらせてはいけない
 
グーグルは⼀瞬にして世界企業になった。顧客に⼀番近いのが⼀番上の層で、結果として⼤きな利益を得るし、部品、機器、ソフトウエアとビジネスモデルで構成される3層、4層のビジネス構造の⽀配者になれる。
 
下請けモデルから脱却するためには、顧客になるべく近い上層をビジネスの対象にすることを戦略的に指向し、それを⼤切な経営⽅針にすべきなのだ。数年前にIBMがハードディスク事業と液晶事業を売却したのは、そんな戦略の典型例だ。
 
上層に位置するビジネスモデルを創造することは⼤変難しい。しかし、21世紀にはこれがイノベーションの重要部分を占める事例が多いので、挑戦しなければなら ないと思う。
 
私のお⼿伝いしている「⼆次電池による社会システム・イノベーション」研究プロジェクトは、このことを⼀番⼤きなテーマにしている(参考記事「リチウムイオン電池がもたらす“産業⾰命”」。つまり、現在国際競争⼒のある⼆次電池という製品の製造だけで国際競争をするのは危険である。それでは半導体やセラミック・コンデンサーなどと同じように、部品や製品の製造だけを担当する下請けビジネスモデルで終わってしまう。
 
⼆次電池や電気⾃動⾞を使うビジネスモデルはたくさん考えられるが、それらを海外企業に押さえられて製造に特化するならば、下請けモデルからは逃れられなくなり、結局⽇本の経済成⻑や、国際競争⼒の確保への貢献は⼩さくなってしまう。
 
⼆次電池による新しい「社会システム」の創造に本格的に取り組まなくてはならない。これまでの社会システムは電気を⼤量には貯蔵できないということを前提としたものだったから、この⼤前提を変えることによって様々なビジネスモデルが創造されるだろう。
 
オフィスビルでは、ピーク電⼒使⽤量対策や⾮常⽤電源として⼆次電池が有望だろう。最近になって駐⾞場の需要が減ってきた都⼼のマンションは、駐⾞場を⼩さくして、電気⾃動⾞を使ったカーシェアリング・システムを組み込むのがいいだろう。地域社会や個別事業者のビジネスを⼆次電池と電気⾃動⾞が変え、環境負荷が⼩さい地域設計やビジネス設計ができるだろう。
 
⾞よりも寿命の⻑いリチウムイオン電池は社会財化し、リースするビジネスも有望だろう。これらを組み合わせると、都市や国全体の環境エネルギーに関する社会システムを総合的に設計したり開発したりする⼿法が開発されるだろう。
 
⼆次電池のビジネスモデルを設計開発するのは誰か
 
誰がこのようなビジネスモデルを設計開発し、ビジネス展開するかが問題である。電池製造会社や電気⾃動⾞製造会社がこんなビジネスを⽴ち上げられるとは思えない。従来型のITベンチャーの⼿にも負えないだろう。
 
だから、新しい仕組みを作ることを⽬的に東京⼤学をプラットフォームとして「⼆次電池による社会システム・イノベーション」の研究会を⽴ち上げたわけである。6⽉25⽇のキックオフ・ミーティングには80社140⼈の⽅が、11⽉18⽇の第1 回のフォーラムには200⼈以上の⽅が集い、たくさんの具体的なプロジェクトが紹介された。
 
⼆次電池の場合に限らないが、下請けでないビジネスモデルを創造して、ビジネスとして成功するためには業界横断的な取り組みが⼤切だろう。そして、それを成功させるためには、企業体を作って具体的なビジネスとして展開していくことが必要だろう。例えば、オフィスビル、マンションの⼆次電池を使ったエネルギーシステムの設計・販売のビジネスは、不動産会社、建設会社、電⼒会社、電池メーカーが共同で会社を設⽴してビジネス展開するのがいいだろう。
 
都市のエネルギー環境システム設計は⼤きなテーマである。情報システム会社とシンクタンクが製造会社と⼿を結び、「社会システム設計」を⽬的とした企業を設⽴して取り組むのがいいだろう。これまで情報システム会社は、製造業やサービス業の企業活動のインフラとしての情報システムを提供し構築することを主な業務としてきた。
 
しかし、そろそろ⾶躍して、情報システムを駆使して社会システムや新しいビジネスモデルを創造することをこれからの新しいプロジェクトとすべきではないだろうか。難しいことだが、⼆次電池という有⼒な部品の付加価値が難易度を下げてくれるだろう。
 
亡くなったピーター・ドラッカーさんは「ITはまだまだ上下⽔道の時代だ」と⾔っていたが、彼の予想したITを使った「今では全く想像できないITの活躍」は、例えば「ITと⼆次電池による新しい社会システムの創造」かもしれない。
 
新しい⼤きなビジネスモデルを創造し、下請けビジネスから脱するには、業界横断型コラボレーションが有効だ。

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