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建設プロジェクトマネージャーとは何か(7)

海外で戦うPMに不可欠な「三方よし」の精神
 
江戸時代に「悉皆屋(しっかいや)」と呼ばれる職業が誕生しました。悉皆屋は仕立てや、染み抜き、着物を反物の状態に戻してから水洗いする洗い張りなど、大阪で着物に関するさまざまな注文を受けて京都の専門店に取り次ぐということを仕事としていました。

悉皆には、「全部」とか「残らず」といった意味がありますが、悉皆屋は着物に関するありとあらゆるニーズに、構想力を持って対応していたわけです。

建設の世界で言うと大工の棟梁がそれに当たります。お金を自分で調達し、技術者や大工を集めて、施主の望んでいる建物を造る。これはまさに日本の文化でしたが、不幸にしてあらゆる産業で高度成長期以降、悉皆屋と呼べるような人材が消えていきました。日本が「大量に」「一刻も早く」という、効率重視の社会に変わってしまったからです。
 
プロジェクトマネージャーを体現する米アップル
 
建設業界では特に、故田中角栄元首相が打ち出した「日本列島改造論」が転機になりました。国は道路を日本のいたるところに建設する。旧日本住宅公団(現都市再生機構、UR)は全国で大量の住宅や宅地を供給する。こうした施策が巨大なゼネコンを育てました。一時期、スーパーゼネコンの売上高は2兆円を超えていたほどです。

しかし、人口が減り、経済が縮小する中で、再び各産業分野で悉皆屋が求められる時代になりました。日本企業の各所に分散している技術を取りまとめたり、縦割り意識が抜けない省庁や自治体に横串を刺したりする存在が必要だからです。

米アップル社が新製品を作るとき、彼らは構想を作って、それを実現するために、日本企業ほか、世界中のあらゆる部品メーカーを取りまとめていきます。最近でこそ半導体の内製を始めていますが、生産はTSMCに外注しています。その意味では、アップルはまさにプロジェクトマネージャーです。本来は日本企業のお家芸のはずなのですが、自社での「ものづくり」にこだわりすぎたために、今の状況を招いています。

建設業界を見渡せば、日本の建設会社は今のところ、次なるビジネスモデルを見つけられていません。単なる海外進出では、コストの面で韓国や中国の企業とは勝負になりません。大手は必然的に、国内外のインフラ市場でPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ、官民連携)に取り組むことになるでしょう。

公共インフラのPPPでは、初期段階の企画、建設、金融、メンテナンスまですべてを手掛けますが、一社単独ではなく、さまざまな企業がノウハウや資金を持ち寄って、企業コンソーシアムを形成します。企業やプロフェッショナルからなるチームをまとめられる悉皆屋、つまりプロジェクトマネージャーの出番です。

世界の建設市場では、すでにフランスのブイグやバンシといった企業がプロジェクトマネージャーとして、数多くのPPPを手掛けています。日本でも、これから悉皆屋たる人材あるいは企業を育てていくことが非常に大事です。
 
社会インフラPPPに求められる「三方よし」の精神
 
ただし、ブイグやバンシのまねごとをやっても強くはなれません。例えば、道路建設のプロジェクトなら、単に道路を造るだけではなく、周辺開発などプラスアルファを加えていく。そして、差別化のかぎになりそうなのが、前述の「三方よし」の精神です。

日本の建設業界が、三方よしのプロジェクトマネジメントを実現できたなら、今度は世界に向けて、日本型のプロジェクトマネジメントとして輸出できるはずです。「発注者サイドさえ儲かればいい」となりがちな欧米型とは異なる、持続可能性を追求するプロジェクトマネジメントです。

中小ゼネコンは、縮む国内マーケットにとどまらざるをえませんが、今まで同様の請負一辺倒では持ちません。アットリスク型のコンストラクションマネジメントのような新しい発注方式が増えていくでしょう。地方では、林業とバイオマス発電を結び付けるような地域に根ざしたプロジェクトが増えていきます。

そうした場面でも、悉皆屋として働く発注者側のプロジェクトマネージャーが必要になってきます。今、地方創生を旗印に、官民が連携するプロジェクトが数多く立ち上がっています。実際のプロジェクトを通じて、若いプロジェクトマネージャーを育成していくいい機会です。地方の再生は、そこでプロジェクトマネージャーが育つか否かにかかっているといっても過言ではないでしょう。

プロが解説!プロジェクトマネージャーの仕事術(8)」に続く
 

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