REPORTレポート

ここ最近、日本各地で災害が相次いでいます。2018年には西日本を中心に幅広い地域で豪雨災害がありましたし、2019年も台風19号が関東地方に深い爪痕を残しました。2020年に入ってからも、7月に九州地方を襲った連続的な集中豪雨では多数の死者が出ています。災害に遭われた方々のご苦労を思うと、本当に胸が痛みます。
 
これまで、日本における治水の柱はダムと堤防でした。それが機能してきたのは間違いありません。ただ、従来の想定を越えた集中豪雨が起きているように、地球温暖化によって気候変動が極端になっており、ダムと堤防を軸にした既存の治水対策だけでは防ぐことが難しくなりつつあります。
 
河川の増水に関しては、遊水池などが洪水防止に効果的と見られています。2019年の台風19号の際に、神奈川県の鶴見川の氾濫を防いだ要因として「日産スタジアム(横浜国際総合競技場)」のある新横浜公園が貯水池として機能したのはよく知られています。利根川や江戸川の氾濫を防いだのも、渡良瀬川の流量を調整する渡良瀬遊水池や首都圏外郭放水路でした。
 
もともと日本ではダムや堤防に加えて、各地に点在する水田が遊水池の役割を果たしていました。ただ、そういった水田が住宅地に変わったことで、洪水に対する地域全体の耐性が落ちているという面もあるように思います。
 
災害復旧は現状回帰ではなくアップグレードで

九州を襲った今回の豪雨に限らず、災害が起きた際には被害を受けた地域の速やかな復旧が求められます。ただ、その時に必要なのは、元に戻すだけの復旧ではなく、災害に対する耐性も含め、今の少子高齢化社会に見合った形に地域をアップグレードするという視点だと思います。
 
東日本大震災の後、私は東京大学の宮田秀明・名誉教授(当時はシステム創生学科教授)とともに、大船渡市、陸前高田市、住田町の復興を支援した経験があります。具体的には、二市一町による気仙広域環境未来都市の特区申請と、低炭素社会にあった持続可能な街づくりのサポートです。
 
環境未来都市構想で目標に掲げたのは、「環境」「社会」「経済」の3つの価値がバランスよく共存した街づくりのモデルづくりでした。具体的に言えば、再生可能エネルギーを軸にしたエネルギーシステムの構築、コンパクトシティの整備、農林漁業の振興、気仙材を用いた木造住宅の開発、高齢者に優しい医療・介護・福祉の街づくりです。
 
こういった目標は実際に形になりました。ただ、被災地全体を見渡せば、防潮堤こそ頑丈になり、街自体のインフラは元に戻ったのかもしれませんが、人口が大きく減少している現状を鑑みれば、街の機能は元に戻っていないのかもしれません。
 
再び大きな地震が起きれば津波が来ることは明らかですから、津波被害を避けるという意味では、防潮堤を作り直すのではなく、津波の来ない高台などに、住居や病院、公共施設などを集めたコンパクトな街を作り直すという視点も必要だったように思います。
 
解決のカギは官民連携とスマートシティ

2020年の九州の豪雨災害では多くの地域が水害に見舞われました。場所によっては、毎年のように浸水被害に直面しています。河川を広げ、堤防を強化し、上流にダムを築けば、こういった浸水被害は防げるかもしれません。ただ、頻繁に洪水被害に見舞われているのだとすれば、温暖化が進む今の時代には住むのに適していない場所なってしまったという可能性もあります。
 
そういった地域の復興では、高台移転も選択肢の1つだと思います。被災した地域の中には高齢化と人口減少が進んでいる地域も少なくないということを考えれば、県立病院や診療所、介護施設などを連携させた地域包括ケアシステムや、自動運転などを活用した効率的な移動手段の構築、災害に強い街づくりなどを同時に進める必要があります。
 
交通インフラなどの整備も伴うため、高台移転は街を1つ作るという話です。そんなお金は行政にもありませんから、社会インフラの整備は官民連携(PPP)で進めるほかにありません。国は人工知能(AI)など先端技術を活用したスーパーシティの実現を目指していますので、スーパーシティやスマートシティとからめて地域の復興を進めるという手もあるでしょう。
 
インデックスはPPPを建築プロジェクトマネジメント(建築PM)と並ぶビジネスの柱にしているので、我田引水と受け止められるかもしれません。ただ、同じお金を使うのであれば、既存の問題を解決するだけでなく、未来につながるものにすべきだというのは東日本大震災の時からの変わらぬ思いです。
 
実際に、民間企業や投資家が参加できるようなプロジェクトを構想できるかどうかは分かりません。ただ、知恵を絞れば、災害を奇貨に、官民が連携した新しい街づくりができると信じています。

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