REPORTレポート
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サテライトオフィスやスマート住宅に勝機
旧聞に属する話ですが、JR西日本は2015年に8階建てだったJR倉敷駅の駅ビルを減築し、2階建ての商業施設に転換しました。8階建て時代はショッピングセンターとホテルが営業していましたが、乗降客数の減少に加えて、郊外にできた大規模商業施設に客足が流れたことで経営が悪化。赤字が続いたことが減築の要因です。
地方都市は人口減で需要が長期的に縮小していくことが必至です。無理に続けて赤字を垂れ流すより、地域の実情に合った規模まで縮小するというのは正しい判断だと思います。
JRや私鉄はターミナル駅や沿線に、オフィスビルや商業施設、ホテルなどの資産を数多く保有しています。ただ、新型コロナの感染拡大によってスペースの需要は減少していくことが確実です。彼らが持つオフィスやホテルなどは売り上げの減少に直面することになるでしょう。その際には、倉敷駅の駅ビルのように減築が必要になるかもしれません。
ただ、物事はそれほど単純ではなく、知恵を絞れば新たな需要を開拓できると私は考えています。
サテライトオフィス需要は増加必至
例えば、今春の新型コロナの感染拡大フェーズでは、通勤や職場での接触感染を防ぐため、リモートワークを取り入れる企業や個人が増えました。現在、原則出社に切り替える会社も増えていますが、今後はオフィスとリモートとの併用が進むという見方が一般的です。
もっとも、スペースなどの都合で出社を望む人は一定数、存在します。顧客情報や機密情報を扱うため、在宅で仕事ができない人もいるでしょう。そういった社員の声に応えるため、今後は複数のサテライトオフィスを持つ企業が増えると見られています。それもウィーワークのようなシェアオフィスではなく、感染症対策を盛り込んだ、自社のサテライトオフィスです。企業のサテライトオフィス需要は、駅ビルやホテルなど、需要減で空いたスペースを埋める1つの手段になると思います。
また、今後はリモートワークを前提に、大都市の郊外や地方に移住する人も増えるでしょう。その層に、リモート環境を完備した最新のIoT(モノのインターネット化)やAI(人工知能)を活用したスマート住宅を提供するというビジネスも考えられます。これまで、企業は優秀な社員を獲得するために、報酬やポストだけでなく、魅力的なワークプレイスの提供にも力を入れてきました。今後は安全で快適な住居の提供まで考える企業が現れてもおかしくありません。
それ以外にも、サテライトオフィスと保育園を連携させる、グループの食品スーパーからサテライトオフィスや沿線の住居に利用者がネットで購入した食料品や日用品を届ける──など、様々な展開が考えられます。
二正面作戦を強いられる企業
その際に重要なのは、鉄道会社が持つアセットを一体的に考え、トータルパッケージとして企業に提案する視点です。
多くの企業は、売り上げの減少と感染症対策の二正面作戦を強いられています。感染症対策の中には、社員の感染防止策から新しい働き方、リモートワークを活用した労働生産性の改善など様々な論点があります。これらすべてを同時並行的に進めなければなりません。これは大変なことです。
逆に言えば、企業の悩みが深ければ深いほど、それに対して有効なソリューションを提示できれば、企業は関心を振り向けます。先ほど提示したアイデアはまだ思いつきの域を出ませんが、感染防止から生産性向上や社員の移住希望まで、トータルに対応することで新しい需要を切り開くことができるのではないでしょうか。
今回、電鉄会社の例にとって話をしましたが、工場を持つメーカーだろうが、全国に販売店を抱える流通だろうが、アセットを持つあらゆる企業に当てはまると思います。
WRITERレポート執筆者
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植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
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