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欠陥マンションが生まれる理由(1)

建築プロジェクトの品質管理はゼネコン丸投げで大丈夫?
 
「人生最大の買い物」と言っても過言ではない住宅。2020年に首都圏で供給された民間分譲マンションの1戸当たりの平均価格は実に6485万円にも達しています(不動産経済研究所調べ)。それだけに、新聞紙面を賑わせた横浜市の「傾斜マンション問題」は消費者に大きな衝撃を与えました。

問題となったのは、三井不動産レジデンシャルが2006年に販売した分譲マンション「パークシティLaLa横浜」です。2014年、住人がL字型に建っている2棟の建物のつなぎ目部分に、2cmほどの段差があることに気が付きます。マンション管理組合は三井不動産レジデンシャルにこの問題を指摘。そこから原因究明が始まりました。

地盤や建物をはじめ、さまざまな調査が行われる中で、「マンションの基礎杭が支持層と呼ばれる硬い地盤に届いていなかった」こと、「基礎杭が支持層に達していることを裏付けるはずのデータが他から流用されていた」ことが判明しました。いわゆる「杭データ偽装事件」です。(旭化成建材が発表した社内調査

このマンションは、波打った地盤に一部の杭が届いていなかったことで、時間の経過とともに少しずつ建物が傾いていったと言われています。最終的には、三井不動産レジデンスは全4棟の建て替えを表明しました。
 
続々と明らかになる建築関連のデータ改ざん

一般に基礎杭を打つときには、事前に現場を調査し、その調査を基に杭を設計して、支持層に到達する杭を発注します。ところが、先のマンションでは調査自体がしっかりなされておらず、ずさんな調査を基に、元請けの三井住友建設が設計して、一律の長さの杭を旭化成建材に発注しました。

横浜の傾斜マンションが建っている地域は通常とは異なり、地盤が波を打っている点で非常に珍しいのは事実です。ただ、実際のところ、建物が傾いた本当の原因は分かっていません。「杭が支持層に届いていないだけで、あそこまで傾くはずがない」という建築構造の専門家もいます。

杭データの偽装が表面化して以降、杭工事の進め方が変わりました。基礎杭に関しては、事前調査の段階で設計事務所やゼネコンが立ち会って、調査の結果を現地で確認するプロセスになっています。そして、発注者にきちんと説明をする形になってきました。

昔は杭打ち業者に任せっきりで、データを取ってしばらくたってから設計事務所に送られたデータをチェックしていました。データが本当に現地で取られたものかどうかを確認さえしていませんでしたから、隔世の感があります。

2014年の暮れに国土交通省が、杭データ偽装事件に関して一応の終止符を打つ目的で、「基礎ぐい問題に関する対策委員会」の中間とりまとめ報告書が出されました。国交省は、これ以上問題が大きくならないよう、幕引きを図ろうとしたようですが、杭データ偽装は以後も次々に発覚しています。旭化成建材以外に、これまで16社238件で杭データの改ざんが行われていたことが判明しています。
 
偽装を引き起こした建築業界の悪しき重層下請け構造
 
杭データの偽装を防ぐために、建設会社や設計事務所などの当事者は、技術的な対応や二重三重のチェック機能を拡充していくでしょう。また、発注者自身が工事をチェックするため、インデックスコンサルティングが提供しているような第三者工事管理や建設プロジェクトマネジメントを導入する発注者も増えると思います。

ただ、鉄骨にしてもコンクリートにしても、品質を確保するために、発注者や元請けのゼネコン、設計者といった人たちが常に現場に立ち会い、入念なチェックすることは不可能です。

配管や設備なども同じです。あらゆるところで二重三重のチェックを実施すれば、当然、建設コストに跳ね返ります。結果的には、発注者に転嫁され、最終的には消費者がそのコストを負担することになります。

チェック体制の強化は必要だとしても、それは根本的な原因を解決していません。前述の報告書も指摘していますが、今回の杭データ偽装の背景にある、建設業界の構造的な問題については、依然、温存されたままです。

昔も今もそうですが、建設業界は「重層下請け構造」になっています。必ず発注者がいて、設計事務所がいて、ゼネコン、サブコン(ゼネコンの建設・土木工事の一部を下請けする中堅建設会社)、何段階もの下請けと続く。私は杭データ偽装問題に限らず、建設業界をめぐるさまざまな問題が、このピラミッド型の重層下請け構造に起因していると考えています。

発注者の三井不動産は、杭の問題について何も知らされていませんでした。ゼネコンとの契約が請負だからです。100億円なら100億円で、この建物を造る契約をすれば、以降は任せっぱなし。「丸投げ状態」になるのです。
 
基本的に下請けに丸投げだった三井住友建設
 
基礎杭を施工した旭化成建材(二次下請け)は、杭の長さが足りなかったことを把握していました。それが元請けの三井住友建設やデベロッパーの三井不動産に伝わっていたのかは分かりません。

しかし、少なくとも旭化成建材が、杭が支持層に達しなかったことを認識した時点で、三井住友建設に報告して、「杭をあらためて発注するため、これだけのスケジュールや費用が余分に掛かる」と言える状態であれば、恐らくこんな大きな問題にはなりませんでした。三井住友建設と旭化成建材の間に一次下請けとして、日立ハイテクノロジーズという会社が入っていますが、恐らく伝票を通しているだけの会社とみています。建設業界ではよくある商社機能です。実際には、丸投げで何も管理していない。

三井住友建設は国交省から、1カ月という異例の指名停処分を受けました。通常は、せいぜい1~2週間です。国の指名停止処分を受けると、地方自治体でも全て指名停止となります。三井住友建設も杭に関しては、基本的に丸投げだったようです。本来、下請けのデータや現場の施工状態をチェックしなければならないのですが、それを怠ったことで、非常に重い処分となりました。
 
欠陥マンションが生まれる理由(2) デベロッパーの品質チェックが機能しないメカニズム」に続く。
 

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