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欠陥マンションが生まれる理由(2)

デベロッパーの品質チェックが機能しないメカニズム
 
三井不動産のような大手デベロッパーは、これまでスーパーゼネコンと呼ばれるような超大手ゼネコンに施工を依頼してきました。スーパーゼネコンなら、丸投げできますし、何があっても責任を取ってくれるため、安心できるからです。施工レベルも高い。

もっとも、スーパーゼネコンはマンションの受注にあまり積極的ではありません。公共工事やその他の民間工事に比べて利益率が低いからです。加えて、スーパーゼネコンは巨大な組織を維持するための間接費用が大きいため、準大手や中堅ゼネコンと比べると、建設費は高くなりがちです。このため、大手のデベロッパーは、十数年前から準大手やその下のクラスのゼネコンに工事を任せるようになりました。

ただ、中堅以下のゼネコンの場合、技術面や施工面で不安な部分はあります。そこで大手デベロッパーは、品質を管理できる組織と品質管理マニュアルを作りました。ゼネコンを辞めた技術者などを雇ってチェックもしています。中小デベロッパーや新興デベロッパーは、建設費を安くするため、小規模のゼネコンに丸投げすることが多いですが、大手デベロッパー並みのチェックを実施しているところはまれです。

もっとも、大手デベロッパーのように品質をチェックする仕組みを持っていても、横浜の傾斜マンションのようにそれが機能しないケースもあります。なぜか。
 
下請けを叩いて利益を捻出するデベロッパーやゼネコン
 
譲マンションの建設では、物件ごとに購入者が支払う金額は決まっています。一方、デベロッパーは一定水準の利益を確保しなければなりません。そのためデベロッパーは、「予算の範囲内で建設してくれるなら、どのゼネコンに任せてもいい」となりがちです。下請けが損しようが得しようが関係ないと考えるデベロッパーやゼネコンも少ながらず存在しており、典型的な〝独り勝ち〟の世界です。

しわ寄せは、重層下請け構造の下層にいくほどきつくなります。マンション建設の世界で、最後に仕様が決まるのは内装材や什器の分野です。さまざまな仕様は早い段階の工事から決めていきますから、後工程になればなるほど予算がなくなります。結果、内装材や什器のメーカーが非常に厳しい金額で請け負うか、品質を落とすしかなくなるのです。

人口が減り経済が収縮する中、一部の会社だけが儲かり、残りの会社が損するような業界構造は必ず破綻します。今回の杭データ偽装のような問題が起こってくるはずです。

分譲マンションが販売されるとき、デベロッパーは販売計画を作成し、着工時から営業活動を行います。いわゆる「青田売り」です。そして購入者には、竣工時期を約束します。このため、デベロッパーは購入者への引き渡しが遅れてしまうと、ペナルティーを取られます。工事を担当するゼネコンも絶対に遅れるわけにはいきません。つまり、横浜の傾斜マンションのケースでは、三井住友建設は、完工を絶対に延期できない状況にあったということです。
 
下請け叩きで利益を捻出するデベロッパーとゼネコン
 
ゼネコンが受注すると、発注者には中身が何も見えないブラックボックスの状態になっています。昔のゼネコンには「一度任せられたら、絶対に裏切らない」という精神がありましたが、今は利益を少しでも上げなければ、株主に怒られてしまいます。

時期によっては非常に厳しい金額で受注せざるを得ません。厳しい時期に、下請けが赤字で受注させられると、リスクも高まります。下請けやそこで働く職人も、生活がかかっているわけですから、つい手抜きをすることも起こりえます。重層下請け構造の下に行くほどしわ寄せが大きくなる構造、それ自体が、非常に大きな問題なのです。

リーマンショックが起こる少し前のことです。中小の新興デベロッパーが建設しているマンションを、建設途中でファンドが投資物件として購入して、完成後に賃貸に回すビジネスモデルがはやったが時期がありました。その頃、当社では新興のデベロッパーが造るマンションの品質のチェックが大きなビジネスとなっていました。依頼主は、物件を購入するファンドです。

この時に数百もの物件をチェックしましたが、小規模のゼネコンに丸投げして建設され、何もチェックされていないマンションを数多く見てきました。施工不良や構造に不安があるもの、設備にトラブルを抱えたものなど、さまざまな問題が続出したのです。賃貸とはいえ、見過ごせないようなレベルの瑕疵でした。

その後、マンションの構造計算書を偽造した姉歯事件が起こり、きちんと工事の品質チェックをするという機運が高まりました。それでも、今回の問題が起こったのです。
 
建築の杭データ偽造事件の責任を取るのは誰か?
 
建設業界に携わる者として、非常にはずかしい話ですが、今回の傾斜マンションの問題では、デベロッパーの三井不動産、元請けの三井住友建設、実際に杭を施工した旭化成建材の間で、当初から罪のなすり合いが起こりました。工事が丸投げで行われる中、下請けを含めた関係者の責任が明確になっていなかったからです。一番困るのは、傾いたマンションを買ってしまった住民です。誰が責任を取ってくれるのか分からない。

これまでにも同様の事件は起こってきましたが、いつも誰かに責任を負わせる形で解決してきました。姉歯事件だったら姉歯秀次氏という形です。

本来は、発注者に責任の所在が分かるようにしておかなければなりません。ましてや横浜の傾斜マンションの場合は、設計も施工も三井住友建設が手がけるデザインビルド(設計施工)という受注形態です。本来は、設計者としての役割、施工業者としての役割を明確にしておくべきでした。それができていなかったのでしょう。何か建物に不具合があったとき、設計者が作成した図面どおりに施工されていれば、設計ミスが問題になります。基本的には設計事務所の責任です。

施工業者は、「設計図面どおりに施工していない」「指定された以外の材料を使っていた」などの場合に責任を取ります。横浜の傾斜マンションのケースでは、設計も施工も三井住友建設ですから、両方の責任を取らなければなりません。傾斜問題が発覚した当初、三井住友建設は全く表に出てきおらず、下請けの旭化成建材ばかりが注目されました。

しかし本来は、三井住友建設の責任です。責任の範囲が明確になっていないため、下請けは常にたたかれ、責任をとるよう要求されます。杭データ偽造事件は、建設業界に定着している多重構造の問題点を浮き彫りにしました。
 
工事単価が上がっても下請けへの恩恵は限定的
 
オリンピック需要もあり建設業界は需給が逼迫していましたが、新型コロナウイルスの感染拡大で東京オリンピックは延期になりました。スペースの余剰感も強く、建設需要も落ちていくでしょう。コロナ前は1坪(3.3㎡)当たりの建設費は120万円程度まで上がりましたが、今後は坪70万円まで戻るかもしれません。

横浜の傾斜マンションの建設時期を考えると、三井住友建設は恐らく、1坪当たり70万~80万円という破格の安値で受注しているはずです。建設費が極端に低い時期は、下請けのたたかれ方も壮絶です。その中でコスト削減を迫られると、杭データ偽造のような問題が起こりやすくなります。下請けがどこかで手を抜いている可能性があるからです。

もっとも、1坪当たり120万円で受注しているから、下請けの会社が儲かっているかと言えば、決してそうではありません。今でも、多くの下請けの人たちは「まだ利益が出ない」と泣いているます。

重層下請け構造の中、いいときもたたけば、悪いときもたたく。悪いときはとことんたたく――。すべてゼネコンが悪いという話ではありませんが、これが建設業界の実態です。

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