REPORTレポート

リサーチ&インサイト

建設プロジェクトマネージャーとは何か(2)

プロジェクトマネージャーに求められる3つの資質
 
プロジェクトマネージャーは発注者サイドに立って、品質やコスト、スケジュールなどの条件をクリアして、プロジェクトを成功に導く存在です。ただ、私はこれからの時代のプロジェクトマネージャーには、もう一つ重要な要素が要求されると考えています。
 それは、現在の滋賀県に当たる地域で活躍した近江商人の「三方よし」の精神です。売り手よし、買い手よし、そして世間よし。これを建設の世界に当てはめると、発注者とゼネコン・建設会社、コミュニティ、あるいは発注者とゼネコン・建設会社、下請けの三方になると思います。とりわけ後者の三方よし、つまり下請けにとっても「よし」となるプロジェクトづくりがこれからの時代は必須です。
 
安易に下請けを叩かず「三方よし」仕組みをつくる
 
発注者が自分の利益だけを追求して、ゼネコンや下請けは損を出してもいいというプロジェクトマネジメントの考え方もあるかもしれません。欧米型は基本的にその考え方に基づいています。しかし、経済が縮小していく日本では通用しない考え方です。汗を流した人には、適正な利益が配分されるような仕組みづくりをしなければ、受注する側が事業を継続できなくなります。私は、プロジェクトマネージャーこそが、適正な利益の配分をできる立場だと考えています。

三方良しを目指す日本型プロジェクトマネジメントの要諦は、透明性や公平性を担保することに尽きます。最近はあらゆる組織がステークホルダー(直接・間接の利害関係人)を意識します。企業は顧客や株主、社会に説明責任を果たすためガバナンスを重視していますし、学校法人も父兄や卒業生を意識して透明性や公平性を担保することに注力しています。

そのため、プロジェクトマネージャーを外部から起用する際には、各ステークホルダーから中立の立場であることが重要です。新国立競技場ほど巨大なプロジェクトでなくとも、各種プロジェクトでは、建物の仕様を決めるプログラミングの際に、利害関係者からはさまざまな要望が出てきます。

学校であれば、父兄から「体育館を新しくしてほしい」「プールを大きくしてほしい」といった要望が出るかもしれません。今ある施設が十分使えるにも関わらず、「欲しい欲しい」と声高に叫ぶ人は少なくありません。

しかし、プロジェクトマネージャーは、全体最適を考えて、場合によっては「今のものを改修すればいい」「新しく造る必要はない」と厳しいことも言える存在でなければなりません。もちろん、「新設するとこれだけのコストがかかる」「改修で今後10年間の使用に問題はない」など、一つずつ根拠をもって説明します。

専門的知識や幅広い視点を踏まえた上で、関係者を説得するのは時間と手間のかかる仕事ではありますが、さまざまな仕様を固めるプログラミング次第で、プロジェクトの成功確率は大きく変わってきます。この段階から、トータルコストを視野に入れつつ、プロジェクトのリスクを抽出してコントロールしていきます。

プロジェクトに透明性を持たせて、当事者に適切に利益を配分する。これは、三方良しを実現するための、プロジェクトマネージャーの重要な仕事の一つです。
 
必要な資質は「構想力」「推進力」「知識・技術力」
 
それでは、プロジェクトマネージャーに求められる資質とは何でしょうか。

建設のプロジェクトマネジメントやJAXAによるH3ロケットのプロジェクトマネジメントなど、さまざまな分野のプロジェクトマネジメントは、まったく別物のように論じられることが多いのですが、マネジメントの部分において、基本的にやることは同じです。つまり、必要になるノウハウは基本的には同じなのです。唯一違うのは、技術に関係する部分だけです。

インデックスコンサルティングは建設のプロジェクトマネジメントを中心に仕事をしてきましたが、昨今手がけている再生エネルギーや医療福祉、教育、道路など異なる分野のプロジェクトマネジメントも支障なくできています。建設分野のプロジェクトマネージャーに「バックグラウンドは建設」という人が多いのは事実ですが、必ずしもそうした人材だけではありません。建設以外の技術者や文系学部の出身者も少なくありません。

プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル(PMP)というプロジェクトマネジメントに関する国際資格がありますが、これはプロジェクトを進める上での、ごく一般的な知識を試される資格です。あくまで学科試験で実務能力は問われません。あったほうがいいにしても、ないからといってプロジェクトマネジメントができないわけではありません。

むしろ重要なのは、「プロジェクトマネージャーとしての資質」です。

プロジェクトチームをまとめたり、利害関係者の調整をしたりするため、性格は「常に前向きで新しいことにチャレンジする」「元気で明るくほがらか」な人が望ましいと思います。プロジェクトでは、既得権益を持つ人々や、業界の常識とぶつかり、暗礁に乗り上げてしまうこともしばしばあります。数々の障壁を乗り越えていく、チャレンジングな姿勢が不可欠です。

プロジェクトマネージャーに求められる能力としては、大別して「構想力」「推進力」「知識・技術力」の三つが重要です。最も重要なのが構想力で、「発注の方式をどうするか」「発注者の要望を満たすためにどんな機能を揃えるか」など、さまざまな要素を踏まえてプロジェクトの全体を描いていく力がこの仕事では求められます。
 
発注者も新しい知識を吸収する姿勢が不可欠
 
建設のプロジェクトでは、クライアント(発注者)のマネジメントが極めて大切ですが、構想力はそのためにも欠かせません。クライアントを説得するためには、論理的かつ、説得力のある根拠を積み上げる必要があります。クライアントを取り巻く環境を踏まえて、将来を見据えた計画を立てなければならないからです。

プロジェクトを引っ張っていく推進力は、リーダーシップと言い換えてもいいでしょう。前述したように、プロジェクトには数々の障壁がつきものです。行政や企業、専門家など数々の関係者を巻き込みながら、ぐいぐい引っ張っていく人間力が求められます。

プロジェクトマネージャーに必要な知識や技術力とは次のようなものです。

どんなプロジェクトでも必要になるのが財務の知識です。プロジェクトでは、必ず事業収支を考慮します。最低限でも、損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)を読めるだけの知識は必要でしょう。

細かな専門知識については、技術アドバイザーなど外部の人を起用しても構いません。それでも建設のプロジェクトを担当するなら建設の知識、再生エネルギーのプロジェクトなら再生エネルギーの知識を深めたほうがいいのは確かです。専門家になる必要はありませんが、常に担当するプロジェクトの知識を学ぶようにする姿勢は大事です。「会議で使われる言葉が分からない」では困ります。私も初めて道路のプロジェクトを担当したときには、土木用語や舗装の基準など、さまざまな専門知識を新たに身に着けました。

技術アドバイザーがプロジェクトに加わる際には、最初に話を聞いて、本質的な問題がどこにあるのかを把握してから交渉や会議に臨みます。しかし、中には嘘を言ったり、出身母体や業界常識などを優先したりする技術アドバイザーもいます。まったく知識がなければ、技術アドバイザーが本当に正しいこと言っているかどうかも分からない。ある程度の専門知識がなければ、それを見抜くこともできません。発注者サイドでも、新しい知識を吸収する必要があります。

プロが解説!プロジェクトマネージャーの仕事術(3)」に続く

WRITERレポート執筆者

その他のレポート|カテゴリから探す

お問い合わせ

CONTACT

ご相談・ご質問等ございましたら、
お気軽にお問い合わせください。

03-6435-9933

受付時間|9:00 - 18:00

お問い合わせ
CONTACT