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「環境未来都市」を環境都市輸出ビジネスのテコに

2010年7⽉
 
6⽉18⽇に閣議決定された新成⻑戦略の中に「環境未来都市」構想がある。「スマートグリッド、再⽣可能エネルギー、次世代⾃動⾞を組み合わせた都市のエネルギーマネジメントシステムの構築、事業再編や関連産業の育成、再⽣可能エネルギーの総合的な利⽤拡⼤の施策を、環境モデル都市等から厳選された戦略的都市、地域に集中投⼊する」とある。いちばん新しいのは「集中投資」することだ。
 
これまでの施策はバラマキが多かった。環境モデル都市は13もあるし、スマート シティプロジェクトも4カ所で⾏われている。これで、本格的で新しい環境情報エネルギー社会システムが創造されるのだろうか。
 
この「環境未来都市」構想では、最後に「都市全体を輸出パッケージとして、アジア諸国との政府間提携を進める」ともある。
 
パイロットプロジェクトと位置づけ、成功させることが必要
 
「環境未来都市」はスマートシティとも⾔う。世界中で環境都市づくりの競争が始まっている。先進国以外でこのプロジェクトを強⼒に進めているのは中国であ   る。地球環境を守り⼈類を持続可能にするのが最⼤のテーマだ。別の⾓度から⾒ると、環境に適合したエネルギーと情報を統合した⾰新的な都市や地域をつくることが⼤きなビジネスチャンスになっているということだ。
 
⽇本もこの環境都市をつくるビジネスの競争に勝たなければならない。つまり「環境未来都市」構想は、環境都市システムづくりの国際競争を勝ち抜くためのプ ロトタイプを国内につくるプロジェクトと考えるべきなのだ。新幹線のシステムを 海外に輸出することができるのは、50年近く前に東海道新幹線のプロジェクトを国内で成功させたからだ。
 
スマートシティ︓“ソリューション”を集めても“システム”はつくれない
 
これまで国内で⾏われてきた環境プロジェクトの最⼤の問題点は、それらがまるで公共事業のように⾏われてきたことだ。環境モデル都市もスマートシティもそう だ。急速充電スタンドづくりにも既に20億円以上の国費を使っている。にもかかわらず、それらがどのような効果を⽣み出したのかは分からずじまいだ。場合によっ ては、これまでの環境プロジェクト投資の費⽤対効果は低いまま。これでは国際競 争に勝てない。
 
横浜、豊⽥、関⻄、北九州の4つのスマートシティプロジェクトも⼼もとない。電気⾃動⾞や太陽電池は、⽇本の他の地域よりも普及するだろう。だが「新しいエネ  ルギーと情報で進化した」環境未来都市の全体図が⾒えてこない。
 
その理由を⼀⾔で⾔えば、社会システム設計という観点が⽋如しているからだ。電気⾃動⾞や太陽電池や蓄電池はソリューションである。ソリューションを集めただけでは新しい環境情報エネルギー社会システムはできない。新しいシステムづくり、新しいモデルづくりが⼤切なのに、誰もその重要性を考えてない。さらに、それを実⾏する⼒のあるマネージャーやプロデューサーもいない。
 
電気⾃動⾞や再⽣可能エネルギー発電装置などのソリューションを⾜し合わせれば何らかの新しいシステムが創造できると思うのは幻想に近いだろう。
 
公募やバラまきでは、「環境未来都市」構想は実らない
 
「環境未来都市」構想は、新しい環境情報エネルギー社会システムを創造するための設計と実装を実証するためのパイロットプロジェクトでなければならない。環境都市を創造するビジネスにおいて国際競争を勝ち抜く⼒を養成するための国家⽀援プロジェクトである。
 
私は環境とは全く違った分野を専⾨にしていた。だが、この3年間、環境プロジェクトに取り組みながら、アメリカズカップのプロジェクトに取り組んでいたころの  ことを思い出している。世界と闘って勝たなければ意味のないプロジェクトだった。7年間必死に闘って、個⼈的な楽しみはたくさん失ったが、私⾃⾝たくさんの⼒を獲得することができた。それは⽇本の海の⽂化の豊かさをつくることにもつなが  ったはずだ。
 
プロジェクトを開始する時点で、国際競争プロジェクトとしての位置付けをしっかりしておくのは極めて⼤切なことだ。国が公募して資⾦をバラまくような⼿法を⽤いた段階で、この分野の国際競争⼒を失うことは間違いないだろう。アメリカズカップでも環境プロジェクトでも、世界で勝つためには経営と技術と組織マネジメントと資⾦⼒の4つで闘わなければならない。
 
産業界も⼀致団結して、「環境未来都市」のプロトタイプを国内につくり、それを輸出する戦略を練らなければならない。国内における企業グループ間の競争に⽬を奪われて国際競争⼒を失う、いわゆるガラパゴス化への道を環境都市問題で歩んでしまっては後がない。この視点に⽴つと、⽇本の企業経営の⽅向性にも問題がある。⽇ごろ、有⼒⺠間企業の⽅々と議論すると、有⼒企業を構成するリーダーの個⼈個⼈の考え⽅はけっこう正しいし、グローバルであることが分かる。しかし、企業という組織の意志は狭溢なことが多い。きっと国も企業もリーダーの⼒が弱いからだろう。
 
「環境未来都市」構想は沖縄から始めよ
 
「集中投資」と環境情報エネルギー社会システムの「海外展開」は、⽇本にとっ て正しい戦略だろう。

「環境未来都市」を環境ビジネスの中⼼軸にして、プロトタ イプを2015年ごろまでにつくって実証するべきだろう。私は「集中投資」によって
新しい「環境未来都市」を創る最初のモデルは沖縄につくるべきではないだろうかと思う。そのためのいろいろな研究開発が既に⾏われている。

さらにこの3⽉、沖縄県は「⼆次電池活⽤社会システム構築可能性調査―平成21年度ゼロエミッション・ アイランド沖縄構想関連調査―」をまとめている。
 
私が「環境未来都市」構想を沖縄から始めるべきだと主張する理由は2つある。第 1は、沖縄ならば、他の都市・地域より短期間で成功モデルをつくれること。第2は 成功の確率が⾼いことである。「環境未来都市」創造プロジェクトを他国より早く  実現し、輸出するためには何よりスピードが重要である。
 
なぜ沖縄で実⾏する⽅が実現スピードが速く成功の可能性が⾼いのか。それは次の理由による。
 
1. 島なので環境情報エネルギー社会システムを独⽴した閉じた形、つまり、システムとしては⽐較的簡易な形で設計できる。沖縄本島が⼤きすぎるならば、第1歩は環境モデル都市に選定されている宮古島から始めることもできる。

2. 沖縄の⼈⼝は⽇本全体の100分の1、GDPでは200分の1に近いので、「環境未来都市」プロジェクトの資⾦が本当に集中投資される。砂漠に⽔をまくような事態を回避することができる。宮古島に5年間にわたって300億円程度集中投資すれば、CO2 を20%削減すると同時に、化⽯燃料による発電設備も20%削減できるだろう。2015年に⼆次電池と太陽電池の低価格化が実現していることが前提条件だが、これは⼆次電池産業の国際競争の中で実現されるだろう。成功事例を実現するスピードが国際競争⼒になる。

3. 沖縄の産業部⾨が使うエネルギーは全体の15%程度である。つまり、新エネルギーシステムの適
⽤は⺠⽣部⾨が中⼼なので、産業部⾨に悪影響を与えないでプロジェクトを進めることができる。
この他にも、沖縄の様々なアドバンテージを挙げることができる。沖縄では、他の都道府県に先駆けて電気⾃動⾞を使ったレンタカービジネスがもうすぐ始まる。沖縄のリーダーたちは結束が固く、国際性にも富んでいる。さらに、基地問題の混迷からの脱出にも、このプロジェクトが⼀役買えるだろう。
 
沖縄を観光だけではなく環境の先進県として、つまり環境特区として⽇本の先頭を⾛らせる。また、失われつつある⽇本の競争⼒を回復する先兵とする、という考え⽅もあるだろう。観光と環境をてこにして、沖縄をこれらの分野を特⾊としたシンガポールや⾹港のような地域にするのだ。
 
固まってしまって衰退しそうな⽇本には、⼤きくて確固としたブレークスルーの軸がいる。沖縄と環境は、成功の確⽴が最も⾼い軸なのではないだろうか。
 

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