REPORTレポート
リサーチ&インサイト
大規模プロジェクトで必ず求められるSDGs視点
リターン以外を見るようになった投資家
この数年で、企業経営の最重要課題に浮上したテーマに、SDGs(持続可能な開発目標)があります。SDGsは、国連加盟193カ国が2016年から2030年の15年間で達成する目標で、2015年9月の国連サミットで採択されました。環境、社会、企業統治に配慮している企業を選別するESG投資とともに、欧米では早い段階で経営の最重要課題になっていましたが、日本でもこの1~2年で頻繁に話題に上がるようになりました。
この記事をお読みになっている方々も、SDGsをどのように自社のビジネスに取り込むか、日々模索されていると思います。
実際、グローバルでビジネスを展開していると、SDGsを意識する瞬間が少なくありません。典型的なのは投資の世界です。これまで、建築や不動産などのプロジェクトを評価する際には、投資金額に期間を加味して算出する年換算のIRR(内部収益率)が用いられてきました。ところが、SDGs専門ファンドの伸びが示すように、投資家はリターンだけでなく、地球の持続可能性にも着目しています。
こういった傾向は欧州で特に顕著でしたが、今は全世界的に拡大しています。株主資本主義が主流の米国でも、グローバル企業を中心にSDGsを意識して経営するところが増えています。気候変動対策を主要公約に掲げる米バイデン政権の誕生も、この流れを後押しするでしょう。
イニシャルコストの増加はカバー可能
この変化を建設・不動産に当てはめると、プロジェクトにSDGsの要素を入れなければ、資金が集まりにくくなるということです。
当社はガーナやベトナム、ペルーの有料道路コンセッション(注)など、新興国の社会インフラ整備を支援する官民連携(PPP:Public Private Partnership)プロジェクトを進めています。こういったPPPプロジェクトは自己資金ではなく、機関投資家や銀行、政府系金融機関などの投融資の上で成り立っており、資金を集める際にSDGsに適応したプロジェクトの組成を求められるようになっています。(注:一定期間、インフラの運営権を民間コンソーシアムに売却するPPPの一手法)
これは、決してネガティブなことではありません。
社会インフラであれば、費用対効果に優れた有料道路を建設するだけでなく、近隣住民の雇用創出や所得向上につながるような周辺施設を提案する。インターチェンジやサービスエリアのそばに、再生可能エネルギーを活用した手頃な価格の集合住宅をつくる。あるいは、最先端のAI(人工知能)技術を用いてメンテナンスの際のエネルギー効率化を図る──。これは、SDGsの理念に沿ったものです。
国内であれば、CO2排出削減を進めたCO2ゼロオフィスや住宅、公共施設の建設を目指してもいいでしょう。CO2排出がゼロの施設であれば、借り手や利用者はその付加価値を対価として受け入れるはずです。
もちろん、SDGsを意識することでイニシャルコストは増えるかもしれません。ただ、SDGsファンドは期待リターンが低いことが多く、調達コストもその分、下がるので、事業収支と資金調達の両面でバランスが取れるとみています。また、AIやIoTによるメンテナンスやエネルギーのコスト削減も大きいと見ています。こういったことを試行錯誤しつつ実行に移すのが、われわれプロジェクトマネジャの役割です。
新型コロナウイルスが猛威を振るう中、日本経済の先行きには不透明感が漂っています。その中でも、我々は希望を持ってSDGsを後押しするようなプロジェクトを構築していきたいと考えています。
WRITERレポート執筆者
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植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
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