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ウッドショックは山林や製材所に投資するまたとない好機
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ここ最近、世界的な建築需要の高まりによって木材価格が高騰し、木材の調達が思うように進まない状況が続いています。いわゆる「ウッドショック」です。
米国ではリモートワークが拡大したことで、大都市の集合住宅から郊外の一戸建てに移住する人が相次いでいます。中国の木材需要の増加や世界的なコンテナ不足もあり、欧州産の集成材もなかなか入ってきません。車載用半導体の不足が自動車生産のボトルネックになっていますが、同様に木材の調達難が国内建築の制約要因になりつつあります。
この状況は、木材の国内需要が増加する中で起きました。
国内の木材自給率は40%以下
木材需要を喚起するため、国は住宅や建築物の木造・木質化を促進してきました。国立競技場を設計した隈研吾氏など、木材を積極的に活用する建築家が増加していることもあり、大規模ビルや公共施設などで木材を利用するケースも増えています。その結果、2009年を底に木材需要は増加傾向に転じています。
このように、木材需要の増加は望ましいことですが、国内の木材需要の60%以上は輸入材が占めています。この20年で木材自給率は上昇していますが、国産材の活用はまだ十分とは言えない状況です。国内需要の増加にあわせて国産材の供給体制を整備していれば、今回のような世界的な需要増の衝撃を和らげることもできたでしょう。
これまでは国内の需要喚起が政策として先行してきましたが、需要喚起と同時に、製材所と山林の整備を進める必要があります。そのためには、山林や製材所に対する投資を増やさなければなりません。
私は林業が盛んなオーストリアに何度か視察に行ったことがあります。ご承知のように、オーストリアの林業は機械化が進んでおり、エアコンの効いた重機の中で伐採や枝打ち、木材のカットが可能です。現場には女性もいましたが、それが可能なのも機械化が進んでいるからです。
オーストリアに比べて、日本の山は急峻で、林道の整備を含め機械化に向いていないという一面はありますが、投資するかどうかは木材価格次第、もっと言えば国の支援次第でしょう。
森林経営管理法に期待している理由
もちろん、製材所も近代化する必要があります。住宅メーカーが求める木材は規格が整った工業製品のような木材です。欧米の集成材が重宝されるのはそのためです。それに対して、国産の木材は輸入材に比べて乾燥や精度にばらつきがあると言われてきました。この部分を解消しなければ、国産材の需要は伸びません。
これまでは木材需要が減少していたため、山林や製材所に新規に投資しようという事業者はあまりいませんでした。ただ、足元は国内の木材需要が増えつつあります。世界的な需要増が今後も続くことを考えれば、材木の切り出しや製材の部分を更新するまたとない機会です。国も、この機会を奇貨として、民間事業者の投資を惹起していくべきです。
その意味では、2019年4月に施行された森林経営管理法は林業再生の後押しになると考えています。
森林経営管理法は、経営管理が不十分な民有林を民間事業者に集積・集約する制度。民間事業者の育成と経営の安定のために、国有林を伐採する権利を最長50年間、民間事業者に与える樹木採取制度もあわせて導入されました(樹木採取制度の施行は2020年4月)。所有者が分散しており、不在地主や所有者不明の場合が多い民有林よりも、国有林の方が安定的な供給が可能です。
林業の再生は、SDGsの観点でも進めていくべきだと考えています。
なぜ木質バイオマスが地域の熱源にふさわしいか
十分に成長した木材を材木として伐採し、その後の山林を適切に管理していくことがCO2吸収の面でプラスという面はもちろんあります。ただ同時に、山林や製材所で出る端材を利用した木質バイオマスが地域の電力源にふさわしく、気候変動対策に資すると考えているからです。
木質バイオマスは端材を燃やしますが、伐採後の山林が適切に更新されていれば、CO2は再び樹木に吸収されます。化石燃料は掘り出して燃やせばCO2を増やすだけですが、山林の維持管理を前提とした木質バイオマスは本質的にカーボンニュートラルです。再生可能エネルギーとしては風力や太陽光も重要ですが、林業が成立する山間部に関して言えば、地産地消の木質バイオマスが地域電力の柱になるべきだと思います。
もう一つ付け加えれば、林業の再生は流域の再生、ひいては海洋環境の保全にもつながります。山林を適切に管理運営すれば、流域の治水や保全だけでなく、海の環境と生物多様性の維持に寄与します。
これまでの記事で書いている通り、私は愛知県三河安城の材木問屋の生まれです。子供の時は祖母や父親に連れられて、名古屋港の中川運河に浮かべられた丸太をよく見に行きました。貝殻やカニがついたずぶ濡れの丸太が自宅横の製材所に運び込まれるたびに、「材木は山で取れるものではないの?」と子供ながらに疑問に感じたのを覚えています。
かつての木材流通は水運がメインでした。仮に、林業が再興する日が来れば、原木や製材の運搬に船を活用することもあり得るでしょう。
地方の河川を見れば、流域治水や小水力など再生エネルギーへの取り組みが始まったばかりです。こういった動きにあわせて、水上交通や水上輸送も積極的に進めるべきです。あまり関連のない話に思うかもしれませんが、林業と河川はセットです。
繰り返しになりますが、現在の木材価格の高騰は林業復活のチャンスです。そして、林業は需要がなければ山林や製材所に投資資金が入りません。今の流れを生かして、林業サプライチェーンの更新に全力を入れるべきだと思います。
WRITERレポート執筆者
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植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
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