REPORTレポート

代表植村の自伝的記憶

潜在的な利益相反に無頓着な建設業界

「利益相反」という言葉を耳にする機会は少なくないと思います。ある行為の結果が一方には利益になり、他方には不利益になる行為のことです。
 
ビジネスの世界において、利益相反行為は厳に慎むべきものです。取締役が利益相反取引を行う場合、取締役会や株主総会などで当該取引の承認を得ることが会社法で求められているのも、自身や第三者の利益を図り、結果として会社に損害を与える可能性があるからです。
 
利益相反については様々な不祥事を経て規制が強化されていますが、残念ながら、われわれの属する建設業界には構造的な利益相反が今なお残っています。それも、インデックスグループがサービスを提供しているプロジェクトマネジメント(PM)やPFI事業の領域においてです。
 
 
 
PMとCMの本質的な違いとは
 
 
このニュースレターでもたびたび書いていますが、プロジェクトマネージャーとは、建設プロジェクトにおいて、発注者の伴奏者としてプロジェクトを成功に導く存在です(プロジェクトマネジメントとは)。企画の構想(プログラムマネジメントや戦略立案・構築)といったプロジェクトの川上段階からプロジェクト全体を包括的に調整、管理する点が特徴と言えます。
 
事実、インデックスのプロジェクトマネージャーは建設の知識やノウハウを持ち合わせていない発注者に対して、プロジェクトの事業収支を含めた企画づくりから、事業に必要な施設の機能や仕様の設定、どういった発注形態にするかという発注・入札戦略の立案、設計事務所や建設会社を選定する入札の実施、実際の工事のモニタリングまでを幅広く支援しています。
 
一方、建設マネジメントにはコンストラクションマネジメント(CM)という業務もあります。日本では、CMはコストマネジメントや第三者工事管理など設計や施工に関して技術的な側面からマネジメントを展開するという意味で用いられます。PMはプロジェクト全体、CMは設計や建設段階のマネジメントとフォーカスするフェーズが異なっています。
 
海外では、CMは「ピュアCM」や「アットリスクCM」と言われるオープンブック方式(原価開示方式)のことを指しています。CMは建設会社による請負やデザインビルド(設計施工)に並ぶ受注方式として、本来は発注者がプロジェクトや発注体制によって選定すべきものです。特に公共工事において、地方の建設産業の育成と成長のために最適な発注方式だと考えています。
 
 
 
発注者側の仕事か、受注者側の仕事か
 
 
そして、もう一つ異なっているのは、PMとCMのそれぞれの“立ち位置”です。
 
PMはあくまでも発注者側に立ち、発注者の利益を最適化するために動く存在です。他方、「CMは請負やデザインビルドに並ぶ受注方式」と述べたように、CMは建設会社と同様に受注者側の仕事です。PMは発注者側の仕事、日本的CMは受注者の仕事という点が明確に異なります。
 
また、CMを手がける会社は独立系も増えましたが、大手設計事務所などの関連会社も多く、受注者側の設計事務所や建設会社の役割の一部を補っているに過ぎないケースも散見されます。最近は、こういったCM企業が、発注者が行うべき発注戦略などに関わるケースもあります。ただ、設計事務所の資本が入っている以上、利益相反のリスクが常につきまといます。
 
日本では発注方式を決める際に、設計事務所が基本計画、基本設計、実施設計を手がけ、建設会社は施工を行うという暗黙の棲み分けがあります。ただ、先ほども書いたように、発注方式には多様な選択肢があります。CM企業が発注戦略に踏み込むことで、発注者側よりも業界や受注者側の利益を優先するリスクは否定できません。
 
 
 
総価請負契約のメリットとデメリット
 
 
なぜこういう状況になっているかというと、日本の建設業界では総価請負契約が中心だったことが大きな要因です。
 
総価請負契約とは、受注者である建設会社が建設工事を一式総額で請け負う方式で、当初の契約条件が変わらない限り、工事にかかった費用が契約額を超えた場合でも追加の支払いが発生しません。これまでの建設会社の契約に多く見られた形で、戦後の復興と経済成長を支えたという点でスピードと技術力の最大化を可能にした素晴らしい方式だったと思います。
 
実際に、ある発注者からこんな話を聞いたことがあります。東京駅前の一等地に建つ戦後築の建物の建て替えを検討していたところ、ある大手建設会社の幹部が、値札のところが空欄の発注書を持ってきたことがあったそうです。上得意に対して、どんな価格でも責任を持って建物を完成させるという意思表示です。
 
この方式は、身銭を切っても良い物をお客様に届けるという発注者と受注者の信頼関係の上に成り立っていました。大工の棟梁に象徴される世界です。古き良き時代でした。
 
 
 
今こそ求められる発注の多様性と透明性
 
 
時代は変われど、発注者が建設会社に工事を丸投げすれば、一定の建物が完成するのは今も変わりません。この方式は発注者としても楽ですし、リスクを建設会社に転化できるというメリットもあります。
 
ただ、元請け建設会社から下請の専門工事会社への発注が見えにくく、元が取れないような価格で専門工事会社に請け負わせた結果、手抜き工事事故が起きているのは周知の事実です。あるクライアントの工事で赤字になった場合、別のクライアントの工事でその赤字を補てんするといったことがないとも言えません。
 
建設工事の透明性や説明責任が求められる中で、こういった総価請負契約だけでなく、専門工事業者への発注金額などを開示した実費精算契約や、工事にかかる実費や受注者のフィーを明確にした目標コスト契約など、発注者が多様な契約形態を選定できる形にすべきです。
 
これまで、設計事務所や建設会社は総価請負契約の中でビジネスを展開してきました。その中で、様々な発注方式や契約形態が出てきたため、CM業務を手がけていた関連会社が、より上流の発注や入札の業務を行う流れができました。その結果、受注者が発注者を支援するという構造的な利益相反が生まれたと私は理解しています。
 
この件に限らず、日本にはコンサルタントがどちらの立場についているのか、曖昧なケースがしばしばあるように感じています。この手の利益相反は潰していかなければならないと思います。

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