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リサーチ&インサイト

建設プロジェクトマネージャーとは何か(1)

なぜ建物の発注者は独立したPMを雇う必要があるのか

杭データ偽装問題や新国立競技場問題など、日本の建設業界や公共工事はさまざまな問題を抱えています。こういった問題を解決しつつ、発注者の立場からプロジェクトを成功に導く存在が、プロジェクトマネージャーです。

外部の人材を起用する場合はコンサルタントという呼び方になるケースもありますが、発注者の代理人として発注の方式を考えたり、施設やメンテナンスの仕様を考えたり(プログラミングと言います)、求められる機能や予算に合わせて建設プロジェクトを成功に導く責任者です。海外の巨大プロジェクトでは、基本的にプロジェクトマネージャーが存在します。もちろん、経験を積んだ適切な人材がいれば、内部からの登用でも構いません。
 
ロケット開発を支えるプロジェクトマネージャー

建設業界ではありませんが、分かりやすいケースで見ていきましょう。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2020年度の打ち上げを目指して次世代ロケットのH3ロケットを開発しています。そのプロジェクトマネジャーは、JAXA職員の岡田匡史さんという方です。

H2までJAXAは、基本的に内部でロケットの開発をしてきました。重工業企業は基本的には下請けだったわけです。しかし今回は、完全に三菱重工業に技術移転し、彼らを元請けとして自分のブランドでH3ロケットを造ります。これはJAXAが開発者の立場から、発注者になったということを意味します。

岡田さんはプロジェクトマネージャーとして、発注者であるJAXAサイドから三菱重工に対して、開発の要件を伝えたり、必要な機能を伝えたりという役割を果たします。最先端のロケットを造るための技術開発やものづくりについては三菱重工が担当しますが、岡田さんの下には、ロケットに関するさまざまな分野の技術者がいて、発注者として三菱重工が造っているものがJAXAの要求を満たしているかを検証していきます。各分野の技術者の判断を踏まえて、最終的にOKを出すのがプロジェクトマネージャーである岡田さんです。

種子島でのロケットの打ち上げもJAXAの仕事です。ロケットを打ち上げるためには、ロケット本体の他にも、発射台などさまざまな周辺設備が必要になります。これらも含めて全体をマネジメントして、来る打ち上げの日に向けて全体の調整をしています。

H3ロケットのプロジェクトは非常に難易度の高いプロジェクトです。海外の衛星打ち上げなどを獲得するため、従来、一回の打ち上げ当たり約400億円かかっていたものを半額の200億円に抑えようとしています。H3ロケットの開発で、三菱重工がプロジェクトマーネジャーを担当すれば、とうていこの目標は実現できないでしょう。

一見、第三者であるIHIがプロジェクトマネージャーだったら、目標が実現できるかと言えば、それも難しいでしょう。同じ産業に属する企業だからです。同業者には、ゼロベースで考えて業界の公式や不文律、過去のやり方を打破することはハードルが高いものです。建設業界で言えば、建設業界の内部にいる人は、業界の既存の構造を崩すことはできません。
 
ビルやマンション、商業施設をリーズナブルに建てるには
 
ロケットの分野だけでなく、日本でも、グローバル化している製造業や三菱地所、森ビルなどの大手デベロッパーには、発注者側のプロジェクトマネージャーがいます。内部にいなければ、外部から連れてくることもあります。

しかし、建設のプロジェクトで発注者側にきちんとしたプロジェクトマネージャーがいることはまれです。それでは、いいものを妥当な金額で造ることはできません。

建設業界では、マンションにしても、公共施設や学校に関しても、受注する側の設計事務所やゼネコンが「私たちがプロジェクトマネージャーをやります」と言って担当していることがままあります。これは利益相反の状態にあると言っていいでしょう。

受注者であるゼネコンの内部にプロジェクトマネージャーと呼ばれる職種があって紛らわしいのですが、彼らはあくまで自社の工事を管理するコンストラクションマネジメントが仕事です。発注者の立場から品質やコストについて考えることはしません。やはり、発注者の側にプロジェクトマネージャーがいることが重要です。

プロが解説!プロジェクトマネージャーの仕事術(2)」に続く

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