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面白いほどよく分かるファシリティマネジメント講座
ファシリティマネジメントとは|面白いほどよく分かるファシリティマネジメント講座02
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ファシリティマネジメントは日本語に訳さずファシリティマネジメントのままで
「ファシリティマネジメント」は、日本語に直訳すると、「施設管理」となります。
いわゆる「営繕」の話か、それならうちでも、昔から担当者がいて経験と勘で頑張ってくれているけれど、高齢化で引継ぎが課題というようなコメントをよく聞きます。でも、「営繕」は、ファシリティマネジメントとは少し視点が異なるのです。
また、「施設管理」は、「維持修繕(メンテナンス)」の意味合いが強いため、ファシリティマネジメント、ああ、メンテの話ねとよくいわれます。これも間違いではないのですが、施設のメンテナンスは、ファシリティマネジメントのほんの一部にすぎません。
さらに、ファシリティマネジメントは「FM(エフエム)」と略されるので、FM放送と勘違いされることもしばしばです。もちろん、これは大間違い、放送とは関係ありません。
こういう中途半端な理解や誤解を招かないように、ファシリティマネジメントは、いささか長いカタカナワードではありますが、あえて、「ファシリティマネジメント」(略称FM)のまま、日本語として使います。余談ですが、かつて、ある首長さんが、よくある4文字省略形で「ファシマネ」とおっしゃっていましたが、あまり一般的ではありません。いずれにしても、ファシリティマネジメントは、日本語に直訳したいわゆる施設管理ではないのです。
ファシリティマネジメントのマネジメントは「経営」
ファシリティマネジメントは、<日本では>、「企業・団体などが、その組織活動のために保有・使用する全ての施設資産とその利用環境を、経営的視点・利用者の観点から総合的に企画・管理・活用して全体最適化をはかる経営活動」と定義されています。つまり、ファシリティマネジメントのマネジメントは、「管理」の意味も含むものの、むしろ「経営」の意味合いが強いのです。営繕やメンテとの違いは、ここにあります。
したがって、本来のファシリティマネジメントは、「企業・団体などの施設資産・環境の利用者(ヒト)に根付いた、企業・団体などの内部の経営活動」であり、外部サービスプロバイダーが提供するファシリティマネジメントサービスと区別して、「インハウス・ファシリティマネジメント」ということもあります。
日本版ファシリティマネジメント、ファシリティマネジメント先進国欧米との違い
さて、上記の定義で、あえて<日本では>と書いたのは、欧米におけるファシリティマネジメント(FM)に比べ、日本のFMが、より広範な分野をカバーしているからなのです。
FM発祥の地である米国では、不動産戦略・FM戦略計画をCRE(Corporate Real Estate)と称し、CFO直下でCRE部門がFMとは別に遂行していますが、日本では、CREもFMに含めて定義しています。したがって、米国のFMは、CREの戦略的機能を含まず、COOのもとで運営維持(Operation & Maintenance)の色彩が濃く、CRE部門の戦略のもとで遂行されています。プロジェクト管理に関しては、米国でも、企業・団体によって、またプロジェクトの規模によって、CRE部門が担うことも、FM部門が担うこともあり、両者の中間領域にあります。
なお、近年、欧米でもCREとFMが融合する動きもあり、日本版FMに近づいているようです。ちなみに、2018年に制定されたFMの国際規格ISO41001、それに準じて先頃制定されたJIS Q 41001も、日本版FMの定義に近い内容となっています。
なぜ日本版ファシリティマネジメントは広範囲なのか?
日本におけるファシリティマネジメント(FM)が、欧米におけるCRE領域も含むのはなぜか?ひとつは経営者の理解を得るために、より経営に近い戦略的分野を取り込む必要があったこと。さらに、日本には歴史的に「総務部門」なる「コア業務以外の業務を何でも引き受ける便利な部署」が存在し、ここが不動産管理も施設運営維持も担ってきたため、両者をFMに取り込んだという理由もあります。
但し、総務部門は、企業・団体などの組織の中で、どちらかというと受動的に活動する部門であり、米国のCRE部門のように、経営戦略・財務戦略に基づいて明確な不動産・ファシリティの戦略計画を立て、経営活動として能動的に取り組んでいるとはいいがたく、なんちゃってCREになりがちなことが、日本のFMの大きな課題でもあります。これではいけないと、最近、総務部門みずから「戦略総務」を目指す動きも出ています。
欧米でもCREはCFO直轄であることから、本来のCFO不在と言われる日本の組織で、財務面も反映した事業戦略を立てている経営企画などが、不動産やFMの戦略計画も併せて立案することも考えられますが、一般に経営企画はノンコア業務のこの分野に関心が薄いのが実情です。
欧米版FMと日本版FMの違いは、ほかにもいろいろありますが、追々ご説明しましょう。
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#01 事業活動に必須のファシリティとファシリティマネジメントとは
#03 ファシリティマネジメントの対象分野
#04 ファシリティマネジメントの普及実践推進機関の活動紹介
WRITERレポート執筆者
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古阪 幸代
インデックスコンサルティング 顧問
富士銀行在職中に、ファシリティマネジメントに出会い、米国コーネル大学大学院で研究。シリコンバレーでのコンサルを経て、同銀行に復職し国内銀行初のFM部門を設立。コンサルタントに転身し、Genslerで東アジアの各社をコンサルした後、インターオフィス、明豊ファシリティワークス、三機工業等で代表・役員としてコンサル活動を継続。文科省・国交省・各種団体の委員・役員も歴任。自らもオフィスづくりに関わるネットワークWFMを1997年から主宰。会員600名超。一貫して、人を中心においた働きやすい環境を、経営戦略的に計画・構築・運営する戦略的FMを提唱・推進している。講演・執筆も多数。
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