REPORTレポート
リサーチ&インサイト
建築プロジェクト、ゼネコン丸投げのリスク(3)
予期せぬコスト増を防ぐアットリスク型CM
このように、請負という発注方式はさまざまな問題をはらんでいます。現段階では相対的に優れた発注方式と言えるデザインビルドについてもしかりです。
実は、請負という発注方式から生じる問題を一気に解決できる方法があります。欧米で一般的に用いられているアットリスク型のコンストラクションマネジメント(CM)です。下請けのコストや元請けのフィーを明らかにし、発注者、元請け、下請けの責任の範囲を明確に定めた発注方式です。
例えば、あるマンションがアットリスク型CMで発注されたとしましょう。アットリスク型のCMでは、設計図面が完全にできあがっている場合と設計から始める場合の二通りがあります。後者の場合でも計画だけでなく、一応の仕様や機能が明確になっていることが必要です。
まず、図面や仕様をベースにして、入札で建設会社から見積もりを取ります。また、発注者として「建設会社の利益を10%程度と考えており、ここまでリスクを取る」「建設会社はこういうリスクを取ってほしい」ということを明らかにしておきます。
次に、建設会社から「工事全体でコストが100億円」という見積もりが出てきたとしましょう。見積もりの際には、建設会社が一次下請けまでの原価や利益を開示する「オープンブック」が大原則です。建設会社のフィーが建設工事の10%なら10億円。残りの90億円を下請けにどのように支払うか、杭工事に5億円などと細かく明示していくのです。
実は、請負という発注方式から生じる問題を一気に解決できる方法があります。欧米で一般的に用いられているアットリスク型のコンストラクションマネジメント(CM)です。下請けのコストや元請けのフィーを明らかにし、発注者、元請け、下請けの責任の範囲を明確に定めた発注方式です。
例えば、あるマンションがアットリスク型CMで発注されたとしましょう。アットリスク型のCMでは、設計図面が完全にできあがっている場合と設計から始める場合の二通りがあります。後者の場合でも計画だけでなく、一応の仕様や機能が明確になっていることが必要です。
まず、図面や仕様をベースにして、入札で建設会社から見積もりを取ります。また、発注者として「建設会社の利益を10%程度と考えており、ここまでリスクを取る」「建設会社はこういうリスクを取ってほしい」ということを明らかにしておきます。
次に、建設会社から「工事全体でコストが100億円」という見積もりが出てきたとしましょう。見積もりの際には、建設会社が一次下請けまでの原価や利益を開示する「オープンブック」が大原則です。建設会社のフィーが建設工事の10%なら10億円。残りの90億円を下請けにどのように支払うか、杭工事に5億円などと細かく明示していくのです。
ターゲットプライスを超えるコスト削減も可能
その時点では、見積もりの金額が発注者の予算をクリアしているかどうかが問題になります。クリアしていれば、建設会社と建設費100億円で合意します。この金額をターゲットプライスと言います。
いったん決めたターゲットプライスではありますが、アットリスク型CMでは、建設会社にインセンティブを与えて、さらなる建設費の削減を目指す契約にすることも可能です。例えば、ターゲットプライスが決まった後、建設会社が具体的な実施設計の段階で技術力を駆使して5億円のコスト削減に成功したとします。その際には、発注者と建設会社で2億5000万円ずつ利益を分け合うようにするのです。
逆に実施設計をしたら、5億円の建設費の増加が発生するようなこともあります。その際にも、2億5000万円ずつ発注者と建設会社で負担し合うような設定も可能です。
契約内容はプロジェクトごとに変えられます。オープンブックだけにすることも可能ですが、建設会社が持っている技術力を最大限に発揮してもらった方がコスト削減につながります。その意味では、ターゲットプライスを決めて、上手にインセンティブを活用したいところです。
いったん決めたターゲットプライスではありますが、アットリスク型CMでは、建設会社にインセンティブを与えて、さらなる建設費の削減を目指す契約にすることも可能です。例えば、ターゲットプライスが決まった後、建設会社が具体的な実施設計の段階で技術力を駆使して5億円のコスト削減に成功したとします。その際には、発注者と建設会社で2億5000万円ずつ利益を分け合うようにするのです。
逆に実施設計をしたら、5億円の建設費の増加が発生するようなこともあります。その際にも、2億5000万円ずつ発注者と建設会社で負担し合うような設定も可能です。
契約内容はプロジェクトごとに変えられます。オープンブックだけにすることも可能ですが、建設会社が持っている技術力を最大限に発揮してもらった方がコスト削減につながります。その意味では、ターゲットプライスを決めて、上手にインセンティブを活用したいところです。
オープンブックとアットリスクCMを組み合わせる
契約段階では、関係者が、どんな仕事を担当して、どの部分の責任を取るのかを明確にしおきます。予期せぬことが発生した場合には、その費用については下請けが元請けに請求し、元請けはデベロッパーに請求すると定め、明示しておきます。
こうした取り決めが横浜市の傾斜マンションでできていれば、杭の問題が放置されることはなかったでしょうし、下請けを叩くだけ叩いて無理な金額で工事をさせることもなかったはずです。オープンブックは発注者やマンションの購入者の安心にもつながります。自分の物件がどんな金額で発注されたかが一目瞭然になるため、厳しい価格で発注されているから瑕疵のリスクがあるとか、適正金額で発注されているからまずは安心とか、判断材料を手に入れることができるのです。
私は、マンションのような購入者にとって“一生の買い物”になるようなもの、公共工事や病院、学校など、日本の国益や国民生活に重要な財産に関しては、アットリスク型CMのような公平性と透明性を持たせたオープンな発注形式にしていくべきだと考えています。そこで発注者、ゼネコン・下請け、利用者が互いに利益を得られる「三方よし」を実現していくのです。今後、日本で人口が減少し、経済がシュリンクしていくことは避けられません。その時代には、アットリスク型CMを導入することが理想の姿だと思います。
こうした取り決めが横浜市の傾斜マンションでできていれば、杭の問題が放置されることはなかったでしょうし、下請けを叩くだけ叩いて無理な金額で工事をさせることもなかったはずです。オープンブックは発注者やマンションの購入者の安心にもつながります。自分の物件がどんな金額で発注されたかが一目瞭然になるため、厳しい価格で発注されているから瑕疵のリスクがあるとか、適正金額で発注されているからまずは安心とか、判断材料を手に入れることができるのです。
私は、マンションのような購入者にとって“一生の買い物”になるようなもの、公共工事や病院、学校など、日本の国益や国民生活に重要な財産に関しては、アットリスク型CMのような公平性と透明性を持たせたオープンな発注形式にしていくべきだと考えています。そこで発注者、ゼネコン・下請け、利用者が互いに利益を得られる「三方よし」を実現していくのです。今後、日本で人口が減少し、経済がシュリンクしていくことは避けられません。その時代には、アットリスク型CMを導入することが理想の姿だと思います。
発注者の意識改革とプロジェクトマネージャーが不可欠
従来型の請負では、予期せぬリスクの帰属についてははっきりさせていません。一方、アットリスク型CMでは発注者にも一定のリスクが発生します。ゼネコンは契約で定めた以上のリスクを取らないからです。
アットリスク型CMでは、大きな災害が起こったときや激しいインフレなど経済環境が激変したときに、発注者が一部損失を負担するような契約になるはずです。横浜の傾斜マンションのケースで言えば、杭の長さが足りないと分かったとき、三井不動産は「ちょっと完工時期が遅れます」と言われても納得せざるを得ないでしょう。
アットリスク型CMは、発注システムが見える化された透明性・公平性の高い発注方式ですが、リスクを負うという点については、発注者も意識を変えていく必要があります。また、お金と技術の透明性を持たせるわけですから、発注者として発注が適正か、あるいはインセンティブが適切かを判断する必要があります。発注者の社内技術者が判断をできれば理想的ですが、現実にはそうした社内技術者はあらゆる企業で少なくなる一方です。そこで求められるのが、発注者側に立って働く外部のプロジェクトマネージャーという存在です。建設などのプロジェクトで、発注者と一緒に、プロジェクトにおけるさまざまな判断をしていきます。
具体的にプロジェクトマネージャーが何をするのか、実際にどのように動くのかは、「建設プロジェクトマネージャーとは何か」をご覧ください
アットリスク型CMでは、大きな災害が起こったときや激しいインフレなど経済環境が激変したときに、発注者が一部損失を負担するような契約になるはずです。横浜の傾斜マンションのケースで言えば、杭の長さが足りないと分かったとき、三井不動産は「ちょっと完工時期が遅れます」と言われても納得せざるを得ないでしょう。
アットリスク型CMは、発注システムが見える化された透明性・公平性の高い発注方式ですが、リスクを負うという点については、発注者も意識を変えていく必要があります。また、お金と技術の透明性を持たせるわけですから、発注者として発注が適正か、あるいはインセンティブが適切かを判断する必要があります。発注者の社内技術者が判断をできれば理想的ですが、現実にはそうした社内技術者はあらゆる企業で少なくなる一方です。そこで求められるのが、発注者側に立って働く外部のプロジェクトマネージャーという存在です。建設などのプロジェクトで、発注者と一緒に、プロジェクトにおけるさまざまな判断をしていきます。
具体的にプロジェクトマネージャーが何をするのか、実際にどのように動くのかは、「建設プロジェクトマネージャーとは何か」をご覧ください
WRITERレポート執筆者
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植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
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