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建築プロジェクト、ゼネコン丸投げのリスク(2)

発注方式の新潮流「デザインビルド」とは何か?
 
建物の設計は大別すれば、全体像を示す基本設計と、それを工事に移せるまで詳細に落とし込んだ実施設計の二段階に分かれます。昔は設計事務所の能力が高かった上に、十分な時間をかけて実施設計を描き上げることが可能でした。これを基に建設費を見積もると、おおむねその見積もりに近い額に入札額も収まっていました。

ところが昨今、手抜きをする設計事務所が出てくるようになりました。

建設工事で設計事務所が手にするフィーは、施工金額の10%といった形で決められます。基本設計のみを担当した場合、その金額は減額されます。ところが、発注者が分からないのに付け込んで、中途半端な図面を描いて、「実施設計です」と言って満額をもらおうとするところが出てきたのです。もっとひどいのは、入札前に建設会社に実施設計を手伝わせるケースです。初めから工事を担当するゼネコンが決まっている、ひも付き案件にしてしまうようなことも起こっていました。

また、業界の慣習と言ってもいいかもしれませんが、建設業界にはヒエラルキーが存在します。設計事務所はゼネコンをはじめとする工事事業者よりも格が高い。それゆえに、どんな小さな設計事務所が描いた図面でも、建設会社は口を挟むことはできません。技術力のあるゼネコンが、よりコストが安く、高い品質を実現できる方法に気が付いていても、設計事務所には言えないため、設計事務所がつくった図面そのままに施工することになります。

設計事務所のレベルが高かった時代はよかったのですが、現在は必ずしもそうではありません。結果的には発注者が損をする形になっています。
 
建築費が膨らむほど設計事務所が儲かる仕組み
 
通常、日本の請負制度の下では、設計事務所が基本計画を立て、基本設計と実施設計を書き、その実施設計を基に施工者を決める入札を実施します。ただ、この設計と施工が分離した方式は問題を内包していました。

設計事務所のフィーは、図面の作成で建設工事費の5~7%と業界慣行で決まっています。つまり、建設費が膨らめば膨らむほど売り上げが増えるわけです。極端な話、悪い設計事務所だと、建設費を膨らませるために不要なスペースをあえてつくり、設備や素材を不必要なまでに豪華な仕様にしてきました。発注者は極めて大きな不利益を被ってきたのです。

発注者のチェック体制ができていて、「こんなスペースはいらない」「こんな豪華な設備はいらない」と言えれば問題ありません。しかし、学校や病院には建設の専門家はいないため、発注者にはなかなか言えることではありません。

一方の建設会社は長年、売り上げ至上主義できたため、過剰仕様でも不利益を被ることはありません。結果的に、日本は無駄なハコモノだらけの国になってしまいました。

このように弊害が目立つ請負ですが、近年、請負の一形態として「デザインビルド」という方式が加わりました。
 
請負の新潮流「デザインビルド」
 
デザインビルドの場合、基本設計や実施設計に入る前などプロジェクトの早い段階で入札を実施し、落札した建設会社が参画します。建設会社が設計を担当するため、建設会社が持つ高度な技術やコスト削減手法を設計に生かすことができます。資金調達のための銀行との調整や材料の発注も早めにスタートできるため、スケジュールも早めに確定できます。

デザインビルドはサッチャー政権時代の英国で生まれました。財政赤字に苦しむ中、公共工事のコスト削減を迫られたからです。英国では施工業者早期参入方式(ECI=Early Contractor Involvement)と呼ばれています。

デザインビルドでは早くから建築会社が参画しますが、ここで大切なのは、発注者がつくりたいものや仕様を明確にして建設会社に伝えることです。建物に必要なスペースや機能などがきちんと決まっていれば、建設会社はコストを削減しつつ最適な設計を行います。

ただ、仕様が曖昧で中途半端だと、建設会社がコストをコントロールしつつ適切な設計をすることができなくなってしまいます。発注者が当初考えていたものと全く違うものになってしまったり、巨額の追加費用が発生したりということが起こり得ます。迷走した当初の国立競技場がまさにそのケースといえるでしょう。

次回は請負から生じる問題を解決するアットリスク型のコンストラクションマネジメント(CM)について説明します。

建築プロジェクト、ゼネコン丸投げのリスク(3)」に続く

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