REPORTレポート
リサーチ&インサイト
建築プロジェクト、ゼネコン丸投げのリスク(1)
建設会社や設計事務所に払うコストは適正か?
ゼネコンを筆頭とした建設会社が、発注者にコスト構造を見せることはまずないでしょう。コスト構造を隠すというのは請負ビジネスの鉄則です。
2000年代前半、私は発注者サイドのコンサルタントとして、すべてのコストをオープンにしてフィーを明確にするよう建設会社に迫ったことがあります。「下請けに発注する際には原価を開示するオープンブック方式を採用し、すべての費用を“見える化”してほしい」「下請けは3~4社から入札した上で、安くて品質が確保できる会社を選んでもらいたい」。そう要望しました。海外のプロジェクトでは当然のことですが、「そんなことできません」とことごとく突き返されました。
もちろん、会社を維持するには直接・間接の経費はかかりますし、利益も必要です。そこを否定するつもりは全くありません。ただ、実際にかかるコストや利益を明らかにすることは、プロジェクトの透明性という観点からも、発注者の利益を守るという観点からも重要です。
海外では建設会社がコンストラクション・マネジャーになると、フィーを顧客に開示し、どこが下請けとして参加するのかをすべてオープンにします。また、彼らは全体の取りまとめ役として、下請けのコントロールやスケジュール管理に責任を持つだけでなく、品質的、技術的にきちんと工事が実施されているかどうかをチェックします。海外の場合はプロジェクトに関わる当事者のリスクを契約で明確にしますので、契約書で明記されていないリスクをコンストラクション・マネジャーである建設会社が負うこともありません。
2000年代前半、私は発注者サイドのコンサルタントとして、すべてのコストをオープンにしてフィーを明確にするよう建設会社に迫ったことがあります。「下請けに発注する際には原価を開示するオープンブック方式を採用し、すべての費用を“見える化”してほしい」「下請けは3~4社から入札した上で、安くて品質が確保できる会社を選んでもらいたい」。そう要望しました。海外のプロジェクトでは当然のことですが、「そんなことできません」とことごとく突き返されました。
もちろん、会社を維持するには直接・間接の経費はかかりますし、利益も必要です。そこを否定するつもりは全くありません。ただ、実際にかかるコストや利益を明らかにすることは、プロジェクトの透明性という観点からも、発注者の利益を守るという観点からも重要です。
海外では建設会社がコンストラクション・マネジャーになると、フィーを顧客に開示し、どこが下請けとして参加するのかをすべてオープンにします。また、彼らは全体の取りまとめ役として、下請けのコントロールやスケジュール管理に責任を持つだけでなく、品質的、技術的にきちんと工事が実施されているかどうかをチェックします。海外の場合はプロジェクトに関わる当事者のリスクを契約で明確にしますので、契約書で明記されていないリスクをコンストラクション・マネジャーである建設会社が負うこともありません。
「丸投げ」と同義の請負制度
これがどういうことか、2014年に発覚した横浜市の「傾斜マンション問題」を例にとって考えてみましょう。傾斜マンション問題では、事前の調査で判明しなかった特殊な地盤が原因で、工事が始まってから杭が短いと判明しました。
このケースでは、杭の長さが短く、地盤に届いてないと分かったわけですから、適切な長さの杭を再発注する必要があります。再発注の費用とスケジュール遅延に伴うコスト増については、契約に定めていない限り、コンストラクション・マネジャーのリスクにはなりません。契約の際に明示したリスクに含まれない事象については発注者のリスクになりますので、発注者が別途、費用を負担することになります。
しかし、請負という契約形態を取る日本では状況が大きく異なります。請負とは、元請けの建設会社が発注者に対して建物の完成を保証し、発注者はその対価の支払いを約束する契約です。対価を払うことで建物の完成を保証してくれるのであれば、発注者がプロジェクト全体に口を出すことはないでしょう。要は丸投げです。契約後、元請けが発注者に追加負担を求めることは難しく、「何で払う必要があるんだ」という反応なりがちです。
このケースでは、杭の長さが短く、地盤に届いてないと分かったわけですから、適切な長さの杭を再発注する必要があります。再発注の費用とスケジュール遅延に伴うコスト増については、契約に定めていない限り、コンストラクション・マネジャーのリスクにはなりません。契約の際に明示したリスクに含まれない事象については発注者のリスクになりますので、発注者が別途、費用を負担することになります。
しかし、請負という契約形態を取る日本では状況が大きく異なります。請負とは、元請けの建設会社が発注者に対して建物の完成を保証し、発注者はその対価の支払いを約束する契約です。対価を払うことで建物の完成を保証してくれるのであれば、発注者がプロジェクト全体に口を出すことはないでしょう。要は丸投げです。契約後、元請けが発注者に追加負担を求めることは難しく、「何で払う必要があるんだ」という反応なりがちです。
請負が合理的だった時代
故田中角栄元首相が日本列島改造論を提唱した時代、つまりどんどんインフラや建物を造らなければならなかった時代には、請負という契約形態がマッチしていました。大きな需要がある一方、建設業に関わる人は限られており、迅速につくる必要がある。そういった状況では、「あなたこれね、あなたこれね」と各社に仕事を分け、関係者の間で細かい取り決めをせずにつくっていく方が早いのは間違いありません。請負ではない契約形態であれば、各種インフラを一気に整備することなどできなかったでしょう。談合が生まれた理由もここにあります。
もう一つ、当時の企業や国・地方自治体は建設費に余裕があり、発注者と元請け・下請けの間に信頼関係がありました。発注者は法外に安い金額で発注することはありませんでしたし、元請けが下請けを叩いて、元請けだけが利益を取るようなことはありませんでした。こういった理由があったからこそ、日本では請負制度が浸透したのです。
今の時代でも、請負が向いているケースもあります。企業の生産施設など、金額やスケジュールが厳しい案件がそれに該当します。こうしたケースでは、請負の一形態であるデザインビルド(設計と施工を一元的化する発注方式)で受注することで、ゼネコンが設計と施工を担当して、全体をコントロールしながらコストを下げていくことができます。
また、発注者側がきちんとチェックできる体制ができている場合も請負が有効です。発注者のチェックが入っていれば手抜き工事は起きませんし、デザインビルドであればコストも下がるでしょう。下請けの原価をすべて開示してゼネコンのフィーを設定する場合、フィーは通常10%です。ただ、絶えず出店を繰り返す小売業や飲食チェーンなど、毎年経常的に仕事を任せている会社の中には「ゼネコンに10%も渡すのは嫌だ」というところもあるでしょう。そういう場合も請負が向いていると思います。
もう一つ、当時の企業や国・地方自治体は建設費に余裕があり、発注者と元請け・下請けの間に信頼関係がありました。発注者は法外に安い金額で発注することはありませんでしたし、元請けが下請けを叩いて、元請けだけが利益を取るようなことはありませんでした。こういった理由があったからこそ、日本では請負制度が浸透したのです。
今の時代でも、請負が向いているケースもあります。企業の生産施設など、金額やスケジュールが厳しい案件がそれに該当します。こうしたケースでは、請負の一形態であるデザインビルド(設計と施工を一元的化する発注方式)で受注することで、ゼネコンが設計と施工を担当して、全体をコントロールしながらコストを下げていくことができます。
また、発注者側がきちんとチェックできる体制ができている場合も請負が有効です。発注者のチェックが入っていれば手抜き工事は起きませんし、デザインビルドであればコストも下がるでしょう。下請けの原価をすべて開示してゼネコンのフィーを設定する場合、フィーは通常10%です。ただ、絶えず出店を繰り返す小売業や飲食チェーンなど、毎年経常的に仕事を任せている会社の中には「ゼネコンに10%も渡すのは嫌だ」というところもあるでしょう。そういう場合も請負が向いていると思います。
杭偽装につながった請負制度の欠陥
建設業界全体で見れば、請負が正当化された古き良き時代は終わっています。にもかかわらず、重層下請け構造や請負という契約形態は温存されているのが現状です。それが今回のような傾斜マンションをはじめ、さまざまな建設業界の問題につながった点は否めません。また、請負という形態を取ることで、建設コストが上がるケースもあるので注意が必要です。
建設会社は、公共工事、病院や学校などで多めに取った利益を使って他の赤字工事で出た分を穴埋めする場合があります。いわゆる「プール制」と呼ばれるものです。また、下請けに赤字で受注させた分を他の工事で補填することもあります。こういった裏の事情は発注者には全く分かりません。これはマンションについても同様で、購入者には何も見えていません。請負はこうした問題もはらんでいるのです。
建設会社は大きな利益が出るプロジェクトを抱える一方で、大手デベロッパーが手掛けるオフィスビルやマンションなど利益が薄いものもあります。これが表に出てしまうと、高値で契約した他の発注者から「なぜわれわれのプロジェクトは利益率が高いのか」とクレームがつくのは必至です。だから、原価が明示されるような発注方式ではやりたくないのです。
さまざまなものをブラックボックスに入れられる請負は、日本の建設業界にとって一番楽な発注方式と言えるでしょう。
建設会社は大きな利益が出るプロジェクトを抱える一方で、大手デベロッパーが手掛けるオフィスビルやマンションなど利益が薄いものもあります。これが表に出てしまうと、高値で契約した他の発注者から「なぜわれわれのプロジェクトは利益率が高いのか」とクレームがつくのは必至です。だから、原価が明示されるような発注方式ではやりたくないのです。
さまざまなものをブラックボックスに入れられる請負は、日本の建設業界にとって一番楽な発注方式と言えるでしょう。
WRITERレポート執筆者
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植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
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