REPORTレポート
リサーチ&インサイト
社会インフラPPPが急成長する必然
人口減少時代に突入している日本において、右肩上がりで市場の拡大が見込める分野はそれほど多くありません。新型コロナの直撃を受けている建設・不動産業界を見渡しても、今後の成長を牽引するような新しいビジネスはなかなか見当たらないのが実情ではないでしょうか。ただ、そのような中でも今後の伸びが期待できる分野が一つあります。社会インフラ整備です。
「老朽化するインフラを直すのは誰? 」でも書きましたが、都道府県や市町村は有料道路や上下水道、体育館などのインフラを保有・運営しています。空港や高速道路こそ国の直轄事業ですが、国内のインフラの大半を所有しているのは、実は地方自治体です。三井住友トラスト基礎研究所のデータによれば、その総額は約750兆円に達します。
こういったインフラは老朽化が進みつつあり、インフラの更新や改修が必要な時期に差し掛かってきていますが、加速する少子高齢化や新型コロナ対応による財政の悪化を考えれば、社会インフラの整備や改修を財政支出だけでまかなうことは難しくなるでしょう。そこで、期待されているのがPPP(Public Private Partnership)、すなわち社会インフラにおける官民連携です。
民間の創意工夫を縛る日本型PPP
これまでの記事でたびたび触れていますが、PPPにはインフラや施設の運営権を一定期間、民間企業からなるコンソーシアムに売却するコンセッションや、民間が施設を建てた後、施設の所有を行政に移して民間が運営を担うBTO(Build Transfer Operation)などさまざまな手法があります。
海外では空港や有料道路、アリーナなどさまざまな分野で活用されています。利用料収入だけではペイしない案件もありますが、そういった場合も行政が一定の財政支出(VGF)を担うことでPPPを実現させています。一部の財政負担をしたとしてもトータルの行政負担は抑えられますし、民間に運営を委託した方が効率化が図れるからです。それに対して、日本は空港コンセッションこそ実現したものの、それ以外の分野、例えば上下水道や有料道路などは道半ばです。
日本でPPPが普及しない主な理由は、「なぜ日本ではPFIが普及しないのか?」でも述べた通り、優良案件を抽出する仕組みがなく、PPPを投資として主体的に取り組む民間企業がまだまだ少ないこと、民間の創意工夫を活用する環境(地方自治法とPFI法の整合性や制度面の解釈を含む)や推進する人材が整備されていないこと、地方自治体の職員が前例踏襲で新たな取り組みに消極的で、公社などの運営団体に民営化への抵抗が存在することなど、複合的な要因があります。
もっとも、国の財政に余裕がない以上、民間のノウハウと資金を活用して効率的にインフラを整備、更新する以外に選択肢はありません。今はさまざまな障害があるとしても、遅かれ早かれ解消していくでしょう。そして、PPP市場が拡大するに違いないと考えるもう一つ理由は年金運用という側面です。
インフラ関連のセカンダリー市場も不可欠
海外では、約40兆円の資金が道路や上下水道などの社会インフラに投資されています。これだけの民間資金が社会インフラに注ぎ込まれているのは、ミドルリスク・ミドルリターンの長期優良資産とみなされているためです。
市民生活に不可欠な社会インフラは需要が安定しており、景気変動の影響は限定的。利用者は住民のため料金設定は慎重を期する必要がありますが、公社債よりは相対的に高いリターンが取れます。世界のインフラ投資の47%が年金関連という事実が示す通り、運用期間の長い年金基金には最適な投資先です。
ただ、160兆円超の運用資産額を誇る年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のインフラ投資は微々たるものです。インフラ投資はプライベートエクイティや不動産などを含むオルタナティブ資産に分類されていますが、そのオルタナティブ資産は2020年9月末でわずか0.6%に過ぎず、インフラ投資に至ってはすべて海外です。
国内の優良インフラのPPPを進め、自分たちの年金基金がそれに投資し、そのリターンを年金財源の一助にする──。このサイクルは、誰が見ても合理的に感じるのではないでしょうか。これも、日本における社会インフラPPPを拡大させなければならないと考える理由です。
そういった仕組みを作るには、前段の話に戻りますが、日本型PPPの問題点を潰し、社会インフラPPPの成功事例を作る以外にありません。その上で、インフラ投資のセカンダリー市場を構築し、運営権を取得し、実際の運営を手がけるSPCのエクイティやデットを自由に売買できる体制にする必要があります。
PPPの手法で社会インフラを整備する際には、民間企業のコンソーシアムによって設立されたSPCが資金調達や運営を担います。ただ、現状ではセカンダリー市場が未整備で、かつ持ち分の売却を禁じられている場合もあり、投融資に参加した企業や金融機関が20年、30年という長期にわたってエクイティやデットを保有し続ける必要があります。このリスクに二の足を踏み、社会インフラPPPへの参加を見合わせる企業も少なくありません。
日本政府も2020年7月に「PPP/PFI推進アクションプラン」を改定、2013~2022年の10年間で21兆円という事業規模を掲げました。それだけの潜在的なインフラが国内にあるということです。PPPによってインフラの整備や更新を効率化する。そうしてつくり上げたプロジェクトを年金基金などの機関投資家が投資し、中長期にわたって安定したリターンを得る。 自国のインフラに国民の年金を投入する。この弾み車が上手く回り始めれば、行政、国民、企業の三方よしが実現すると思うのですが、いかがでしょうか。
WRITERレポート執筆者
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植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
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