REPORTレポート

代表植村の自伝的記憶

日本のインフラ輸出に不可欠な視点

前回の投稿では、国内のPPP(Public Private Partnership:官民連携)のあるべき姿についてお話しました。人口減少社会に突入した日本において、老朽化したインフラを更新するにはPPPを活用する以外にありません。PPPを通してインフラ運営に経営の視点を導入することが、結果的に納税者であり受益者である住民の利益の最大化につながるという話です。
 
せっかくPPPについて話をしたので、今回は海外のPPPプロジェクトについて、お話できればと思います。
 
以前の投稿にも書きましたが、新興国や途上国でのインフラ整備は円借款のような貸し付けではなく、民間資金と公的資金を組み合わせたPPPにシフトしています。そもそも格付けが悪化するうえに、新興国・途上国の中には公的債務残高の上限を定めている国も多く、円借款のような貸し付けを安易に増やすと、債務残高の上限に抵触してしまうという事情があるからです。
 
しかも、世界の人口は2024年に81億人を突破し、2050年には97億人に増加すると言われています。その中でもアフリカの増加は大きく、人口25億人と、世界の人口の4分の1を占める見込みです。こうした経済圏のインフラ需要をまかなうという点でも、PPPの活用はますます重要になると思います。
 
 
今後、主流になるPPPの民間提案

こうした国々のPPPは、国が自らプロジェクトを立ち上げ、国際入札を実施するという通常の流れだけでなく、民間の事業者がその国の政府にプロジェクトを提案するケースが増える傾向にあります。例えば、フィリピン基地転換開発公社(BCDA)は100の基幹プロジェクトのうち、26はPPPで実施する方針を打ち出しました。
 
それではどういう提案なのかというと、以下のようなケースが考えられます。
 
例えば、車線を拡幅することで、交通量の増加が見込める高速道路があるとしましょう。その際に、30年の運営権を獲得できれば、路線の拡幅に必要な資金を民間の事業者が負担し、料金収入でまかないつつ道路の維持管理や周辺開発事業までを自分たちが手がけると提案するのです。首尾よくその国の政府が提案を採択すれば、随意契約、もしくは国際入札を実施し、その入札に参加します。
 
いわゆるアンソリシテッド・プロポーザル(非公募提案。以下アンソリ提案と呼ぶ)です。
 
ただ、費用をかけて調査したうえで提案している企業と、単に入札に参加しただけの企業を同一に扱うのはフェアではありません。そのため、提案した企業に一定の加点を与える、一定の期間を設けたうえで競合が現れ、その提案がアンソリ提案の対価を上回った場合には再チャレンジの機会を与える(いわゆるスイスチャレンジ)といった優遇措置を導入している場合がほとんどです。
 
 
日本はこの10年来、インフラ輸出を目標に掲げてきましたが、世界のインフラ市場に日本企業が出ていくのであれば、こうしたアンソリ提案を増やしていく必要があります。
 
海外のスマートシティは公共・民間・PPPの組み合わせ

海外のPPP案件に取り組むようになって感じていることですが、日本企業が海外のインフラプロジェクトに参入するためには、アンソリ提案でプロジェクトを作りにいくぐらいの気概がなければうまくいきません。
 
例えば、モンゴルやインドネシアなどでスマートシティプロジェクトが立ち上がっています。こうしたスマートシティプロジェクトでは、官民連携によって整備する部分と、公共投資、あるいは民間の投資に任せる部分に分かれています。
 
具体的に言うと、基盤となる道路や上下水道などのインフラについてはPPPを活用し、その上に建つホテルやマンションは民間に任せるという切り分けです。
 
道路や上下水道のような基盤インフラの場合、利用料収入だけですべての建設費をまかなうことが難しいため、PPPを活用して国の負担をできるだけ抑える。一方、ホテルやマンションのような収益物件は事業計画が立つため、その部分は民間資金に任せる。このような構造がある中で、インフラ部分の受注を日本として取りに行こうと思えば、計画段階から関与していく必要があります。
 
例えば、インドネシアは首都ジャカルタを含むジャワ島にあらゆるものが集まっています。そうしたジャワ島への一極集中状態から国土をバランス良く発展させるために、新首都「ヌサンタラ」の建設を急ピッチで進めています。インデックスもPPPによるインフラ開発のLOI(意向表明書)を提出しています。
 
この新首都建設計画では、建設に必要な資金4兆4000億円のうち、おおむね2割を公共投資、3割を民間投資、5割をPPP投資でまかなうと言われています。
 
実は、グループ会社のインデックスストラテジーが手がけているのは、このスマートシティプロジェクトのさまざまな部分の組成です。
 
「インフラ経営」まで含めた提案がカギ

以前の投稿でもお伝えしましたが、インデックスストラテジーは隈研吾建築都市設計事務所と組み、モンゴル・カラコルムのスマートシティプロジェクトのマスタープランを募集する国際入札で選定されました。われわれの提案のポイントは、カラコルムの広大な自然を残しつつ、気候変動や共生社会、イノベーションという課題に対応するというところでした。
 
 
こういった大規模なインフラプロジェクトに企画段階でかかわっていけば、日本企業を中心としたコンソーシアムの組成もできるでしょう。今の時代、プロジェクトのコンソーシアムをすべて日本企業で構成する「オールジャパン」は、現実的ではありません。これからのあるべき姿は、日本企業を中心としながら海外の企業と協業し、役割を分担する「コアジャパン」です。
 
なお、新興国や途上国にアンソリ提案をする場合に重要なのは、「整備する」という部分だけでなく、その前段階の資金調達や完成後のO&M(Operation & Management:運営・管理)、いわゆる「インフラ経営」までを含めた提案でなければならないというところです。
 
日本企業は自社の技術やサービスを前面に出して提案しがちですが、相手国の負担を最適化するための資金調達からO&Mまですべてを考えるような提案ができなければ、アンソリ提案はうまくいきません。
 
先日、アジア開発銀行(ADB)の駐日代表のお話をOPPS(PPP推進支援機構)の定例会議で聞く機会がありました。ADBではアジア太平洋地域の「戦略2030」として気候変動対策、企業の育成、公共財の地域開発、デジタルトランスフォーメーション、レジリエンスとエンパワーメントの5つを優先分野として位置付けました。
 
新興国・途上国が直面する課題に対して、さまざまな専門性を束ねた総合的な解決策を提供できれば、相手国の政府も喜んで提案を検討してくれるでしょう。正直、日本の競争力は年々落ちていると感じていますが、日本企業が持つ革新的な技術や資金調達のノウハウなどパートナーシップの価値を提供すれば、他国勢とも戦えます。ぜひ急拡大しているPPPプロジェクトにわれわれとともにチャレンジしてほしいと思います。
 
海外のアンソリ案件については、インデックスグループが運営に関わっている一般社団法人PPP推進支援機構で情報を出しているので、よろしければご覧ください。
 
【2024年12月18日掲載】
※このレポートは2024年11月25日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。

 

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