REPORTレポート
代表植村の自伝的記憶
インデックス・隈研吾チームが国際入札で選定!モンゴル・カラコルムスマートシティプロジェクトとは
先日の記事「隈研吾さんとの仕事で感じるグローバルに挑戦する姿勢と熱量」でも簡単に触れましたが、現在、モンゴル政府は旧首都のあったカラコルムに新たな都市を建造するスマートシティプロジェクトを進めています。
そのマスタープランを募集する国際入札には、54カ国から参加した428チームがノミネートされました。この入札では国民投票も実施され、選抜された36チームが現地でのプレゼンテーションに臨んでいます。
その最終結果が8月2日に発表され、私たち「Kengo Kuma with Index Group」を含む6チームが選ばれました。
1位は中国の最大手設計事務所と国営インフラ企業のJVなどからなる合同チーム、2位はインドネシアの首都移転を手がけるインドネシアのチームとシンガポール企業の合同チーム、3位はインデックスストラテジーを代表企業、隈研吾建築都市設計事務所をマスターアーキテクトとし、マレーシアやデンマークの企業を加えたコアジャパンチーム、4位がモンゴルと韓国の合同チーム、5位にはオーストラリアの大手設計事務所とモンゴル、フランス、ドイツの企業からなる2チームの複合チームが選ばれました。
5位までの順位付けは賞金の割り振りが目的のようでしたが、6チームのマスタープランはそれぞれ特色ある素晴らしいものでした。事実、1位の中国チームは参画メンバーを見ても一目瞭然なように、国をあげての取り組みだと感じさせるものでした。今後は5位入賞した6チームがモンゴル政府と協議し、共同で進めていくことになります。
中国、韓国、インドネシア、フランス、そして日本と、モンゴルと歴史的なつながりがある国や、政治・経済の面で関係の深い国が集まり、新たな都市のビジョンやコンセプトを議論し、世界屈指の自然共生型のスマートシティを作り上げる──。現在の世界情勢を考え見ても、とても意義のある取り組みになると思います。
隈研吾さんの提案はまるで江戸時代の街並み
チンギスハンが創始したモンゴル帝国の首都だったカラコルムは、現在の首都ウランバートルから西へ230km、モンゴル最長のオルホン川流域や美しい湖に囲まれる大高原です。その16万ヘクタールという広大な土地に、隈さんが描いたマスタープランのコンセプトは環境の保全、そして自然と建物と人の共生です。
カラコルムの地形を最大限残しつつ、自然との共生を軸に、テーマごとに都市機能を分散させる。そうして分散化された都市機能を最先端のインフラ技術でつなぎ、先々の首都移転も視野に入れて、おのおのに拡張性を持たせるという計画です。
また、様々な人が共存できるような、ダイバーシティのある都市を実現するため、これまでの成長型の都市開発とは一線を画し、従来の高層建築ではなく、低層の建物をかつての長屋のように並べています。政府庁舎やアリーナのような核となる建物は、隈さんが得意としている、木をふんだんに用いた大型木造建築で、街のモニュメントとして印象づけられています。
街のあり方は、まるで江戸時代の街並みのようですが、エネルギー、交通インフラ、通信は最先端のテクノロジーが駆使されており、イノベーションシティそのもの。こうしたSDGsを踏まえた都市のあり方について、その先見性と発想力は審査員の方々から高い評価を得ました。
総工費10兆円の巨大プロジェクトに立ちふさがる3つの課題
総工費が10兆円を超える巨大プロジェクトを具現化していくためには、3つの課題解決が必要になると考えています。
まずは資金の捻出。10兆円の資金の、少なくとも半分の5兆円はPPP(Public Private Partnership:官民連携)による資金調達で対応し、残りの5兆円はODA(政府開発援助)を含む民間投資になると思います。
モンゴルはPPPによるインフラ整備を積極的に取り組んでおり、日本政府が進めるグローバルサウスにおけるインフラ整備をPPPで促進するという政策の実現とも合致しています。今回、提案を受けたマスタープランに沿って、道路や水道など基幹インフラのPPPを早期に提案することが必要になります。
次の課題は、公共投資、民間投資、PPP投資のそれぞれのカテゴリーにおいて、EPC(設計/調達/建設)を担当する事業者と、O&M(Operation& Management:運営・管理)を手がける事業者を早い段階で組成することです。特に、スタートアップ企業が持つ最先端のイノベーション技術を実装するプラットフォームを作ることが求められます。日本に限らず、世界の企業にとって自社の技術を実装するまたとない機会になるはずです。
最後の課題として挙げられるのは、プロジェクトの実現に向け、G2G(政府対政府)とB2B(企業対企業)が国を超えてコンソーシアムを組成し、互いの力を結集させる仕組み作りです。
日本は海外のインフラPPPにおいて、すべてを日本企業で固める「オールジャパン」から日本企業がプロジェクトの核となる部分を担う「コアジャパン」に舵を切りました。私はカラコルムの自然共生型の街づくりを通じて、世界中の人と企業と資金が集まると考えています。
モンゴルの主要産業は、言うまでもなく鉱山です。ウランの埋蔵量は世界一と言われていますし、銅や石炭や金などまだまだ埋蔵されています。ただ、内陸国のモンゴルは中国とロシアに囲まれており、隣国を通らねば、これらの鉱山資源を外に輸出することができません。それゆえに、最先端技術を用いて一次加工や二次加工し、付加価値をつけて輸出すれば、さらなる発展につながります。
また、人口は約360万人と決して多くはありませんが、平均年齢は26歳と若く、新たなイノベーションを起こそうと目を輝かせる若者が大勢います。
モンゴルはかつて近くて遠い国と言われていましたが、2022年に外交関係樹立50周年を迎えました。モンゴル人大相撲力士に象徴されるように、人と人との交流、文化交流など相互理解が深まる中、その象徴として、モンゴルと世界を空で結ぶ新たな国際空港「チンギス・ハーン国際空港」が円借款で建設されています。この時のコンセッションには日本企業連合が参画し、2021年に開港しました。この空港もキャパシティオーバーとなり、新たな空港計画の話も進んでいます。
いまやモンゴルは日本にとって益々重要な国になりつつあります。今回のプロジェクトが日本とモンゴルの新たな未来を築く架け橋になればと思っていますので、今後ともご支援のほど、よろしくお願いいたします。
【2024年9月13日掲載】
※このレポートは2024年8月19日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。
WRITERレポート執筆者
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植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
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