REPORTレポート
代表植村の自伝的記憶
建築不正を未然に防ぐ、建設コストの原価開示するオープンブック方式
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少し前に、生コンの不正再利用に関する記事がヘッドラインを賑わせていました。川崎市の生コンクリート製造販売業者が余った生コンを再利用するために、新しい生コンに混ぜて出荷したという内容です。
建築基準法では、建築物の基礎や主要な構造部などに使うコンクリートは日本産業規格(JIS)に適合するか、国交相の認定を受ける必要があるとしていますが、JISでは古い生コンに新しい生コンを混ぜることは認めていません。
今回の生コン再利用は建築基準法に抵触する可能性が高い上に、建築物の長期的な安全性にも影響を与えかねません。その後の続報はないようですが、この生コンを使った建物は約50件に達しているという話です。その多くは住宅で、人生最大の買い物を揺るがす、由々しき問題だと思います。
このニュースを見て、私は17年前のことを思い出しました。
当時、インデックスは不動産ファンド向けの新築マンションモニタリング事業を手がけていました。プロの目線で、建築の途中や完成後に物件を入念にチェックし、問題があれば修正を要請するという仕事です。
2000年代前半からリーマンショックが起きるまで、不動産ファンドは優良物件を安定的に確保するため、完成前の物件を積極的に取得していました。「フォワードコントラクト」と呼ばれる不動産取引です。図面の段階で物件の売買契約を結ぶため、設計図通りに建物が施工されているかを確認する必要があったのです。
この時に、設計図通りに施工されておらず、設計で意図した耐震性や耐久性を発揮していない物件をしばしば目にしました。当社のエンジニアが指摘できたからいいものの、そのまま竣工していれば、将来的に大きな問題が起きていたかもしれません。
この問題については、2005年2月28日付けの日経ビジネス『増え続ける「危ない物件」 方より厳格な品質基準を』という記事で問題提起しました。ところが、残念なことに、同年11月に構造計算書を偽造した「姉歯事件」が発覚。その後も、旭化成建材による杭工事のデータ改ざんなど、建設工事を巡る不正が相次いでいます。
今回の生コン不正を目にして、17年経っても全く変わっていないと改めて感じています。
建築不正が起きる背景
なぜこういった不正が起きるのか。事情はそれぞれのケースで違うと思いますが、背景の一つとして挙げられるのは、過度の受注者叩きです。
建設業界は、重層下請け構造と呼ばれるピラミッド構造になっています。スーパーゼネコンを頂点に、準大手、中堅、地場ゼネコン、専門工事業者(一次下請け)、二次下請け、一人親方の職人と階層化されています。
2000年代は建設会社の数も多く、過当競争の状況にありました。マンション工事などで赤字受注が相次ぎ、赤字受注の負担を転嫁するため、下請けへの発注価格を抑えるということが横行していたわけです。その中で、力の弱い専門工事業者が、止むに止まれず工事の手を抜いたというケースが少なくありませんでした。
様々な不正が発覚したことで規制は厳しくなりましたが、今の物価上昇を考えれば、こういった受注者叩きが再燃し、新たな不正が今後も起こりかねないと思います。
先日、あるメーカーの竣工式で建設会社の幹部と話す機会がありました。その時に、発注者が昨今の物価上昇によるコスト増加分をなかなか認めてくれないと嘆いていました。
建設会社の現場の多くは請負契約のため、当初、契約した価格の中で建物を建てて顧客に納めます。公共工事のように発注単価が物価変動に連動しない民間工事の場合、物価が下落している時に差分がでれば利益になりますが、今のように材料費や人件費が上がっている場合は、その分を負担しなければなりません。
これはそういう契約なので仕方のないことですが、いつまでも建設会社が物価上昇の負担を抱え続けるわけにもいきません。この先、新規の工事が減り、需要と供給のバランスが逆転すれば、どこかで下請けにしわ寄せが来る可能性があります。
オープンブックが必要だと思うわけ
それを防ぐには、請負契約からオープンブック方式(原価開示方式)に主軸を転換することが一番だと私は考えています。
原価開示方式とは、元請業者が発注者に対して、専門工事業者への発注金額などすべてのコストに関わる情報を開示し、その内容が適正かどうか、発注者または第三者が精査する方式のことです。設計や工事などで要したコストにフィーを乗せて支払うため、「コスト+フィー」方式とも呼ばれます。
この方式だと、発注段階で専門工事業者に支払われるフィーが明確になるため、下請け叩きは基本的に起きません。また、建設会社のフィーを正当化するために自身の役割と責任を明確化する必要がありますが、一定のフィーは確実に手に入ります。コストがガラス張りになるため、請負契約のように大儲けもありませんが、大損することもないフェアな契約形態です。まさに三方良しです。
請負契約とは異なり最初に利益が確定するので、今の建設会社にはつまらない話かもしれません。でも、VE(バリューエンジニアリング)などインセンティブを付与すれば、技術力を発揮したりAiを導入したりと、さらなる利益につなげることも可能です。
これは、岸田政権が掲げる「新たな資本主義」の実現に向けた、建設業界における資本の再分配にも寄与するでしょう。また、新たなインフラ事業におけるPFI/PPPの拡大が進むことを考えれば、オープンブックは地方経済の活性化に欠かせないツールです。
従来型の社会システムを変革し、建設業界は日本特有の重層下請け構造から脱却すべき時が来ました。先に述べたオープンブックを公共事業に導入し、徐々に民間の発注者に広げていく。そんな発注方式への展開も、これからの官民連携のあるべき姿だと思います。
WRITERレポート執筆者
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植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
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