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建設業界の不毛な消耗戦を避ける一石三鳥の献策

人口減少や高齢化に伴う日本経済の縮小は、国内で戦っている企業に大きな影響を与えていますし、これからも与えるでしょう。今後、公共工事が大きく増えないということを考えれば、とりわけ建設業は厳しい状況に陥ることが予想されます。その結果として起きることは何でしょうか。大手ゼネコンと地方ゼネコンによる限られたパイの奪い合いです。
 
国内の建設需要が縮小すれば、今は東京や大阪など大都市の建設プロジェクトを手がけている大手ゼネコンも、地方の公共工事を積極的に取りにいくようになるでしょう。そうなれば、地場のゼネコンがダメージを受けるのは間違いありません。
 
もちろん、建設業界が過当競争にあり、事業者の統廃合を進める必要があるという指摘はその通りかもしれません。ただ、土砂災害など頻発する災害に対処するため、それぞれの地域に根ざした地方ゼネコンは間違いなく必要とされる存在です。つまり、大手ゼネコンと地方ゼネコンが共倒れにならず、うまく市場を棲み分ける方法を考える必要があるということです。
 
その一つの解として、国内のPFIなど国内のPPPを活用すべきだと考えています。
 
 
 
官民連携プロジェクトに不可欠なオープンブック方式
 
 
以前のポストで述べたように、私は愛知県の政策顧問として愛知県有料道路や愛知県新体育館(新アリーナ)、愛知県国際展示場などのPPPプロジェクトに関わりました。この3つは数百億から数千億円規模の大プロジェクトでしたが、自治体が所有する施設が老朽化しつつあること、さらには新規建設や更新の財源が限られていることを考えれば、プロジェクトの大小に限らず、PPPを活用した施設整備や社会インフラ整備は今後、増えていくはずです。
 
こういった地方のPPPプロジェクトを地方ゼネコンや地域金融機関といった地域のプレイヤーが提案、企業コンソーシアムを組成し、自らPPPの代表企業や構成企業になれば、事業の存続だけでなく、老朽化した施設や社会インフラの更新や地域経済の活性化につながると考えています。一石二鳥ならぬ一石三鳥です。
 
ただ、これから地方でのPPPプロジェクトを進める場合には、従来のPFIとは異なる仕組みや制度が必要になります。その一つと私が考えているのが入札におけるオープンブック方式の導入です。
 
オープンブック方式とは、入札の際にゼネコンなどの元請業者が専門業者への発注金額を発注者に開示し、その金額が妥当かどうかを発注者や第三者が精査する仕組みのこと。技術力やマネジメント力、コスト削減力という元請業者の強みを生かせる上に、すべてのコストが明らかになることで、不当な下請け叩きを防ぐことができるというメリットがあります。
 
元請業者のビジネスがフィービジネスだということを考えれば、入札金額は元請業者のフィーと、材料費や労務費といった下請け業者のコストです。こういった下請けのコストを適正に確保すれば、技能労働者(職人)の賃金の適正化や平準化につながります。現状、技能労働者の賃金は建設需給によって変動していますが、賃金の適正化や平準化が進めば、人材確保にも寄与するでしょう。そうなれば、一石四鳥です。
 
国土交通省は「建設キャリアアップシステム」を導入しています。技能労働者の技能や職歴を登録し、賃金や待遇の適正化を図ることがその目的ですが、登録済みの技能労働者は目標に届いていません。オープンブック方式による原価開示が進めば、データベースに登録する技能労働者も増えるはずです。
 
このように、地方のPPPプロジェクトに参画することは、地方ゼネコンにとっても大きなメリットがあると考えています。
 
もちろん、ただPPPプロジェクトを導入すればいいというものではありません。
 
 
 
大手ゼネコンのすべきこと
 
 
先ほど述べたオープンブック方式の導入は大前提として、現状のPFIで問題になっている様々な問題、例えば、入札に参加するSPCの構成企業と建設や維持管理を手がける企業の利益相反、あるいはPFIが建設工事にかかるコストの割賦払いに過ぎず、完成した施設の売り上げ増やコスト削減などができていないことなどを解決する仕組みが必要になります。
 
ちなみに、愛知県新アリーナでは、入札の募集要項でSPCに建設会社や維持管理会社の参画を必要としませんでした。工事の受注を目的としたPFIの参画や維持管理費で建設コストを回収するなど、ライフサイクル全体で費用が膨らむ工事費の「割賦払い」を防ぐためです。
 
いずれにせよ、PPPを活用することで地方の建設業の継続的な発展、老朽化した施設の更新、地域活性化、専門事業者や技能労働者の待遇改善が可能だということです。
 
それでは、大手ゼネコンはどうすればいいのでしょうか。大手ゼネコンも国内の大型PPPへの参画を通じて経験と実績を積む必要はありますが、技術力や資金力、専門人材に長けた大手ゼネコンは拡大する海外市場に積極的に打って出るべきです。
 
過去の記事でも書いているように、世界では有料道路や上下水道など社会インフラのPPPが拡大しています。インデックスもベトナムやガーナ、フィリピンなどで有料道路やスマートシティに関するPPPに取り組んでいます。われわれがこういった海外PPPを手がけているのは、プロジェクトマネジメントを通して世界に貢献するとともに、日本企業が海外の社会インフラPPPに参画する道筋をつくるため。事実、海外の社会インフラPPPでは、日本企業の技術力やノウハウ、資金が求められています。
 
2030年に持続可能な建設業界のあるべき姿として、大手ゼネコンは海外に、地場ゼネコンは地域のPPPに、という棲み分けが、国内の不毛な消耗戦を避ける一つの方策だと思いますがいかがでしょうか。

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