REPORTレポート
代表植村の自伝的記憶
『倫理資本主義』のマルクス・ガブリエル氏を招いたシンポジウムで感じたこと
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去る8月28日、東京大学・安田講堂で、ドイツの哲学者、マルクス・ガブリエルさんを招いた特別講演を開催しました。早川書房から出た新刊『倫理資本主義の時代』の刊行記念講演で、主催は新刊を出版した早川書房とインデックスグループです。
インデックスグループはここ数年、一般社団法人建設プロジェクト運営方式協議会(CPDS)、一般社団法人環境未来フォーラム(KMF)、一般社団法人PPP推進支援機構(OPPS)の関連三団体と、海外の思想家を招いたシンポジウムを開催しています。
2020年9月はフランスの思想家で経済学者のジャック・アタリさん、2021年12月には米国の政治哲学者でハーバード大教授のマイケル・サンデルさん、2022年12月には、グラミン銀行を設立し、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスさん、その後は少し時間が空きましたが、今年8月にマルクス・ガブリエルさんを招くことができました。
当日はガブリエルさんの講演に加えて、彼と親交の深い哲学者の中島隆博さん(東京大学教授)、アフリカをベースに活躍する文化人類学者の小川さやかさん(立命館大学教授)、ガブリエルさんのお三方によるパネルディスカッションも実施されました(ファシリテーターは私が務めました)。
世界で最も注目を集める哲学者の来日公演ということもあり、当日は1100人を超える人々が会場に足を運んでくれました。安田講堂の2階まで聴衆が入っていましたが、東京大学の関係者によれば、あそこまで埋まることは記憶にないそうです。改めてお越しいただいた方々には御礼申し上げます。
ガブリエル氏が唱える倫理資本主義
『倫理資本主義の時代』をお読みになった方はご承知のように、ガブリエルさんは今の資本主義が抱える様々な問題に対して、資本主義を否定するのではなく、そこに倫理や道徳という価値観を持ち込むことで、資本主義をいい方向に変えていこうという立場です。
批判し、破壊するのではなく、今の枠組みの中でも資本主義を変えることができる──。そんな建設的な提案を哲学の方法論を用いて主張しているからこそ、ガブリエルさんはグローバルで幅広い支持を得ているのだと思います。
今回の講演でも、企業はそもそも道徳的な存在であり、人や社会にとって「善」となる行動をとっても利益を出すことは可能だということ、そうした振る舞いをする企業が増えれば世界は自ずと変わっていくと明言していました。
プールで溺れている子どもがいれば、誰の子かどうかに関係なく助けに行くのが人間というもの。そこには民族や宗教、文化、政治的立場などを超えた根本的な倫理が存在します。であるならば、倫理と資本主義は融合できる。それが、講演を通してガブリエルさんが伝えたかったことだと思います。
今回の話を聞き、改めて「知の巨人」と言われる方々の見ているところは同じだと感じました。
資本主義によって人々は豊かになりましたが、その恩恵を受けられず、貧しい状況に置かれている人は数多くいます。しかも、先進国の中でさえ容認できないほどの格差が広がっている。気候変動に代表される環境問題も、資本主義によって引き起こされたものです。
そうした地球規模の課題に対して、アタリさんは「利己」ではなく「利他」を、サンデルさんは「驕り」ではなく「謙虚さ」を、ユヌスさんは「利益の追求」ではなく「利益の共有」を説きました。それぞれの学問的なバックボーンも使っている言葉も違いますが、結局のところは倫理であり道徳をいかにして既存システムに組み込むのかという話です。
もちろん、それは簡単なことではありません。ただ、人は道徳的な存在であり、すべての土台となる共通の倫理が哲学的に存在するというガブリエルさんの言葉は、一筋の希望だと感じました。インデックスは日本人の魂とも言える「悉皆」や「三方良し」という理念を掲げています。私もひとりの企業人として、ビジネスを通して「善」を実践していきたいと思います。
シンポジウムで講演するマルクス・ガブリエル氏(写真:Aya Watada、以下同)
パネルディスカッションではファシリテーターを務めさせていただきました
【2024年10月03日掲載】
※このレポートは2024年9月9日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。
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