REPORTレポート
少し前の話になりますが、6月上旬、日本建築センターの関係でインドネシアを訪問する機会がありました。今年10月、現国防相のプラボウォ氏が次期大統領に就任するのを前に、次期体制のキーパーソンの一人とみられているプラボウォ氏の実弟のハシム氏、そして日本とインドネシアの架け橋でもあるゴーベル国会副議長に会うのが私の主たる目的でした。
現在、インドネシアは首都移転プロジェクトを進めており、インデックスグループも現地企業と組んで何件かのLOI(Letter of Intent:意向表明書)を提出しています。また、泥炭地の管理や植林事業に関するコンセッション事業を住友林業が提案しており、その提案についても支援しています。
泥炭地は大量の水と炭素を内部に抱えており、無秩序に開発してしまえば二酸化炭素が大量に放出される恐れがあります。現状、泥炭地を満たしている水を排水して農地などに活用していますが、排水した後の乾燥した泥炭は燃えやすく、広範囲な火災などを引き起こしています。
それに対して、住友林業は泥炭地を持続的に活用するため、水を抜かない貯水型の泥炭地管理を進めており、この技術を使えば、泥炭地での植林事業や米栽培が可能になります。住友林業はこの泥炭地管理を活用した実証プロジェクトをインドネシア政府に提案しており、実現すれば、世界の泥炭地から排出される大量の二酸化炭素が削減されるに違いありません。
泥炭地の再生は気候変動の緩和にとって極めて重要です。加えて、泥炭地をうまく活用できれば、食料問題の解決にもつながります。環境問題と食料問題は先進国入りを目指すインドネシアにとって重要な取り組み。今回の大統領の交代でも、これまでの路線が変わることはないと思います。
一方、ジョコ大統領が牽引してきたカリマンタン島への首都移転プロジェクトについては、担当の長官が更迭されるなど不安なこともいろいろ起きていますが、プロジェクト自体が停滞したり、大きく方向性が変わったりすることはないという感触を得ました。
また、今回の訪問を通して、新政権が重視するであろう分野をある程度、理解することができたのも収穫です。
需要の急増が見込めるアフォーダブル・ハウジング
その一つは、アフォーダブル・ハウジング(手ごろな価格で手に入る住宅)の供給です。
インドネシアでは、2024年までに世帯数の70%の住宅所有を目指しています。特に、一般的なミレニアム世代(25歳~35歳)の若者が購入できるリーズナブルな住宅が不足しており、一説によれば、1500万人分の住宅が不足しているそうです。
インドネシアの人口は約2億7000万人で、世界第4位の規模ですが、出生率は低下しています。その要因の一つとして住宅不足が挙げられています。子どもをもうけても住む家がないと考えている若い層が増えているのです。
もちろん、ただ安価な住宅を作るのではなく、脱炭素に資するようなスマート化、デジタル化されたスマートハウスを供給する必要があります。
この部分で、日本企業もできる部分がかなりあるように感じました。「リーズナブルな」というところが日本企業はあまり得意ではありませんが、プレハブとDXを組み合わせたアフォーダブルハウジングは、人口増による住宅事情が悪化するアフリカ大陸においても一つの成長市場だと思うので、ぜひ日本企業には頑張ってほしいと思います。
※【掲載の写真について】インドネシアでは手ごろな価格の住宅が不足している(Image by Iqbal Nuril Anwar from Pixabay)
【2024年7月12日掲載】
※このレポートは2024年7月4日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。
WRITERレポート執筆者
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植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
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