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国別PPP事業のA to Z|ベトナム編

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これまで日本企業はODA(政府開発援助)を中心として海外における公共・社会インフラ整備に参画していました。しかしながら、最近は債務の増大を嫌う国が多く、インフラ投資の主体は政府債務であるODAから民間資金の導入を前提にしたPPP(Public Private Partnership:官民連携)にシフトしつつあります。日本企業が持つ高度な技術力や施設運営といった民間のノウハウを求める国も増えています。
 
そこで、今後増加する日本企業の海外インフラプロジェクト参画に関わる検討で欠かすことのできない基礎調査として、法律、汚職、経済自由度などから諸外国の状況を把握する「国別PPP事業のA to Z」シリーズを展開していきます。
 
具体的に、今回は東南アジアの途上国であるベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)について、世界銀行(World Bank)などが公表しているPPP法律整備、起業指数、汚職指数、経済自由度指数などに基づいて、下記の観点より紹介します。


目次
1. ベトナムについて
2. 経済自由度
3. 起業指数
4. 汚職指数
5. ベトナムのPPPプロジェクト
6. PPPに関する法律整備
7. まとめ

1. ベトナムについて

① ベトナムの概要について
インドシナ半島の東海岸にあるベトナム国土は南北に伸びており、北は中国、西はラオス、南西はカンボジアと接しており、東と南は南シナ海に面しています。首都は国土の北に位置するハノイであり、南に位置するホーチミンは第二の都市です。(下図1参照)

図1ベトナムの位置
図 1 ベトナムの位置
出典:外務省「ベトナム社会主義共和国」に基づいて作成、2021年11月22日参照
 

また、ベトナムの「人口」「GDP」「経済成長率」「物価上昇率」「主要産業」など、基礎データについては下記表の通りです。
 
表 1 ベトナムの基礎データ
項目 内容 備考
面積 329,241㎡  
人口 約9,762万人 2020年、越統計総局
言語 ベトナム語  
GDP 約3,406億米ドル(7,972兆ドン) 2020年、IMF推計値
経済成長率 2.91% 2020年、年平均、越統計総局
物価上昇率 3.23% 2020年、年平均、越統計総局
通貨 ドン(Dong) 1ドン=0.0055円(2022/5/22)
時差 日本時間 -2時間  
政治体制 社会主義共和国  
主要産業 農林水産業(GDPの14.85%)
鉱工業・建築業(同33.72%)
サービス業(同41.63%)
 
日系法人進出数 1,160法人 外務省「海外進出日系企業拠点数調査」の
「本邦企業が100%出資した現地法人」数
出典:外務省「ベトナム社会主義共和国基礎データ」に基づいて作成、2022年5月23日参照
 
 
② 日本との関係について
日本とベトナムは1973年より外交関係を樹立しています。1978年末のベトナム軍カンボジア侵攻に伴い、1979年度以降の対越経済協力の実施を見合せましたが、1991年のカンボジア和平合意を受け、1992年に455億円を限度とする円借款を供与しています。現在、日越関係は「アジアにおける平和と繁栄のための広範な戦略的パートナーシップ」の下、政治、経済、安全保障、文化・人的交流など幅広い分野で緊密に連携しています。
 
日越間の交流の増加を受けて、現在は在大阪ベトナム総領事館、在福岡ベトナム総領事館、在釧路ベトナム名誉領事館と在名古屋ベトナム名誉領事館が開設されています。日本側は、在ベトナム日本国大使館(ハノイ)、在ホーチミン日本国総領事館、在ダナン領事事務所が設けられています。

また、日本とベトナムは以下の取極を締結しています。(2022年1月18日現在)
✓ 航空協定(1994年)
✓ 青年海外協力隊派遣取極(1994年)
✓ 租税協定(1995年)
✓ 技術協力協定(1998年)
✓ 科学技術協力協定(2006年)
✓ 日越投資協定(2004年12月発効)
✓ 日越経済連携協定(2009年10月発効)
✓ 日越原子力協定(2012年1月発効)
✓ 日越受刑者移送条約(2020年8月発効)
 


2. 経済自由度

本章では、ベトナムにおける経済の自由さについて、The Heritage Foundationにより様々な指標からスコア化された経済自由度に基づいて紹介していきます。
 
ベトナムの経済自由度スコアは60.6で、2022年ランキングでは184カ国のうち84位の自由度になっています。ベトナムは、アジア太平洋地域の39カ国の中で18位にランクされており、地域平均および世界平均を上回っています。(下図2参照)
 
図 2 ベトナムの経済自由度スコア
図 2 ベトナムの経済自由度スコア

出典:The Heritage Foundation 「Vietnam」に基づいて作成、2022年5月23日参照


ベトナムの経済は、「中程度の自由度」に入っていますが、これは2021年が初めてで、これまでは「ほとんど自由でない」以下のスコアに属していました。(下図3参照)

図 3 ベトナムの経済自由度スコアの推移
図 3 ベトナムの経済自由度スコアの推移

出典:The Heritage Foundation「Vietnam」に基づいて作成、2022年5月23日参照


政府が投資ルールや金融セクターの自由化に向けてさらなる行動を起こせば、ランキングはさらに上昇すると見込まれている一方、ベトナムの経済的自由度を高める上での障害として「縦割りの司法機関」「非効率な国有企業における汚職の頻発」「法の支配力の弱さ」が挙げられます。
 
ベトナムは、共産主義の独裁国家であり、反体制的な政治的見解に対する抑圧と市民的自由の欠如が目立ちます。しかしながら、経済の自由化は1986年のドイモイ改革により、より産業的で市場ベースの経済への移行を目指しています。グエン・タン・ズン(Nguyen Tan Dung)前首相就任時には、観光業や製造業を中心とした経済成長が見受けられ、グエン・フー・チョン(Nguyen Phu Trong)書記長兼大統領就任時には、国家レベルでの経済自由化が進みました。
 
続いて、ベトナムにおける司法制度の自由度指数についてみてみると、「資産権利」、「司法有効性」と「廉潔」はいずれも「自由でない」と低いスコアとなっています。これは、資産権利の保護は発展途上であり、執行にはばらつきがあるからです。例えば、国はすべての土地を所有しているが、ほとんどの土地に土地権利証明書が発行されています。とはいえ、土地所有権は未だに大きな課題となっています。司法は未発達で、政府全体にわたり汚職が蔓延しており、ベトナム共産党に従属しています。(下図4参照)

 
図 4 ベトナムの司法制度の自由度指数
図 4 ベトナムの司法制度の自由度指数

出典:The Heritage Foundation「Vietnam」に基づいて作成、2022年5月23日参照

 
また、ベトナムの政府規模指数では、「税負担」「政府の支出」は「自由」、「経済健全性」は「ほとんど自由」と高いスコアになっています。(下図5参照)
 
ベトナムの具体的な税制については、個人の最高所得税率は35%、法人は20%となっています。その他の税金としては、付加価値税や固定資産税などがあり、全体の税負担は、国内総所得の18.5%に相当します。なお、過去3年間の政府支出はGDPの21.6%であり、財政赤字は平均してGDPの2.9%でした。公的債務はGDPの42.9%に相当します。
 
 
 
図 5 ベトナムの政府規模指数
図 5 ベトナムの政府規模指数

出典:The Heritage Foundation 「Vietnam」に基づいて作成、2022年5月23日参照

 

ここで、ベトナムにおけるビジネスの自由度を規制効率指数に基づいて見てみると、「事業の自由」「雇用の自由」は他国の平均と概ね同じスコアである一方、「金融の自由」については世界平均より若干低いスコアとなっていることが分かります。(下図6参照)
 
なお、2019年の新しい労働法により、労働契約に柔軟性が付加されました。また、政府は多くの支局を設置し、燃料、エネルギー、水道事業、食品、天然資源、医薬品の価格を管理しています。

 
図 6 ベトナムの規制効率指数
図 6 ベトナムの規制効率指数

出典:The Heritage Foundation「Vietnam」に基づいて作成、2022年5月23日参照


ベトナムの自由市場指数についてみてみると、「貿易の自由」は他国平均と比較して高いスコアである一方、「経済の自由」は概ね平均の水準、「投資の自由」については他国平均より低い水準にスコアされています。(下図7参照)
 
例えば、貿易については、ベトナムでは13の特恵貿易協定が発効し、貿易加重平均関税率は5.5%、そして83の非関税措置が発効しています。また、投資のフレームワークは、カテゴリが「自由でない」と低いスコア水準にあるものの、全体的に改善され続けており、外国直接投資に関するいくつかの改正が採択されています。そして、金融分野では依然として国が関与しており、正規の銀行サービスを利用しているのは成人ベトナム人の約30%に過ぎません。

 
図 7 ベトナムの自由市場指数
図 7 ベトナムの自由市場指数

出典:The Heritage Foundation「Vietnam」に基づいて作成、2022年5月23日参照

 
3. 起業指数

本章では、各経済圏の最大のビジネス都市で、中小の有限責任会社が起業して正式に営業するために必要な手続数・時間・コスト、すなわち起業指数について紹介していきます。また、企業に付随すると予測される「建設許可取得」・「電力取得」・「資産登録」のそれぞれに必要な手続を簡易的にまとめています。(下表2~5参照)
 
なお、起業指数の算出に使用される企業の想定条件は以下の通りです。
✓ 100%国内で所有
✓ 一人当たり所得(income per capital)の10倍に相当する創業資金を持つ
✓ 一般的な工業または商業活動を行う
✓ 操業開始から1ヵ月後に10人~50人の従業員を雇用
✓ 経営陣・従業員全員がベトナムの国民である
 
注1:各下表の日数列の(▲)は、該行程は前行程と同時に実施できることを意味する。
注2:各下表において、日数列および費用列の合計値は目安値である。
 
表 2 起業に必要な手続き
No. 手続き詳細 日数 費用 円換算
手続き概要 手続き先 合計:16日間 合計:305万ドン 約15,250円
1 会社名の確認
事業登録証明書、税務登録証明書の取得
登録内容をNBRPに公開
企画・投資局企業登録事務所
(Business Registration Office,
Department of Planning & Investment)
3日間 登録料:100,000ドン
(オンラインの場合は無料)
NBRPへの公開:300,000ドン
約500円
約1,500円
2 社印の作成 印鑑メーカー 1日間 450,000ドン 約2,250円
3 社印サンプルのオンライン通知の提出 企業登録事務所 1日間 費用なし -
4 銀行口座の開設 銀行 1日間 費用なし -
5 VAT請求書を市税局で承認 地方税務局 10日間 1請求書本あたり200,000ドン 約1,000円
6 営業許可税の支払い 税務局・商業銀行 1日間未満
(オンラインで実施)(▲)
200万ドン(資本金額による) 約10,000円
7 現地労働局に登録し、労働力の使用を申告する 市町村の労働・障害・社会問題
担当部局
1日間(▲) 費用なし -
8 健康保険および社会保険の支払いのための社会保険基金への従業員の登録 社会保険基金 1日間(▲) 費用なし -

出典:世界銀行「Doing Business」に基づいて作成、2021年11月22日参照、1ドン=0.005円として算出


表 3 建設許可に必要な手続き
No. 手続きの詳細 日数 費用 円換算
  手続き概要 手続き先 合計:166日間 合計:1,400万ドン 約70,000円
1 警察庁から消防・防災設計の認定を受ける 消火・防火局 30日間 242,943ドン 約1,215円
2 建設省に建設許可を申請し、取得する 省人民委員会 82日間 150,000ドン 約750円
3 建設省に工事開始を通知し、検査を受ける 省人民委員会 1日間 費用なし -
4 基礎工事完了後、自治体に検査を依頼し、検査を受ける 省人民委員会 3日間 費用なし -
5 外構完工時点で自治体に検査を依頼し、検査を受ける 省人民委員会 3日間 費用なし -
6 上下水道接続の申請 各自治体水道局 1日間 400万ドン 約20,000円
7 水道局による検査を受ける 各自治体水道局 1日間 費用なし -
8 上下水道へ接続 各自治体水道局 14日間 費用なし -
9 建物完成後の自治体への通知と検査の実施 省人民委員会 1日間 費用なし -
10 環境保護計画の認定を受ける 国家資源環境省 30日間 960万ドン 約48,000円

出典:世界銀行「Doing Business」に基づいて作成、2021年11月22日参照、1ドン=0.005円として算出


表 4 電力取得に必要な手続き
No. 手続きの詳細 日数 費用 円換算
手続き概要 手続き先 合計:31日間 合計:5億4,400万ドン 約2,720,000円
1 電力局に申請を提出し、承認される 各自治体電力局 4日間 費用なし -
2 電力局による検査を受ける 各自治体電力局 1日間(▲) 費用なし -
3 工事実施 各自治体電力局 or 民間企業 20日間 5億4,400万ドン 約2,720,000円
4 電力によるメーター設置および接続 各自治体電力局 7日間 費用なし -

出典:世界銀行「Doing Business」に基づいて作成、2021年11月22日参照、1ドン=0.005円として算出


表 5 資産登録の必要な手続き
No. 手続きの詳細 日数 費用
手続き概要 手続き先 合計:53.5日間 合計:資産価値による
1 土地の使用権と土地に付随する資産の所有権の移転を申請 土地登録局 1日間 4,000ドン
2 公証人による物件の抵当権の確認 公証人 1日未満 費用なし
3 物件所在地域の公証人立会いの下、買い手と売り手が契約書に署名 公証人 3日間 100万ドン+10億ドンを
超える金額の0.06%
4 土地使用権譲渡所得税と登録料を該当税務局で支払う 各自治体税務局 28日間 資産価値の0.5%
5 土地使用権の譲受人が土地を使用する権利を登録 土地登録局 21日間 所有権移転:5万ドン
新規登録:35万ドン

出典:世界銀行「Doing Business」に基づいて作成、2021年11月22日参照
 

また、2010年以降、ベトナムは下表6の取り組みを経て起業指数の向上に努めています。
 
表 6 ベトナムの起業指数向上への取組
変革年 分野 内容
2011 起業 ・営業許可証と税務許可証の取得をワンストップ化
・会社のライセンス取得に社印不要
2013 起業 ・自家印刷したVATインボイスの使用を承認
2016 起業 ・社印の彫刻・登録にかかる時間を短縮
電力取得 ・接続申請や接続工事の設計の承認における遅延の低減と効率化
・中圧系統への接続に必要な消防署の変電所証明書の取得が不要になった
2018 電力取得 ・電力供給の信頼性を高めるために、SCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)と呼ばれる自動エネルギー管理システムを導入
2019 起業 ・会社設立の通知をオンラインで発行し、企業登録のコストを削減

出典:世界銀行「Doing Business」に基づいて作成、2021年11月22日参照
 
4. 汚職(廉潔)指数

本章では、Transparency Internationalという汚職排除活動の国際組織が集計している「汚職認識指数(Corruption Perceptions Index)」、および、同組織が調査する「世界汚職バロメーター(Global Corruption Barometer)」を元に、ベトナムの汚職(廉潔)指数を紹介していきます。
 
2020年におけるベトナムの公共機関がTransparency Internationalから受けたスコアは36点であり、集計された180か国中104位となりました。過去5年間の推移を見ても、スコアは35点前後、世界の中の順位は100位前後、と横ばいとなっています。(下図8参照)


図 8 ベトナムの廉潔指数および世界順位の推移
図 8 ベトナムの廉潔指数および世界順位の推移

出典:Transparency International「CORRUPTION PERCEPTIONS INDEX」に基づいて作成、2021年11月22日参照
 


ベトナム国民(18歳以上)1,085人に対してヒアリングされた「賄賂経験」や「汚職実体験」に基づいて統計された「世界汚職バロメーター」では、以下の結果が明らかとなりました。

✓ 回答者の64%が政府の汚職は「問題である」・「深刻な問題である」と考えている
✓ 回答者の15%は過去12か月中に「公共機関が提供するサービスを利用するのに賄賂を支払った」と回答
✓ 回答者の39%は過去12か月中に国内の汚職が「増加していると思う」と回答
✓ 回答者の43%は、政府が汚職を抹消するために十分な取り組みを「実施していないと思う」と回答
 
また、回答者の10%以上が下記の公共機関およびその職員は「廉潔ではないと思う」と回答しています。

✓ 中央政府以外の政府職員(10%)
✓ 警察組織および警察官(17%)
✓ ビジネスの役員およびオーナー(12%)
✓ 交通警察(25%)
✓ 税務職員(14%)
 
5. ベトナムのPPPプロジェクト

ベトナムでは2000年以降、計139のプロジェクトがファイナンシャル・クローズを迎えており、計2,705億ドルがPPPプロジェクトに投資されており、世界のPPP投資額が統計されている112か国中11位と大きな市場となっています。(下図9-10参照)
 
注力されているセクターは圧倒的に電力(発電、送電網等)ですが、近年は公共インフラの各セクター(港湾、道路、上下水道)への投資も加速しています。


図 9 セクター別プロジェクト数(2000年以降、資金調達手続き完了済み)
図 9 セクター別プロジェクト数(2000年以降、資金調達手続き完了済み)

出典:世界銀行「Infrastructure Finance, PPPs & Guarantees」に基づいて作成、2021年11月22日参照



図 10 セクター別投資額(百万米ドル)(2000年以降、資金調達手続き完了済み)
図 10 セクター別投資額(百万米ドル)(2000年以降、資金調達手続き完了済み)

出典:世界銀行「Infrastructure Finance, PPPs & Guarantees」に基づいて作成、2021年11月22日参照

 

続いて、ベトナムの各セクターにおける最大プロジェクト(最大総投資額、運営段階のもの)を紹介します。
 
表7が示す通り、セクター別最大プロジェクトをみてみると、電力セクターへの投資規模が顕著ですが、これら7つのプロジェクトは総プロジェクト数の5%でしかないものの、その合計額は、ベトナムのPPPへの総投資額の20%以上も占めています。そして、主要民間企業はベトナム外企業が多く、PPPを通じてのベトナム市場への参画可能性が高いことが考えられます。(下表7参照)

 
表 7 ベトナムの各セクターにおける最大プロジェクト
セクター プロジェクト名 総投資額 主要民間企業
電力 Van Phong 1 coal-fired power plant 2675 住友商事(日本)
ICT GTEL-Mobile Joint Stock Company 267 Vimpelcom(ロシア)
天然ガス Nam Con Son Gas Pipeline 1300 British Petroleum(英)、ConocoPhillips(米)
港湾 Saigon International Terminals Vietnam Ltd 267 Hutchison Whampoa Ltd(香港)
道路 Tan Phu-Bao Loc Expressway 791.3 複数の民間企業が投資
廃棄物処理 Can Tho Waste-to-Energy Plant 47 China Everbright International(中国)
上下水道 Hanoi Hong River Surface Water Treatment Plant 159.4 Thanh Long Group(ベトナム)

出典:世界銀行「Infrastructure Finance, PPPs & Guarantees」に基づいて作成、2022年1月18日参照
※ 単位:百万米ドル


6. PPPに関する法律整備

本章では、ベトナムのPPPに関する法規名、PPPに関する主法規の内容を紹介します。まず、ベトナムのPPPに関する法規は下表8の通りです。


表 8 ベトナムのPPPに関する法規
No. 法規名 概要
1 Law on Public-Private Partnership Investment (No. 64/2020/QH14)(PPP法) 本法は、PPP投資における政府による管理、事業体・組織・個人の権利・義務・責任について規定している。

出典:Academy of managers for construction and cities「Law No. 64/2020/QH14 dated June 18, 2020 on Public - Private Partnership Investment」に基づいて作成、2022年3月10日参照


また、本PPP法が施行されるまで、ベトナムでは以下の法(Law)および下位法規(Decree/Circular)でPPPプロジェクトが実現されてきました。
 
表 9 PPP法が施行される前のベトナムにおけるPPPプロジェクトの関連法規
Law Law on Construction
Law on Investment
Law on Public Investment
Law on Management and Utilization of Public Assets
Law on Bidding
Land Law
Law on Enterprises
Law on Public Procurement
Decree Decree 63/2018/ND-CP on PPPs
Decree 30/2015/ND-CP on Investor Selection
Decree 69/2019/ND-CP on use of public assets to pay BT investors
Circular Circular 09/2018/TT-BKHDT on guidance on implementation of Decree 63
Circular 183/2015/TT-BTC on Build-Transfer PPPs
Circular 15/2016/TT-BKHDT on Pre-Qualification & Bidding
Circular 19/2019/TT-BGTVT on Investment and Feasibility Studies of transport PPPs


2021年1月1日より施行された上記表8のPPP法は、表9の各法規の集大成のような内容となっており、PPPプロジェクトに特化した法となっています。以下、PPP法の概要および主項目の要約です。
 
① PPP法が適応できるプロジェクト(PPP法内Article 4)
 i. PPP法では、PPP投資が認められるセクターとして、以下の5つが定められている。
  1. 交通
  2. 電力網および発電所(電気法に定める水力発電所と国営企業を除く)
  3. 灌漑、浄水供給、排水、下水道および廃棄物処理
  4. ヘルスケアおよび教育
  5. ITインフラ

 ii. PPPプロジェクトとして承認されるには、各プロジェクトの最低投資額は2千億VND(約10.5億円)でなければならず、ヘルスケアおよび教育プロジェクトについては、その半分の金額で構わない。また、社会経済的に困難な状況にある地方でのプロジェクトには、より低い基準額も適用可能である。
 
 iii. 民間投資家の出資比率は投資資金総額の15%以上でなければならない。

② ローカル事業者の使用促進(PPP法内Article 28)
国内の業者・物品・資材を使用することにコミットした投資家は、入札評価において優遇措置を受けることができる。

③ 入札担保(PPP法内Article 33)
PPP法では、投資家は入札担保(プロジェクト投資総額の0.5%から1.5%の割合で)を立てることが義務付けられている。この入札担保は、PPP文書に基づくパフォーマンスを確保するための一般担保(プロジェクト投資総額の1%から3%の割合)に加えて、投資家が入札プロセスから離脱した場合、入札手続きに違反した場合、落札提案者が30日以内に契約文書に署名しなかった場合(不可抗力による場合を除く)には、没収されることになる。

④ PPP形態(PPP法内Article 47)
 プロジェクト契約形態としては以下が整備されている。
  BOT (build-operate-transfer)
  BTO (build-transfer-operate)
  BOO (build-own-operate)
  O&M (operate-maintain)
  BTL (build-transfer-lease)
  BLT (build-lease-transfer)

⑤ 外国通貨の利用可能性の保証(PPP法内Article 81)
政府は外国投資家に対して、資本取引、ローン返済、利益移転など、プロジェクトに関する投資家のニーズを満たすための外貨の利用可能性に関する保証を提供している。しかし、PPP法では、このような保証はプロジェクト費用を差し引いたプロジェクト収益の30%までと規定されている。

⑥ リスク分担(営業収益の増加・減少分の配分)メカニズム(PPP法内Article 82)
実際のプロジェクト収益が財務モデルで予測された収益の125%を超える場合、国は125%を超えた収益の50%を徴収する。逆に、BOT、BTO、BOOでは、計画、政策、法律の変更の結果、実際のプロジェクト収益が財務モデルで予測された収益の75%を下回り、コンセッション延長や関税調整などの他の措置で不足分を解決できなかった場合、国は75%を下回る損益の50%をシェアする。


7. まとめ

以上のように、今回は「国別PPP事業のA to Z」シリーズとして、アジア地域の途上国としてベトナムの状況について、基礎情報や法律、汚職、経済自由度などをベースに紹介しました。

✓ ベトナムの経済自由度(=ビジネスのしやすさ)は世界90位と比較的低くなっている。
✓ ベトナムの経済成長率は毎年3%前後であり、今後とも伸びることが見込まれる。
✓ ベトナムでは公共機関およびその職員の汚職が大きな課題となっている。
✓ ベトナムのPPPに関する法制度は2021年1月1日より施行されたPPP法(Law on Public-Private Partnership Investment (No. 64/2020/QH14))により整備されている。


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