REPORTレポート
代表植村の自伝的記憶
グローバルサウスの経済成長をインフラPPPで支えると明言した岸田首相の決断
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【2024年9月9日掲載】
※このレポートは2024年8月8日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。
7月16日から18日にかけて、東京で第10回太平洋・島サミット(PALM10)が開催されました。太平洋・島サミットとは、太平洋の島嶼国・地域が直面するさまざまな課題について、各国の首脳同士が率直な意見を語り合う場として1997年に設立された、3年に一度の首脳会議です。
これまでの首脳会議は9回目。太平洋の島嶼国・地域の地政学的な重要性が再認識される中、日本が主導する太平洋・島サミットの存在感は年々高まっています。
今回のPALM10にあわせて、私が理事を務める一般社団法人PPP推進支援機構(OPPS)は太平洋上下水協会(PWWA)及び在日本フランス大使館との共催で、サイドイベントを7月17日に開催しました。「太平洋島嶼国における官民連携(PPP)の推進を通じた太平洋の絆の強化」というイベントです。私はOPPS副会長として、イベントのホスト役を務めました。
太平洋島嶼国・地域では、水環境に関してさまざまな課題を抱えています。そうした課題は、気候変動に伴う海面上昇に起因するものです。
例えば、太平洋地域では全人口の57%しか基本的な給水サービスにアクセスできていません。特に、上下水の整備や効率的な運用、料金徴収などについては課題も多く、解決策を見出す必要があります。
そうした課題を解決するために、ODA(政府開発援助)などの枠組みとともに、PPP(Public Private Partnership:官民連携)をどのように活用していくか、それを話し合うのが今回のカンファレンスでした。
会合には、太平洋島嶼国・地域の政府に加えて、PWWAの幹部や加盟する各国の関係者、駐日フランス大使はじめ大使館関係者、アジア開発銀行(ADB)などの金融機関、日本政府及び関連機関、そしてOPPSの会員企業など国内外の企業に所属する約80人が参加しました。とても有意義な意見交換ができたと感じています。
また、7月17日の会議終了後、PWWAとOPPSが国土交通省の立ち会いの下、上下水道分野における官民連携の推進に関してMOU(基本合意書)を締結しました。翌18日にはPWWAとOPPSの間で次の具体的なアクションを話し合うキックオフ・ミーティングも早速開催しています。
このキックオフ・ミーティングの最後に、9月2日からクック諸島で開催される、PWWA主催の第15回太平洋上下水道会議/エキスポへの特別参加とプレゼンテーションを依頼されました。今後の展開が楽しみです。
OPPSによるイベントをスタートラインとして、G2G(政府対政府)の枠組みの下、PWWAとともにG2B(政府対企業)、あるいはB2B(企業対企業)による具体的なパイロットプロジェクトを生み出すことができれば、彼らが目指している太平洋島嶼国の水環境の改善や気候変動対策に大きく貢献できると感じています。
水環境の整備にPPPをどう活用すべきか?
このように国際カンファレンスとして大成功を収めたサイドイベントでしたが、私にとって何にもまして重要で意義深かったのは、岸田首相に寄せていただいたビデオメッセージです。
岸田首相はビデオメッセージで、これまでJICA(国際協力銀行)が太平洋島嶼国・地域で行ってきた上下水道施設の改善や人材育成、漏水防止の技術協力といった包括的な支援に触れた上で、太平洋の島嶼国・地域をともに未来を切り拓く「共創」のパートナーと位置付けました。
また、日本政府が採択した「グローバルサウス諸国との新たな連携強化に向けた方針」の中で初めてPPP(Public Private Partnership:官民連携)を支援の一つに位置付けましたが、太平洋島嶼国・地域の効率的な環境整備で貢献するため、日本でのPPPの経験を活かして幅広いインフラ分野でPPPでの事業展開を進めていきたいとの考えを発信されました。
これまで日本政府の海外インフラ支援はODAが基本で、PPPは枠外でした。それに対して、今後は日本がグローバルサウスのインフラ整備をPPPで支援し、太平洋島嶼国・地域との「絆」を深める枠組みの一つとしてPPPを活用するという岸田首相の発言に、太平洋島嶼国・地域の関係者は大きな期待を寄せていました。
同時に、PPPなくして日本の海外インフラビジネスの未来はないと言い続けてきた私にとっても何よりの喜びでした。
安全で清潔な水の確保や快適なトイレなどを実現する水インフラは、アフリカやASEAN(東南アジア諸国連合)、中南米など新興国にとってもとても重要です。もっとも、太平洋の島嶼国・地域では、前述したように上下水道が未整備のところも多く、安心安全な水の確保や下水処理は十分ではありません。しかも、既存の設備は老朽化が進んでおり、漏水率も高く、適切なメンテナンスが不可欠です。
ODAには大きく分けて無償資金協力と技術協力、そして円借款と言われる有償資金協力がありますが、太平洋島嶼国・地域の中には、所得水準などさまざまな理由からODAなどの経済協力の枠組みが限定されたり、使えなかったりする場合があります。また、料金徴収の仕組みがうまく機能していないという問題もあり、整備のための資金をどのように集めるかが最大のハードルです。
ここは知恵の使いどころですが、最先端のテクノロジーを活用して料金徴収の割合を徐々に上げていくとともに、再生可能エネルギーによる発電とエネルギーマネジメント、WaterPPPを組み合わせることが一つのソリューションになり得るのではないかと考えています。
島嶼国・地域は電気代が高いという課題を抱えています。そこで、蓄電した再生可能エネルギー由来の電力を電気料金に充当し、余剰電力で水素を生成し、それを輸出することで新たな産業を創造するというイメージです。
太平洋島嶼国・地域の課題に寄り添い、PPPによる官民の投資と最先端テクノロジーの導入、効率的なO&M(Operation & Management : 管理・運営)で解決策を導く。持続可能な事業が実施できれば、太平洋の島嶼国・地域の水環境改善、そして気候変動へのレジリエンスを高めることができると感じています。
いずれにせよ、今回のPALM10サイドイベントは具体的案件に向けた次のステップに踏み出せた上に、PPPによる新興国のインフラ整備を総理が明言するなど、とても意味のある会合でした。
WRITERレポート執筆者
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植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
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