REPORTレポート
変わり始めた大都市の求心力と遠心力のバランス(中編)
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省庁連携に残る変革の余地
──既存の仕組みを捨てずに修正するという考え方は、まさにその通りだと思います。現に、既存の仕組みにはまだまだ変えるべき点がたくさんあります。
インデックスは、環境未来フォーラムやPPP推進支援機構などの関連3団体でSDGsやカーボンニュートラルの実現に向けた様々な取り組みを進めています。その中では、国土交通省のような霞が関の省庁や地方自治体と仕事する機会も少なくありません。
【関連3団体】
ただ、SDGsやカーボンニュートラルのような大きなテーマは一つの省庁、一つの局で完結できるような話ではないのに、縦割りの縄張り意識が強く、省庁や局をまたぐような連携が取れていないのが現状です。役所の連携という面では、非効率で不合理な部分がいくつも残っています。
こういった省庁の縦割りは大きな課題ですが、見方を変えれば、変革の余地が残っているということでもある。実際には難しい面もありますが、うまく横串を刺して連携が取れるようになれば、今まで想像できなかったようなものが生み出される可能性もあると見ています。
山口:確かに、省庁間の連携は大きなテーマですよね。
──そういった省庁間の連携に、イノベーションが加われば、とても面白い動きにつながると思います。
例えば、厚生労働省は「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」と称して、認知症やフレイル(加齢とともに運動機能や認知機能など心身の活力が低下すること)の方々を病院や高齢者施設に入れるのではなく、普段通り暮らせるような街をつくろうとしています。
認知症やフレイルの方を含めた高齢者も自宅で暮らせるような街ですから、医療や福祉に関連した施設だけでなく、モビリティや「5G」のような高速通信網、次世代のエネルギーマネジメントシステムなども整備する必要があるでしょう。
こういう高齢化時代に対応した街づくりを進めるにあたって、法律や制度を作るのは霞が関ですが、具体的に進めるのは地方自治体や企業です。その時に、国と地方がどれだけうまく連携ができるか。それができるかどうかで、今後の街づくりの展開は大きく変わると思います。
山口:高齢化に対応した街をいかにしてつくるかという点は、地方創生にもつながる視点ですね。
「脳」を動かし「情報」を動かさない不思議
山口:街づくりの話になったので一言申し上げると、東京という都市を見ていて私が奇妙に思うのは、この一極集中です。
製造業の場合、資材を加工していろいろ加工するのは工場です。工場を建てるには広い土地が必要なため、土地の安いところに工場を置き、資材の方を動かします。工場を動かすよりも資材の方を動かす方が安いので、それは当然です。
一方、東京に集中しているホワイトカラーは、いわば情報の製造業なので脳が工場に当たります。ただ、ホワイトカラーが一般的な製造業と異なるのは、工場である脳を動かしているという点です。資材に当たる情報は会社に置いたまま、毎日、800万人の人が通勤という形で脳を移動させている。
昔は、それも仕方がなかったと思います。記録が文書の形で保管されており、情報を移動させるコストを考えれば、脳を動かす方が楽でしたから。
例えば、1970年代の国際電話の料金を調べると、北米で1分3000円を超えていました。1時間話せば、軽く10万円を超える金額です。情報を動かすコストという点ではものすごく高い。それで、「ちょっと出張してこい」と言って現地で情報を入手し、処理していた。
ところが、インターネットの出現によって情報を動かすコストが凄まじい勢いで下がりました。そうなれば、脳ではなく情報を動かす方が低コストなはずです。それなのに、この20年、相も変わらずホワイトカラーは毎朝、オフィスに通っていました。
──その通りです(笑)。
リモートワークはできて当然
山口:しかも、オフィスに出てきて何をしているかというと、パソコンを開いて、別のフロアの人とメールでやり取りしている。わざわざ脳は同じ場所に移動しているのに、情報はバーチャルにやり取りしているということです。
そして今回、コロナが来たことでリモートワークを導入してみると、意外にすんなりとリモートワークが導入できるということに気づいた。ただ、僕に言わせれば、それは当たり前の話です。オフィスで働いている時から、情報を動かしていたわけですから。
──そうなると、わざわざ住居費の高い東京に住み続ける必要はなくなります。
山口:都会に住むことの経済合理性が薄れてきていますよね。コンサルティング会社に勤める友人も、都心の家を引き払って軽井沢に引っ越しました。こういう変化は今後、加速するでしょうね。
2年ほど前に、IKEAが「アーバン・ビレッジ・プロジェクト」というプロジェクトを始めました。居住空間のプライバシーを重視した上で、集合住宅の中で共有可能なスペースをシェアリングしていくという考え方に基づいています。
現状の都会の集合住宅はプライバシーが重視されますが、地方のビレッジ(村)ではプライバシーだけでなく、コモンズ(共有財産)も重視されます。こういう集合住宅だけどビレッジ的な空間を作ろうという話です。
街づくりに求められるコモンズ
山口:実際、北欧は家の中に洗濯機をあまり置きません。洗濯機を使う時間は1日の中でも限られるのに、それなりに場所を取る。であれば、集合住宅の中にランドリーフロアを作り、住民で共有した方がいいという考え方です。とても合理的です。
この考え方をさらに推し進めると、例えば、ライブラリーが個人の家に必要かという疑問も浮かびます。
──共有のライブラリーを作ればいい、と。
山口:そうです。自宅には最低限の本を置き、後はある種のコモンズとしてみんなで共有すればいいという話です。住民の興味・関心領域に応じて、ブックキュレーターが蔵書を選ぶ。場合によっては、キッチンや映画を楽しめるスペースを共有にしてもいいかもしれません。
──われわれも、米国のスタートアップと組み、国内地方都市でスマートハウスの建設プロジェクトを進めています。それほど大きな規模ではありませんが、エネルギーやセキュリティなどを一元管理できる、いわゆるスマートハウスです。
このスマートハウスプロジェクトで実験的に導入しているのは、まさに山口さんがお話になったコモンズです。
スマートハウスのプライバシーは守りつつ、共有できるものは共有し、同じコミュニティに暮らす人々が集う場を作る──。そういう狙いです。
自宅と職場、共有スペースの新しい関係性
山口:今回のコロナ禍で分かったのは、ずっと家で仕事するのもきついということです。特に、夫婦共働きがマジョリティになる中、お父さんもお母さんも家の中で仕事するには、今の家は小さすぎます。とはいえ、会社に毎日のように行く時代でもない。そうなると、コーワーキングスペースのようなサードプレイスの重要性が増すかもしれません。
オフィスに行って働くという今の働き方は、この100年ほどのことでしょう。都市化が進み、ホワイトカラーが誕生する中で、徐々に今の働き方に収斂し、スタンダードになった。
同じことがこれからは起きると思います。自宅と職場、サードプレイスの新しい関係性がいろいろ出て、様々なトライアルを通じて、新しい働き方やコミュニティに収斂していくのではないでしょうか。
WRITERレポート執筆者
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植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
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