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まちの大家による『都市の木造化』促進プロジェクト建設現場を見学
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【2023年12月6日掲載】
2023年11月20日、良く晴れた晩秋の1日に東中野駅前の建設現場を見学しました。間口3間ちょっと、奥行き8間ほどの細長い敷地に8階建ての躯体が立ち上がっています。ユニークなのが4階までは鉄骨で組まれているのに対し、5階以上が木造のラーメン構造であること。東中野で100年近い老舗、まちの大家・大島土地建設株式会社による『都市の木造化』促進計画のパイロットプロジェクトです。
南側外観
1フロア22坪ほどの2階説明会場に参加者が溢れる中、3代目大島芳彦社長のプレゼンテーションを聴きました。『都市の木造化』の目的は、炭素を固定し街を森に変えること。木造建築物は、建設時のCO2排出量が少ないだけでなく、炭素を固定する働きも有します。森林が国土の3分の2を占める日本において、国産木材の利用促進による森林エコサイクルの確立が国土保全とカーボンニュートラルのためにも喫緊の課題となっています。
プロジェクトのもうひとつの目的が「小規模木造ビル」のモデル化。東京23区、特に山手線の内側に建つ建物の多くは商業・事務所ビル。そのうち7割は、延床面積2,000㎡未満の小規模ビルです。都心部で大手ディベロッパーと大手ゼネコンによる大規模木造ビルの計画が相次いでいますが、東京の大部分を占める小規模ビルを木造化することが重要だと大島社長は力説します。
大規模木造はCLT(直交集成材)を使い大手ゼネコン独自の技術や認定工法を用いるもので、大多数の小規模不動産事業者=まちの大家さんにとっては言わば“高嶺の花”。本プロジェクトでは、まちの大家がまちの建設会社、まちの設計者、まちの金融機関等とタッグを組み、大学教授など専門家のサポートを得て小規模木造のパイロットビルを完成させることをめざしています。
大規模な木造は他の構造と比べてまだまだコスト髙です。現時点での工事費は鉄骨造と比べ15%ほど割高。不動産事業を成立させるためには、周辺相場よりも高い賃料設定とする必要があります。そこで大島社長は、『都市の木造化』の意義や木造の空間の快適さ等メリットをアピールし、相場より1~2割程度高い賃料をめざすことに。東側の壁面に貼る太陽子パネルの自家発電(ZEBレディ獲得の予定)で電気代が安くなることもアピール。更に国交省や東京都の補助金を活用して、事業採算性の確保をめざします。
東側壁面の耐震トラス架構
プレゼンテーションの後、最上階8階まで階段で。運動不足の足にはしびれます。約72㎡=22坪弱の1フロア1テナント想定で、南北長手方向に5組の木造ラーメン架構が並びます。柱と梁は3層構造。通常の集成材に耐火被覆を施し、両側から耐震材で挟みサンドイッチ状に木材を組みます。柱径600mmほどの太い材となりますが、自然な木目表わしのためか圧迫感はありません。都市部のため両隣も中層ビル。東面と西面は開口部が少ないためトラス構造で耐震性を補強します。
4階まで鉄骨造としたのは、耐火構造のため。建築基準法で2時間耐火が求められる1~4階を鉄骨ラーメン造とし、1時間耐火で済む5階以上を木質構造としています。このような技術的な工夫により、一部の柱があらわしとなり、利用者が木の質感を目で感じられる建物が実現します。
低コスト化、工期・納期の短縮を追求するため、部材や金物はすべて市販のものを使用。一部の限られた不動産事業者やスーパーゼネコンにしか実現できない敷居に高い都市木造建築物ではなく、まちの大家さん、まちの工務店にも実現可能な『都市木造の民主化』をめざした野心的な取組みと言えます。設計は建築家である大島氏が立ち上げたブルースタジオ。24年6月に竣工予定の東中野1丁目プロジェクト、街にどんな景色をもたらすのか。今から完成が楽しみです。
このプロジェクトの詳細に関しては、下記の株式会社ブルースタジオのプレスリリースをご参照ください。
WRITERレポート執筆者
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橋詰 健
インデックス シニアアナリスト
都市計画、都市開発のコンサルタントとしてキャリアをスタート。当社では再開発事業、マンション建て替え等のPMを経て、東日本大震災の復興プロジェクトを経験。現在はCSR担当として3つの一般社団法人を運営するほか、経営企画にも参画。専門的な知見を活かし、社会課題の解決に貢献するソリューションを提供します。
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