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「減らすビジネス」が利益を⽣む

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2009年2⽉
 
21世紀には、「減らすビジネス」が増えてくるだろう。これまでは販売数量を  年々増やすことで利益増を図ろうとする企業活動がほとんどだった。しかし、考え⽅を変えてみようではないか。
 
成⻑や進化は量の拡⼤によってしかもたらされないのだろうか。もしそうだとしたら、環境問題の解決は永久にないだろうし、地球が持続可能ではなくなるだろう。「減らすビジネス」を創造する活動を強めなければならないのではないか。
 
富⼠ゼロックスはオフィスの複写機の台数を減らすことをビジネスにしたそう   だ。稼働率の低い複写機を撤去して、そのオフィスにとって最適な台数を設置することをコンサルテーションするのをビジネスにしたという。複写機の台数を減らしたからといってコピー枚数が減るとは限らないし、トナー代やメンテナンスで収益を得るという典型的なアフタービジネスである複写機販売ビジネスだからこそできたとも⾔えるが、それでも「減らすビジネス」の発想は素晴らしい。
 
環境問題への貢献と新事業創出の⼀⽯⼆⿃となる
 
もし、アフタービジネスを含めた複写機ビジネスの粗利が30%で、複写機を減らすコンサルティング・ビジネスの粗利が70%だとしたら、この複写機会社の利益率は向上することになる。
 
通信販売業界では迅速な配達が競われている。東京23区内なら翌⽇配達だけでなく、午前10時までの注⽂なら当⽇配達するサービスもある。このような通販ビジネスを使う顧客企業の購買⾏動を解析してみると、年間50万円購⼊する顧客の注⽂回数は年10回から年100回までといったように広く分布している。
 
すぐ配達されることをいいことに、今⽇お茶を注⽂して、翌⽇にコピー⽤紙を注⽂して、3⽇後にはトナーを注⽂するといった無計画な購買⾏動も少なくないようだ。便利な配達サービスに⽢えて、計画的な発注が⾏われないことが多いのだ。⾼頻度の発注と配達はコストだけでなく資源・エネルギーの⾯からもムダが多い。
 
もし、注⽂頻度が低くなれば、それに伴って減る配達費⽤の低減分の半分を顧客にインセンティブとして与えるというビジネスモデルはどうだろう。売り⼿と買い⼿の両⽅がWINできて、例えば2%程度のディスカウントになると、このビジネスの価格競争⼒も⾼まる。
 
新⽇本⽯油が三洋電機と⼿を結んで薄膜太陽電池の合弁会社「三洋ENEOSソーラー」をこのほど設⽴した。「将来ガソリンの販売量が半分になる」ことを前提にし た⻑期的視野を持った新⽇⽯の経営は素晴らしい。
 
「⽯油精製・販売業は頭打ちなので、太陽電池事業に進出しよう」という戦略も正しいが、「太陽電池を使って⽯油消費量を減らすことをビジネスにしよう」という戦略の⽅が優れているだろう。⽯油製品の物販に太陽電池の物販が加わるだけなのか、それともユーザーの⽯油エネルギー使⽤量を減らすサービスもビジネスに取り込むのかという⼤きな違いがあるからだ。
 
「新しい社会システムを作る」というビジネス
 
環境問題への取り組みが遅れている業界の1つが実は電⼒業界かもしれない。昨年度までは毎年1.2%の割合で売電量が増えていたので、販売量を増やして利益を増やすという昔からの経営⽅針に進歩を加えたり変えたりすることに憶病なようだ。
 
冷静に考えれば、⽇本では発電量を増やし続けることはできないと考える⽅が正しい。産業構造は変化し、⼈⼝は減少し、経済成⻑率はほとんどゼロのままだ。むしろ環境をビジネスとし、産業を活性化させるためには、「電⼒消費量を減らすことをビジネスにする」ことが必要かもしれないと思う。
 
売電量が増えた時、その時の利益の増加は売電価格の30%で、⼀⽅、顧客の電⼒使⽤量を減らすコンサルティングやシステム構築をビジネスにして、その利益率が70%だとしたなら、電⼒会社は「電⼒使⽤量を減らすビジネス」を取り込む⽅が利益が増えることになる。
 
リチウムイオン電池は電⼒使⽤量を減らすための⼤きな武器だ。電気を⼤規模に貯蔵できるようになったので、様々なビジネスが創造されるだろう。家庭の化⽯エ ネルギー使⽤量を30%減らして家計負担を減らすビジネス、オフィスビルの契約電気容量と⽇々の電⼒使⽤料の両⽅を減らすビジネスなどは、分かりやすいビジネス モデルなので実現は⽬の前にある。
 
ビジネスを「新しい社会システムを作ること」と考えることが⼤切だ。環境問題の解決のためには不可⽋の考え⽅と⾔ってもいい。資源消費を減らすビジネスのWIN-WIN関係を作るということは新しい社会システムを作るということであるこ とが多いからだ。
 
「セクター別アプローチ」や個別技術の普及では限界あり
 
今年1⽉13⽇、経済産業省に「新エネルギー社会システム推進室」が新設された。新エネルギー等の活⽤による新たな社会システムを提案し、集中的な政策資源の投⼊分野の具体化、雇⽤機会の創出などに貢献することを⽬指す組織である。太陽光発電や燃料電池などの新エネルギー技術を運輸・流通、観光、住宅、⽣活インフラなどで活⽤して、個別技術の普及にとどまらず「社会システム」としての導⼊・普及を図っていくという。
 
環境問題の解決のためには、⽇本が提案して洞爺湖サミットで評価された「セクター別アプローチ」はあまり有効ではないし、太陽電池や⾵⼒発電などの個別技術の普及にインセンティブを与える政策にも限界があることにようやく気がついてくれたようなのだ。
 
環境エネルギー問題は新しい社会システムを作ることによって⼤きな前進を⾒ることができるだろう。この時、たくさんの「減らすビジネス」で⺠間企業が利益を得ることができると、環境問題の解決と経済成⻑を両⽴させることができるだろう。
 
「減らすビジネス」を創造しよう。

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