REPORTレポート
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アメリカ経営学からの決別
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2008年12⽉
この1年は、いろいろな素晴らしい⼈と巡り会えた年だった。毎年のことなのだが、今年は特にそうだ。
もちろん⼤学や学会で巡り会ったのではない。年々、⺠間社会で活躍されている⽅と出会う機会が多くなり、そうした場で出会っている。初対⾯なのに気が合ったり、すぐに尊敬し合うことができることが分かったり、⼀⽣友⼈になれるような気持ちを持つことができることもある。
⼀期⼀会とはよく⾔ったものだ。
こんなふうに出会った⽅の1⼈が原丈⼈さんだ。⽶国の政財界にもかかわりながら、シリコンバレーと東京の両⽅で仕事をしている⽅だ。
彼は3年前から、サブプライムローン、証券化ビジネスのバブル的な問題点を指摘し、同時にCO2排出量取引が同じようなバブルを引き起 こす危険性があると警鐘を鳴らしている。価値のないものに価値を与えるようなビジネス、リスク管理のできていない商品を世界中に広めてしまうビジネスの危険性と、それを⽌められない株主資本主義の限界を説いているのだ。
CO2の排出量取引もバブルを引き起こしかねない。基本的にはCO2 排出量は削減するべきもので、取引すべきものではない。将来の時間軸上で不明瞭な価値を認めることによる危険の⽅が⼤きいだろう。EUで は排出量取引が続けられているが、その間EUのCO2排出量は増え続けている。
排出量取引ビジネスが、地球全体の最適化に結びつくとは思えない
今年の6⽉に「⼆次電池による社会システム・イノベーション」という⼤きなプロジェクトをコーディネートし始めてから、たくさんの⽅からの⾯会要請が私にあった。残念ながら、ごく⼀部の⽅にしかお会いする時間が取れなかったが、排出量取引をビジネスにしている企業の⽅とはお会いしなかった。環境問題を⾦もうけの種にしようとすること⾃体が間違っていると思ったからだ。アドホック(その場主義)なビジネスが地球全体の最適化に貢献することはあり得ないだろう。
「株主資本主義」に違和感を覚えていた⽇本の経営者は多かったのだと思う。しかし、何か⼤きな流れのように思って、その流れに流されてしまった⾯を否定できない。
原さんの主張する「公益資本主義」は、私の「ビジネスを社会システムと考える」という考え⽅との共通点が多くてうれしかった。
価値の創造は企業と顧客がWin-Winの関係を作って初めて成⽴する。企業の創造した価値を顧客が認め、対価を⽀払うことによって⼀番基本の価値の循環が発⽣する。企業と顧客との価値の循環関係を作ることに成功したなら、⽣まれた利益が株主にも還元され、2番⽬の価値の循環が発⽣し、事業として成⽴するようになる。このように、価値の循環関係(バリューチェーン)は、企業と顧客が⼀緒に1つの社会システムを構築していることが基本と考えるのがいいのだろう。当たり前のことだが、株主第⼀主義は価値の循環の優先順位を間違えている。
価値の創造は企業と顧客がWin-Winの関係を作って初めて成⽴する。企業の創造した価値を顧客が認め、対価を⽀払うことによって⼀番基本の価値の循環が発⽣する。企業と顧客との価値の循環関係を作ることに成功したなら、⽣まれた利益が株主にも還元され、2番⽬の価値の循環が発⽣し、事業として成⽴するようになる。このように、価値の循環関係(バリューチェーン)は、企業と顧客が⼀緒に1つの社会システムを構築していることが基本と考えるのがいいのだろう。当たり前のことだが、株主第⼀主義は価値の循環の優先順位を間違えている。
乗⽤⾞のビジネスなら、国内では約6000万⼈の運転免許を持っている市⺠と⾃動⾞会社が「⾞社会システム」を作っていると考えるのだ。昔はセダンしかなかった乗⽤⾞が、ワンボックス、SUV、スモールカ ー、軽カーなどと多様になってきたのは、⾃動⾞会社の商品企画⼒によるものだが、それはユーザーと⾃動⾞会社が相互に影響し合い、1つの社会システムを作っているからできたことと考えるのがいいだろう。
企業と顧客が協⼒し合って1つの社会システムを作る
ビジネスにとって、⼀番⼤切なのは顧客満⾜度を⾼めることだ。商品が優れているから売れるのではなくて、顧客満⾜度が⾼いから売れる。顧客満⾜度を⾼めるためには、マーケティングも⼤切だが、それより、そのビジネスでは企業と顧客が協⼒し合って1つの社会システムを作っていて、そのシステムをもっと良くしたり、最適化するためにはどうすればいい社会ができるのだろうかと考えるのが⼤切だ。そしてその結果として、新しいビジネスモデルが⽣まれたり、企業の価値が保たれた り、⾼まったり、企業が存続したり、成⻑したり、進化したりする。
⾦融危機以来、⽇本流の経営が⾒直されているようだ。それはお⼿本としてきた⽶国の経営法の本質的な間違いが露呈し、まるで砂上の楼閣のように崩れてしまったので、相対的に地位が⾼まっただけと⾒るのが正しいだろう。
この20年ぐらいの間、株主資本主義をはじめ、⽶国の経営を学習し、場合によっては鵜呑みにしてきたことが多かった。書店には⽶国⼈の書いた経営書があふれ、⽇本の経営者の必読の書が、これらの本だったりした。今でもこれらに学ぶべきことがないわけではないのだが、これまで以上に冷静に評価した⽅がいいだろう。
次の「新しい経営学」を⽇本から創造することを始めなくてはならない。その時、⼀番⼒になるのは企業活動の最前線で戦ってきた経営者の
⽅々だ。残念ながら現在の⽇本の⼤学の経済学部や経営学部にそのような⼒はないようだ。マルクス経済学や近代経済学や⽶国流の経営学をただ輸⼊して消化して伝えているという部分が多いのだ。過去50年程度 を⾒直してみても、⽇本の経済学部、経営学部の知的な価値の創造は、⼯学部などの理系学部によるものに⽐べれば圧倒的に⼩さい。
社会全体を最適にすることを理念とする経営を
東京⼤学⼯学部では、東⼤⼯学部の博⼠の学位を持っていれば東⼤教員の候補者になれるが、経済学部では、欧⽶の⼤学で取得した博⼠号がなければ、その可能性は低い。つまり、⽇本の⼤学の経営学部や経済学部の国際競争⼒は低く、ブランド価値も⼈材養成⼒も不⼗分なのだ。その結果の1つとして、⼤学教員や卒業⽣が、⽶国流の株主資本主義を盲⽬的に信じて導⼊することの助けをした事実は否めない。
独⾃の⽂化や、独⾃の⼈⽣観、価値観、⽂明観による新しい経営学を構築することが求められている。その時に⼀番⼤切なのは社会全体を最適にすることを理念とした経営であり、それが、原丈⼈さんの⾔う「公益資本主義」と呼ばれるものだろう。これを実現するためには科学的論理性を⼤切にすることも⼤切だ。コストだけでなく、価値もリスクも価値の循環関係も数字で説明できるようにするのだ。
正しい価値観による、全体最適を⽬指した「理系の経営学」を推進したい。
WRITERレポート執筆者
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宮田 秀明
社外取締役
プロジェクトマネージャの先駆者、企業リーダー育成の第一人者であり、東京大学教授時代には様々な社会変革のプロジェクトを実行し、2011年に日本学士院賞、恩賜賞をそれぞれ受賞。その後同大学名誉教授に就任し、ビックデータ解析のスペシャリストとして学術的にもトップクラスを走る。東日本大震災を受け植村と共に気仙広域環境未来都市のプロジェクトマネージャに就任。インデックスコンサルティングの先導性に理解を示し、2017年から同社に参画。
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