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あなたは⽬を輝かせて仕事をしていますか︖
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2008年11⽉
2000年のアメリカズカップ・プロジェクトでは⾊々な活動があった。ほとんど知られていないのはキャンペーンソングだ。⽇本では5本の指に⼊ると⾔われていた⾳楽プロデューサーのM⽒が作曲して、新⼈歌⼿に歌わせた。シングル版で発売した が売れなかった。私たちも少し不満だった。曲がどこか淋しげなのだ。これから戦 いに⼊ろうという時なのに、そんな物悲しい曲では、負けを予感しているようだっ た。
その⾳楽プロデューサーのM⽒が、あるチーム内の内輪のパーティーに出席してくれてスピーチを⾏った。
「チームの皆さん、お歳は存じ上げませんが、皆さん⽬がキラキラ輝いていて、少年のようなのが印象に残りました」
外の世界の⼈に⾔われるまで分からなかったし、「皆さん」の中に私が含まれているのかは定かではない。でも毎⽇アメリカズカップで世界⼀になろうと思い続けていたのは確かだ。だからこそ、どんな苦労もいとわなかったし、安い給料に⽂句を⾔う⼈もいなかった。情熱だけなら、誰にも負けないと思っていた仲間たちだった。
情熱を持って挑戦、さらに最強の創造⼒を養うために
⽬を輝かせてできる仕事ほど貴いものはない。⽣きている証しを存分に味わって、⼀⽇⼀⽇の⼈⽣の⼀コマ⼀コマを誇れるからだ。
⼤学の仕事は年々忙しくなる。指導しなければならない学⽣の数が増えるとプロジェクトの数は増え、質も上がっていくからだ。それでも投げ出さないで頑張っていられるのは、学⽣たちの輝く⽬を⾒ているからかもしれない。新しいことに感動し、新しいことに挑戦し、急速に成⻑していく学⽣たちを⾒るのは教員の歓びのうち最⾼のものだ。
もちろん結構厳しい師弟関係を作ることもある。夏を過ぎて修⼠論⽂の後半戦に⼊ろうとする修⼠課程2年⽣4⼈に、私は厳しいバクダンを投げつけた。
「ここは中学校じゃないんだ。“船を借りた会社”とは何という表現だ。本や論⽂ を読んでいない︕ 先輩の研究の解説はもう不要。⾃分のやるべきこと、やったことを説明しなさい」
「テーマが与えられたら解きますという態度では永久につまらない⼈間で終わってしまう」
「1週間以内に3冊の本と7本の論⽂を読んでレポートしなさい。本は学術的なものだけ。論⽂のうち少なくとも1本は英⽂であること」
社会に出てからも輝いているためには、情熱を持って挑戦することが⼤切だが、それだけでは⾜らない。本当に創造する⼒を養い、創造を実現して感動することができるようにならなければならない。
⼤学院の修⼠課程では、この創造する⼒を養うために修⼠論⽂の研究がある。システム創成学専攻では、ビジネスモデルや商品モデルを創造する⼈材を育成することを⽬標にしているから、⼤学院⽣にはぜひこの⼒を獲得するための仕事のやり⽅を少しは⾝につけてから社会に出てほしいものだ。
4⼈の修⼠課程2年⽣のテーマは⾊々だ。
「リアル店舗とネットワークを併⽤した書店の設計法」
「国際製造業の製販⼀体最適化システム」
「海外⽣産⾐料品の⽣産・輸⼊・販売統合管理システム」
「原燃料輸送のための最適船隊計画」
どれも難しくて⼤きなテーマだ。最終的に何らかの新しいビジネスモデルや経営を⽀援するシステムや⼿法を開発するのが⽬標だ。
実際のビジネスの現場は、理想からほど遠い
最初に⾏わなければならないことは⼆つある。ビジネスの現状とそれに対する研究や経営⼿法の現状を知ることだ。
もちろん本も論⽂もあるし、最近はインターネットで探せばかなりの情報が⼿に⼊る。詳細にまでわたって現状を理解したら、その次に、現状に問題がないかと考える段階に移る。ここでは疑問に思ったり、批判的な視点をもつことが⼤切だし、前提条件や拘束条件を外してみることが新しいアイデアを与えてくれることもある。
だいたい実社会では、完璧にビジネスが⾏われていることはありえない。理想からほど遠いのが実際のビジネスの現場だと⾔ってもいいくらいだ。
現状ビジネスの⼤きな問題点を発⾒できたら、研究は3分の1くらい終わっていると⾔ってもいい。この問題点を解決するのが研究の⽬的になる。⽬的があいまいな ままではどんなテーマでもいい仕事ができるわけがない。明確な⽬的を持つことは本当に⼤切なのだ。
そうしてこの問題点を解決する新しいモデルの探求に移る。ここが研究の中で⼀番難しいところだし、同時に研究の醍醐味を味わえるところである。
ビジネスの現場をもっともっと深く知り、解析し、ビジネスの構造(アーキテクチャー)のどこに問題があるかを突き⽌めるための作業は延々と時間がかかる場合が多い。そうしてそれを解決することができる新しい構造を設計するのだ。
輝く⼈が⽇本を引っ張る
ここまで来るともう研究の3分の2以上が終わっている。あとは利益やコストの計算に最適化を加えて、現実的な経営⽀援システムにすれば完成に近づく。
最後は実データを使った検証である。本当に役に⽴つものが開発されたことを証明しなければならない。
この創造のプロセスは⼯業製品の開発の場合もビジネスモデルの開発の場合も共通である。何回かこのような研究開発のプロセスを経験して成功体験を獲得できると最強の創造⼒を備えた⼈材に育ち、いつまでも輝く⽬を持ち続けられるだろう。創造への情熱を持ち続けることができるからだ。
⽶国では新しい⼤統領がこれからキラキラと輝きながら辣腕をふるうことだろう。⽇本も輝く⼈が増えれば、もっと元気な国になるだろう。
WRITERレポート執筆者
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宮田 秀明
社外取締役
プロジェクトマネージャの先駆者、企業リーダー育成の第一人者であり、東京大学教授時代には様々な社会変革のプロジェクトを実行し、2011年に日本学士院賞、恩賜賞をそれぞれ受賞。その後同大学名誉教授に就任し、ビックデータ解析のスペシャリストとして学術的にもトップクラスを走る。東日本大震災を受け植村と共に気仙広域環境未来都市のプロジェクトマネージャに就任。インデックスコンサルティングの先導性に理解を示し、2017年から同社に参画。
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