REPORTレポート

代表植村の自伝的記憶

アリーナPPPがなかなか進まない理由と建設費高騰の打開策

アリーナPPP(Public Private Partnership:官民連携)については、このコラムでもしばしば言及してきました。アリーナPPPとは、公共体育館をPPPの手法を用いて整備すること。先日、世界スーパーバンタム級主要4団体統一王者、井上尚弥の世界戦が開催されたIGアリーナは、アリーナPPP(BT+コンセッション)の第一号として注目を集めました。
 
その後、新秩父宮ラグビー場の整備運営事業にも取り入れられ、現在のアリーナPPPの主たる事業方式として活用されています。
 
BT(Buiding Transfer)とは、民間事業者がアリーナ施設を設計・施工した後に行政資産に戻すことを指します。また、コンセッションは行政がアリーナ施設の運営権(多くは30年間)を設定し民間事業者に委ねる手法です。このBT+コンセッション方式は、PPPの一つの事業手法です。
 
このコラムでも繰り返しお話しているように、道路や上下水道のような公共インフラやアリーナ、美術館、病院などの社会インフラを効率的に整備し、運営するには、民間のノウハウと資金を活用するPPPが最適解だと私は考えています。PPPという方式を採用することで、サービスの向上とコストの削減が同時に図れるからです。
 
アリーナPPPを例に取ると、PPPに参画する民間事業者は施設を自身で設計・建設する必要があるので、発注者である自治体の要求条件や仕様を満たしたうえで、自身が運営するに十分な機能性能を維持しつつ、なるべく建設費を最適化しようと工夫するものです。
 
従来の公共発注では、過度な設計やオーバースペックで建設費が高騰するケースも見られましたが、自身の事業収支にはね返る以上、民間事業者は無駄な部分はできる限りそぎ落とそうとします。つまり、運営に最適な性能仕様と最適な建設費に落ち着くということです。
 
また、アリーナPPPの場合、30年の長期にわたって施設を運営することになりますので、その間の利益を最大化すべく、収入の拡大や維持管理コスト削減のために、コンテンツの見直しや顧客体験の向上、命名権の売却やスポンサーシップの獲得などさまざまな工夫を重ねます。これは、公共体育館の時代に欠落していた経営の概念をアリーナに持ち込むということです。
 
このように、アリーナ整備にPPPを活用することで、施設の整備というイニシャルの部分と長期にわたるオペレーションの改善の両方を実現することができます。さらに、コンサートなどのエンターテインメントが地域の賑わいを創出し、アリーナ経営によって生み出される資金が地域のスポーツ事業の活性化に寄与する。こうしたエンターテインメントとスポーツによる地方創生の実現が、私が積極的にPPPを推している理由です。
 
日本政府も、令和8(2026)年度までに10件、令和13(2031)年度までに全国で40件のアリーナPPPを具体化するという目標を掲げています。
 
ただ、政府が旗を振ってアリーナPPPが広がっていくのは望ましい方向ですが、昨今の状況を見ると、建設費の高騰によって手続きが止まったり、プロジェクトが中止になったりするというケースが見受けられます。直近では一者入札になるケースもあり、強引に進めることで自治体の費用負担が膨らむリスクも高まっています。
 
こうした問題を解決しないと、本来の目的であるアリーナ経営の改善、言い換えればイニシャルコストとランニングコストの最適化は図れないのではないかと危惧しています。
 
収益最大化のために必要なこと
地方のアリーナPPPで「三方良し」(自治体、民間事業者、受益者である住民の利益とリスクの適正配分)を実現するには、施設の建設費と維持管理費の削減、そして運営段階での収入増が欠かせません。
 
アリーナPPPの場合、企業コンソーシアムを組成し、SPCに参画する代表企業、構成企業、協力企業がそれぞれの役割と責務を担います。
 
BT+コンセッションのメリットの一つは、実際にリスクを取り運営を担う企業がコンソーシアムに資本参加するため、設計・施工のBT段階から運営時の収入面も見越した施設の機能と性能の最適化を図ることができるという点です。運営企業が核となり、実際に運営を手がけるコンセッション期間での収入の最大化が実現するということです。
 
日本でアリーナPPPが増えている背景として、プロバスケットボールリーグ「Bリーグ」の存在が挙げられます。Bリーグが2026ー2027年シーズンに向け、各クラブにスタジアムの整備を求めた結果、各地でアリーナの整備計画が進んだのです。
 
ただ、Bリーグ依存はアリーナの収益増という点で課題を抱えています。というのも、バスケットボールの公式戦は年間20試合ほどしかなく、それ以外の空いている日は別のイベントで埋めなければなりません。また、Bリーグは盛り上がりを見せていますが、始まったばかりで地方チームが施設利用に支払える賃料にも限界があります。
 
この賃料負担力は観客が増えれば解消されると思いますが、いずれにせよ、スポーツ以外のエンターテインメント利用やコンサート、演劇などを可能な限り開催しなければ、収入の最大化は不可能です。もちろん、そのためにはフード&ビバレッジ(飲食)の強化といった取り組みも不可欠です。
 
幸いにして、地方では最適な音響設備を兼ね備えた3000席から5000席のコンサート施設が不足していますので、こうした部分を強化すれば収益増は可能です。
 
克服しなければならない利益相反
また、アリーナ施設の建設費を適正化するうえでは、建設の段階でSPC内で起こり得る利益相反を排除し、入札による競争原理を働かせることが重要になります。同時に、システム化や仕様の統一化を図ることで、現場での労働力や資材調達の効率化を進めることも必要です。そうすれば、コスト削減も可能になるでしょう。
 
昨今の建設業界では、アリーナPPPの代表企業や構成企業に参画せず、建設工事だけを受注し、利益を確保する建設会社が増えていますが、これもSPC内の利益相反を避けるため。利益相反を考えれば、民間コンソーシアムに利害関係者を入れないに越したことはありません。特に施工について言えば、アリーナPPPの優先交渉権者の選定後に、改めて施工入札をすればいいだけです。
 
今後は日本の建設会社も民間コンソーシアムの協力企業として建設工事の受注に専念する企業と、民間コンソーシアムの代表企業、あるいは構成企業となり、建設には関与しない会社の二つに分かれていくのではないでしょうか。
 
いずれにせよ、アリーナPPPはイニシャルの建設コストを最適化するとともに、経営努力を通してアリーナの顧客体験を向上させ、地方創生につなげることが目的です。それを忘れないようにすべきだと思います。
 
また、アリーナの構成企業に地元のバスケットボールクラブが名を連ねている場合、賃料という面で利益相反が生じます。アリーナ経営という面では賃料は高ければ高いほどいいわけですが、バスケットボールクラブにすれば、賃料は安ければ安い方がいいからです。この部分は、運営時の収益が伸びにくいという問題にもつながります。
 
本来はバスケットクラブもコンソーシアムに加わるべきではありませんが、この部分は地方創生も関わるので、簡単にはいかないかもしれません。その場合は前述したように、公式戦以外の空いている日にエンターテインメント事業を増やすことが重要になりますので、そうしたノウハウや能力、実績を持つエンターテインメント企業の参画が必要になると思います。
 
アリーナPPPの政府目標の実現に向け、インデックスも新たな取り組みに向け邁進します。

アリーナPPPの先駆けになったIGアリーナ(写真:円周率3パーセント, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons)
 
【2025年11月14日掲載】
※このレポートは2025年11月3日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。

 

その他のレポート|カテゴリから探す

お問い合わせ

CONTACT

ご相談・ご質問等ございましたら、
お気軽にお問い合わせください。

03-6435-9933

受付時間|9:00 - 18:00

お問い合わせ
CONTACT