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ウッドショックとアイアンショックの影響で建築費はどの程度上昇しているのか?2022年11月版|建設市場レポート
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2021年の建設市場は、コロナショックにより停滞していた経済活動が徐々に再開されるに伴って、国内の建設市場の状況も徐々に上向き、2021年における建築需要は前年比で約7.5%と大きく回復しました。
また、2022年の1月から9月までの建築需要は、前年同期比で約1.8%の増加と、その勢いは弱まりながらも、建築需要はコロナショック前年(2019年)の水準に向かっています。
一方、国内建設市場は2020年後半から現在まで、過去に類を見ない状況下に置かれています。それは、木材価格が高騰する「ウッドショック」と、鋼材価格が高騰する「アイアンショック」が同時に起きる「ダブルショック」の状況です。
木材は国内建築需要の約6割を占める住宅で多く使われる一方、鉄筋や鉄骨といった鋼材はマンション、事務所、商業施設、物流施設等を建設する際に多く使われる主要な建設資材です。
これら木材や鋼材といった主要な建設資材の価格が高騰すると、資材コストが増加する為、建築コストも増加し、結果として建築費の水準が上昇することになります。
そこで、今回のレポートでは、木材価格や鋼材価格が高騰により、建設資材物価、建築コストや建築費の水準が実際にどの程度上昇しているのか、さらには今後の建築費の動向まで、以下の内容について紹介していきます。
1. 木材と鋼材の価格水準の推移(2020年から現在まで)
2. 建築資材物価の水準はどの程度上昇しているのか?
3. 建築コストの水準はどの程度上昇しているのか?
4. 建築費の水準はどの程度上昇しているのか?
5. 今後の建築費の動向
1. 木材と鋼材の価格水準の推移(2020年から現在まで)
下図は2020年1月から2022年9月までの木材価格と鋼材価格の水準を示しています。木材価格と鋼材価格はともに、2020年はコロナショックによる経済停滞の影響により下落傾向で推移していましたが、2021年に入り非常に大きく上昇していることが読み取れます。
また、上図より、2022年9月時点で、木材価格と鋼材価格はともに一服し、下落しているものの、依然として非常に高い水準にあり、2020年9月時点と比較して木材価格で約72%、また、鋼材価格では約78%上昇していることが分かります。
このように、現在の建設市場は、木材価格が高騰する「ウッドショック」と鋼材価格が高騰する「アイアンショック」が同時に起きている「ダブルショック」の状況であることが分かります。
2. 建築資材物価の水準はどの程度上昇しているのか?
それでは、「ウッドショック」と「アイアンショック」が同時に起きた結果、建設資材物価が具体的にどの程度上昇しているのかについて見ていきます。2020年9月から2022年9月までに、木材価格は約72%、鋼材価格が78%上昇した結果、建設資材物価は27%上昇していることが読みとれます。(下図参照)
また、木材価格は2021年に入ってから、鋼材価格は2020年末から上昇し始めているのに対し、建設資材物価は2021年4月頃より上昇し始めており、建設資材物価は木材や鋼材の価格が上昇してから3ヵ月から5ヵ月程度のタイムラグを経て上昇していることが分かります。
3. 建築コストの水準はどの程度上昇しているのか?
次に、現在の「ダブルショック」の状況下で、建築コストの水準がどの程度上昇しているのかについて見ていきます。まず、木材価格と木造の建築コストについて、2020年9月から2022年9月までに、木材価格が72%上昇した結果、木造の建築コストは約20%上昇していることが分かります。また、木造価格が2021年に入り上昇し始めたのに対して、木造の建築コストは2021年6月より上昇しており、木造の建築コストは木材価格が上昇してから半年程度のタイムラグを伴い上昇することが読み取れます。(下図参照)
続いて、鋼材価格と鉄筋コンクリート造の建築コストについて見ていきます。2020年9月から2022年9月までに鋼材価格が78%上昇している一方、鉄筋コンクリート造の建築コストは約14%上昇していることが読み取れます。また、鋼材価格が2020年末から上昇し始めたのに対して、鉄筋コンクリート造の建築コストは2021年2月より上昇し始めており、鉄筋コンクリート造の建築コストは鋼材価格が上昇してから3ヵ月程度のタイムラグを伴い上昇していることが分かります。(下図参照)
このように、木材価格と鋼材価格が高騰している「ダブルショック」の状況において、木造の建築コストは約20%、鉄筋コンクリート造の建築費は約14%上昇していることが分かりました。また、建築コストは、木材価格と鋼材価格が上昇し始めてから、木造の場合で半年程度、鉄筋コンクリート造の場合で3ヵ月程度のタイムラグを伴って上昇し始めることが分かります。
4. 建築費の水準はどの程度上昇しているのか?
ここで、「ウッドショック」と「アイアンショック」の中、実際に木造と鉄筋コンクリート造の建築費がどの程度上昇しているのかについて見ていきます。まず、木造の建築費の水準について、持家用の木造一戸建てを例に取って見てみると、2020年9月から2021年12月まで18.5(万円/㎡)から18.6万円(万円/㎡)の水準で横ばい推移していたものの、2022年に入り上昇傾向で推移していることが読み取れます。(下図参照)
続いて、鉄筋コンクリート造の建築費の水準について鉄筋コンクリート造のマンションを例に取ってみてみると、2021年は26(万円/㎡)前後の水準で概ね横ばい傾向で推移していましたが、2022年は上昇傾向で推移していることが分かります。(下図参照)
これより、建築費は2022年に入り上昇傾向に入っていますが、木材価格と鋼材価格が高騰してから、タイムラグを経て建設資材価格や建築コストの水準が上昇したように、建築費の水準は、建築コストの水準が上昇してから、さらに半年から9ヵ月程度遅れて上昇していることが分かります。
また、木材価格と鋼材価格が高騰し、建設資材物価や建築コストは、それなりに上昇したにもかかわらず、木造と鉄筋コンクリート造の建築費水準は建築コストが上昇するほどに上昇していないことも読み取れます。
5. 建築費の今後の動向
最後に、今後の建築費の動向について考察していきます。
一般に、建築コスト(材料費+労務費)に建設会社の経費(管理費や利益など)を加えて建築費となります。その為、建築コストの水準が上昇すれば建築費も上昇しそうですが、前述したように、建築コストの水準が上昇しているほど大きくは上昇していません。
何故でしょうか?
これは、木材価格と鋼材価格の高騰による建築コスト増加分を建設会社が自らの経費(利益)を削ることで吸収しているからと考えられます。実際に、上場建設会社の2022年3月期における単体の営業利益を見てみると、多くの会社で減益となっています。
具体的に、上場している大手4社で各社単体の営業利益を例に取ると、大林組は前期934億円から今期44億円まで約95%減、大成建設は前期1097億円から今期753億円まで約31%減、鹿島建設は前期1051億円から今期811億円まで約23%減、清水建設は前期901億円から今期349億円まで約61%減と軒並み減益となっていることが分かります。
しかしながら、コストの増加分を自社で吸収し続けるのにも限界がある為、コスト増加分が建築費に転嫁され、建築費の水準は上昇することになります。
ここで2006年から2008年にかけて鋼材価格が高騰し、建築費の水準が大きく上昇したケースを例に見てみると、鋼材価格が上昇し始めてから、1年程度のタイムラグを伴って建築費が上昇し始めています。また、鋼材価格が2008年をピークとして2009年に下落したのに対して、建築費水準はピークを2009年に迎え、2010年より下落しています。
このケースを踏まえると、木材価格と鋼材価格が上昇を始めた時期から1年程度のタイムラグを経て、2022年始め頃より建築費の水準が上昇していますが、今後はさらにコスト増加分を建築費へ転嫁する動きが本格的になることで、上昇傾向が加速していくものと考えられます。
また、今後、仮に木材価格や鋼材価格が大きく下落するなどの場合も、建築費の水準は、直ちに下落せずに、一定の期間は上昇を続けてから下落する可能性が高いと考えます。
以上のように今回のレポートでは、木材価格が高騰する「ウッドショック」と鋼材価格が高騰する「アイアンショック」が同時に起きている「ダブルショック」の建設市況において、建設資材物価、建築コストと建築費が2022年9月まで、それぞれどの程度上昇しているのかについて把握するとともに、今後の建築費の動向まで紹介しました。
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