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少子化時代における最適な大学経営を考える

2020年11月に、慶應義塾大学と東京歯科大学が法人合併し、東京歯科大の歯学部を慶應大に統合するというニュースが報じられました。順調に進めば、2023年4月に「慶應大学歯学部」が誕生することになります。
 
慶應大と東京歯科大はそれぞれの医師の人事や教育活動で協力関係にあるなど、歴史的に近しい関係にあります。加えて、歯科医は供給過剰で、慶應大といえども歯学部を新設することは難しい状況でした。今回の統合によって、慶應大は医学部、歯学部、薬学部、看護医療学部の医療系4学部が揃うことになり、大学としての競争力が高まることは確実です。
 
 
限界点を超えた大学の経営悪化
 
慶應大と東京歯科大の統合は、いわば「攻めの統合」であり、経営に行き詰まった大学同士の合従連衡ではありません。ただ、足元の大学の経営状況を鑑みると、大学同士、とりわけ私立大学の統廃合が今後、増えることは間違いないでしょう。少子化に伴う大学の経営悪化はたびたび指摘されてきましたが、いよいよ限界を超えた感があります。
 
1999年に150万人を超えていた18歳人口は2017年に120万人まで減少しました。2030年代半ばには100万人を割り込むことが確実です。一方、大学進学率は一貫して上昇しており、進学率は2017年に男性は55.9%、女性も49.1%に達しました。大学進学を目指す若者の減少と進学率の上昇が意味することは、大学という市場の飽和です。
 
結果として、定員割れの私立大学は3割(2020年度)に上っていますが、国の支援はほとんど期待できません。私立大学における学生1人あたりの公財政支出は約16万円と国立大学の202万円に比べて13分の1。膨れあがる公的債務を考えれば、私立大学に対する助成金が増える可能性は低い。事実、文部科学省は大学同士の連携・統合を進めようとしています。
このように、収入面は徐々に余裕がなくなっているにもかかわらず、大学経営は複雑化の一途を辿っています。
 
 
大学経営は複雑化の一途
 
この10年、海外からの留学生を集めるため、立命館アジア太平洋大学など意欲的な一部の学校は英語による授業を充実させています。また、コロナ禍によってオンライン学習を強いられた結果、学生は海外を含め、様々な大学の講義を受けることが可能になりました。
 
もっとも、対応できる大学はさらなる人気を集める一方で、英語による授業に対応できる教授陣のいない大学や、オンライン化に対応したコンテンツを提供できない大学はどんどん劣後していきます。
 
加えて、グループワークやディベートなど学習者が能動的に学ぶアクティブラーニングの導入、教育現場におけるICT(情報通信技術)やセキュリティ対策、SDGsへの対応、有事の際のBCP(事業継続計画)、新型コロナをはじめとした感染症対策や災害対策など、大学が対応しなければならないことは山のようにあります。もちろん、キャンパスの耐震化やアメニティの充実といった老朽化する大学施設の更新も学生を集めるためには不可欠でしょう。
 
収入の伸びが期待できない反面、大学経営は複雑化し、コンテンツの充実などで支出は増えていく。この状況の中、大学はどうすればいいのでしょうか。一つのソリューションは、「キャンパスグランドデザイン」の構築です。
 
 
大学経営に不可欠なキャンパスグランドデザイン
 
キャンパスグランドデザインとは、長期ビジョンに基づく施設整備計画のことで、キャンパスマスタープランとも呼ばれます。予算に限りがある中、国内外の学生を惹きつけるような教育環境をどのようにして構築するか、必要な施設の建設や改修をどのように進めるか、中長期的な建物の維持管理費をどのように最適化するかなどの方針をまとめたものです。
 
インデックスコンサルティングがお手伝いした都内の大学は、以下の4つの要素でキャンパスグランドデザインを構築しました。
 
①景観に対する考え方、地域社会への貢献や発信などをまとめた「キャンパスデザイン」と
 施設のゾーニングや施設配置計画、キャンパス内のエネルギー計画(エコキャンパス化)などをまとめた「施設計画」
②実際の建設スケジュールや予算計画をまとめた「事業化計画」
③学内のセキュリティやICTの活用
④管理運営コストなどをまとめた「管理・運営計画」
 
この大学の場合、地方にもキャンパスを保有していたため、その敷地内に太陽光発電所を建設、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)を活用した売電事業を提案しました。収入源を多様化することによって、学生数の減少リスクに対応するためです。
 
キャンパスグランドデザインの策定で重要なのは、建設にかかるイニシャルコストから建物を使い続けるためのランニングコストを含めたライフサイクルコストを最適化すること、グローバル化、オンライン化という流れにあわせて教育環境と教育コンテンツの魅力を向上させることです。どちらも多額の投資が必要になりますが、日本の大学は広大な敷地を持っている場合が多く、そういった敷地をうまく最適化することで、施設整備と教育コンテンツへの投資を両立させることが可能だと考えています。
 
 
キャンパス再編に有効な官民連携
 
また、キャンパス内の施設を更新する際には、PPP(Public Private Partnership:官民連携)の活用を検討すべきでしょう。
 
インデックスコンサルティングが携わった別の大学では、学生寮の建築にPPPを活用しました。民間のデベロッパーが建物を建て、その後、所有権を大学に移し、建設したデベロッパーが施設の運営や維持管理を行うというスキーム、いわゆるBT(建設・移管)+コンセッション(公共施設等運営権)方式です。
 
民間事業者が負担した建築費と維持管理費は、事業者が施設の運営期間中の賃料で回収します。この手法によって、大学は建設費の負担や管理運営のリスクもなく、学生寮の新築が可能になりました。
 
もちろん、すべてのプロジェクトで建設費の全額をまかなえるわけではありません。また、賃料の適正化を図り、大学側の管理運営リスクを最適化するためには、入念な調査と制度設計、そして公平性と透明性を確保した事業者選定が欠かせません。
 
資金調達や官民連携の手法は多様化しています。事業創出を支援するインキュベーションやスタートアップ・エコシステムの導入、海外教育機関との連携、社会システムの変革に伴う新たな学部の設置などにも官民連携は有効です。それぞれの大学ごとに二―ズや解決策は様々だと思いますが、キャンパスの再整備と教育コンテンツの充実という二兎を追う施策は必ずあります。大学においてだけでなく、あらゆる課題を変わるチャンスと捉えれば、道は開ける、と私は信じています。
 

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