REPORTレポート

代表植村の自伝的記憶
国公立大学など公的な施設の土地利用はどこまで許されるべきか?
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今回は、公的な施設の土地活用について考えてみたいと思います。
2003年に制定された国立大学法人法によって、国公立大学は独立行政法人の一つになりました。自らの創意工夫のもと、独立した法人として教育の質の向上や業務の効率化、資金の調達などを図っていくということです。
国公立大学が自身の責任において大学を運営していくのはとてもいいことだと考えています。その背後には、国公立大学の統廃合という国の狙いもあると思いますが、少子化が進む中では必要なことだと思います。
その結果、国公立大学の中には大学に眠る先端研究を軸にスタートアップ事業支援のためのエコシステムを立ち上げたり、先端研究に投資するためのファンドを作ったり、それに必要な施設を建設するために寄付を募ったりと、さまざまな動きが出ています。
こうした動きは経営そのものであり、基本的には歓迎すべきことです。ただ、最近気になっているのは、大学の収益を増やすための土地活用のやり方です。
大学の中には、大学の敷地に学生寮やマンションなどの収益物件を建てるケースが少なくありません。そうした収益物件が大学教育に関連するものであれば問題ありませんが、はたから見て、教育とは無関係に思える施設も見受けられます。
国公立大学や私立大学の多くは昨今の少子化や電気代をはじめとした物価の高騰、人件費の増加などによって厳しい経営状況にあります。授業料の値上げにも踏み切らなければならないような今の状況で、収益拡大のために大学の敷地を活用しようと考えるのは当然のことかもしれません。ただ、安易にすべきかどうか、今一度考えるべきだと思います。
国の敷地を使った民間同様の賃貸ビジネスはあり?
例えば、国公立大学の敷地は国有地などの公有地です。国や地方自治体の土地なのに、民間企業と同じように収益物件を作り、民間企業と競業しながら稼ぐことに疑問を感じるのは私だけではないと思います。
しかも、公有地なので固定資産税がかからないうえに、独立行政法人による収益事業は法人税が優遇されています。こうした税制優遇を受けている大学が、公有地を活用して民間企業と同じようなビジネスを手がけているとすれば、どう考えてもおかしなことです。
専門的な話になりますが、学校法人の収益事業では、その利益の半分を法人税が非課税になる非収益事業へ繰り入れることで、法人税の計算上、一定額を損金に算入できます(みなし寄付金、法人税法第37条5項、同施行令第73条1項3号)。また、残りの半分に課される法人税率は普通法人より低い19%で(法人税法第66条)、税制上の優遇措置が設けられています。
それでは、私立大学であればいいのかというと、私立大学にも私学助成金という税金が投入されていますので、国公立大学と構図は変わりません。もちろん、公的な資金が投入されている国公立の病院も同様です。
大学法人の土地・建物の貸し付けについては、基本的には規定等で定められている一定の条件に基づく適切な管理の下、自主的に判断されるべきものですが、その内容は国で定める土地等の貸し付け基準に合致し、業務規定の範囲内、または当該業務に関係するものでなければならないとされています。
特に公共的な性格の強い国立大学法人の場合は、貸し付けの内容が公的な性格にふさわしいものであり、貸付先も適当と認められるものでなければなりません。同様に、私立大学についても、土地・建物の貸し付けは収益事業としての許可が必要であり、ふさわしい方法によって経営され、社会的な信用を損なうものであってはならないとされています。
こうした国の方針を鑑みれば、税制上の優遇措置を受ける以上、大学法人の収益事業は関係機関の許可を受けた上で、学校に帰属する教育研究活動および、それに付随する事業に限定すべきだと思います。
20年以上前に定借で商業施設を開発した時の経験
また、国公立大学法人の土地の貸し付けでは、定期借地権を設定し、大手デベロッパーに長期にわたって貸し付けるケースが少なくありません。
最近では、東京科学大学(旧東京工業大学)の田町キャンパスのケースが知られています。このケースでは、教育研究や産官学連携のための施設の他に、事務所やホテル、商業施設などが入った複合施設を民間事業者が建設しました。私立大学でも、上智大学が8年前に東京・四谷に大学施設と賃貸オフィスを併設したソフィアタワーを完成させています。
定期借地権(定借)とは、契約期間を決め、その期間を超えると借地関係が終了する不動産の権利のこと。契約期間が終わると、借り主は建物を解体して土地を返却しなければなりません。
また、定期借地権には、一般定期借地権、事業用定期借地権、建物譲渡特約付借地権の3つがあり、この中でも一般定期借地権は借地の契約期間が50年以上と極めて長い期間の定期借地権です。最近は住宅の分野で活用されており、タワーマンションのような大規模な物件では70年の定期借地権が主流になりつつあります。
私も2003年に故郷の三河安城で定借を活用した商業施設(デンデルプラザ)をつくりました。プロジェクトファイナンスのためにSPCを活用した定借による開発は珍しく、当時は注目を集めました。ただ、当時の契約期間は最長で20年と短かったため、建物の減価償却を考慮し、倉庫のような簡便な建物にする必要がありました。
定借の期間中には、ユニクロなど商業テナントの退店が何度も起きましたし、2008年にはリーマンショックもありました。それでも、2023年にサラ地にして地主のみなさんに土地を返却できました。これも、各テナントとの契約交渉の際に、将来にわたって考えられるリスクをすべて織り込み契約を結んでいたからです。
20年の間に三河安城の駅前は大きく変貌しましたが、その発展にデンデルプラザも貢献できたと思っています。契約満了の期日前に、地主のみなさんから新たな契約を要望された時は、少なからず故郷への恩返しができたと感無量でした。
定借のメリット・デメリット
この定期借地契約には、70年なら70年分の地代を一括前払いで受け取れるなどのメリットがありますが、契約の更新や中途解約が難しく、契約終了時の返還にも課題があります。また、契約期間が長期に及ぶため、借り主の経営破綻や事業転換、社会情勢の変化など、将来にわたる不確実性も残ります。
特に国公立大学法人が定期借地権を設定し、不動産事業を営む場合は土地の建築基準法上の取り扱いに始まり、法人の貸付規定や固定資産税の扱いなども考える必要があります。
さらに、本来は国に帰属する敷地の一部を民間事業者に貸与する形になるため、事業を実施する経緯や必要性、教育研究への関わり方などを整理する必要も出てくると思います。先ほども指摘しましたが、長期的な契約になるため、借地料の不払いや事業内容が変わった時の対処についても契約条件に盛り込むことが重要になります。
私が国内外で関わっているインフラPPP(Public Private Partnership:官民連携)は30年という期間が一般的です。それでも、契約終了時の協議事項や、想定されるリスクをどちらがどう分担するかというリスク分担を契約に盛り込みます。
また、相手国政府と日本政府の合意を結んだ後、相手国政府と民間企業が本契約を結び、そのうえでNEXI(日本貿易保険)や世界銀行の保険をかけ、社会や経済の変動リスクや災害リスクを最小限にしています。
一般論として、不動産事業はハイリスクハイリターンのBtoBの取引。ましてや、50年から70年という長期にわたる契約です。それ以上の対策が必要になるでしょう。
大学法人、特に国立大学法人には、PFI法に基づく学校PPPなどもあり、土地利用の選択肢は多岐にわたります。学校法人にとって土地利用は新たな収益確保の有効な手段ですが、次世代と教育研究への橋渡しとなるような、将来にわたって実りある事業につなげてもらいたいと願います。
(写真:Keiichi Yasu/, CC 表示-継承 2.0,)
【2025年4月11日掲載】
※このレポートは2025年2月27日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。
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