REPORTレポート
代表植村の自伝的記憶
フィジー・水環境フォーラムから始まる南太平洋・島嶼国でのインフラ支援
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【2024年3月1日掲載】
※このレポートは2024年2月22日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。
2024年1月31日から2月1日にかけて、南太平洋のフィジー共和国で、「水供給や水処理における課題と可能性に関するフォーラム :Forum on Water Challenges and Opportunities under Public Private Partnership(PPP)in Pacific Island Countries」が開催されました。
南太平洋の島嶼国は水資源の活用に関して、さまざまな課題を抱えています。そういった課題を、PPP(Public Private Partnership:官民連携)の手法を用いて解決するための議論の場として開催されたフォーラムです。
フォーラムには、南太平洋の島嶼国からは開催国のフィジーに加えて、サモア、トンガ、パプアニューギニア、ニューカレドニアの高官が出席。日本からは厚生労働省や国土交通省、JICAなどの政府関係者や日本企業の担当者が現地やオンラインで参加しました。
現地では、厚生労働省とともにフォーラムを企画・運営したOPPS(社団法人PPP推進支援機構)の副会長として私も開会の挨拶をさせていただきました。
今回のブログでは、地球温暖化による海面上昇と水資源への影響に直面している島嶼国の現状と日本にできる貢献について、私の意見を述べさせていただこうと思います。
島嶼国の水資源問題を解決するには
フォーラムでは、日本側のプレゼンを受け、参加した島嶼国の高官がそれぞれの国の状況についてプレゼンしました。それぞれの国が抱えている課題はさまざまですが、どの国にも共通しているのは、海面上昇、安全で清潔な水の確保、汚水の処理、Water Tariff(水道料金)の確保という課題です。
水資源として利用可能な水の量は、降水量の変動により絶えず変化しています。このため、大雨や干ばつなどの異常気象を引き起こしているとされる地球温暖化による気候変動は、水の利用可能量に大きな影響を及ぼします。
また、沿岸部では海面の上昇というリスクにさらされていますが、それが降水量の少ない時期に重なることで、河川や用水に海水が逆流し、河川や用水の塩分濃度の上昇という問題も引き起こしています。河川や用水に海水が混ざれば、農作物や淡水で暮らす魚に悪影響を与えてしまいます。
こういった塩水の被害を防ぐために、地下水の保全と海面の上昇を防がなければなりません。
もちろん、給水と汚水の処理も、同じくらい深刻な課題です。観光客が泊まるようなホテルは浄水設備や給水施設、下水などを処理する浄化槽が整っていますが、国全体で言えば、必ずしも整備されていません。結果、一般の人々の水環境は徐々に悪化しています。
水環境の悪化という課題が明確なのであれば、浄水場や下水処理施設を整備すればいいのですが、経済発展の途上である島嶼国には施設を整備するための資金が十分にありません。日本のように上水や下水にお金を払うという常識も一般的ではないため、利用料という形で国民に負担を求めるのも難しい状況です。
その中で、どのように水環境の問題を解決できるのか。その知恵を出すために官民の集まる場を作るということが、今回のフォーラムの目的でした。
それぞれの国のプレゼンやワークショップを聞いていて、私はODAとPPP、最先端のIoTテクノロジーを組み合わせて水関連のインフラを整備しつつ、産業振興と利用料の徴収を徐々に進めていく以外にないと感じました。
上水道や給水設備、合併浄化槽などの設備、水道料金の徴収システムの構築などに伴う投資はODAの枠組みの中で日本として支援する。利用料金については、徴収システムのデジタル化を通して時間をかけて徴収率を上げていく。その間の水道事業の運営は、コンセッションによって民間が担い、徴収料金の足りない分はODAを含む各国政府の公共投資で補充する──。こういう進め方が島嶼国にあった形だろうと感じました。
そのための具体的な整備計画や資金計画についても、日本が提案し、支援していく必要があると思います。
水素ビジネスの可能性
もちろん、デジタル化による利用料の徴収やインフラの運営と言っても、現地に新たな産業を興し、国民の所得水準を上げていかなければ絵に描いた餅になってしまいます。それでは、経済規模の小さい島嶼国でどんな産業が興せるのかという話になりますが、可能性があるのは水素ビジネスと第一次産業のイノベーションだろうと思います。
例えば、太陽光や洋上風力などグリーンエネルギーをベースにした水素の製造プラントを整備し、国内のエネルギーを水素でまかなうと同時に海外にも輸出する。その場合、一国では生産量も限定的でしょうから、それぞれの島嶼国が連携して一体的に進める必要があります。
また、農業や水産業のデジタル化を通じたスマート農業やスマート漁業(養殖含む)、物流のイノベーションによる新たなサプライチェーンの構築などで外貨を稼ぎ、効率性と生産性の向上につなげる仕組みも必要です。
これまで水にお金を払ってこなかった人々から利用料を取るのは一つのハードルですが、安全で清潔な水の確保や汚水の処理にはそれなりのコストがかかるもの。資金調達や徴収率のところを工夫すれば、利用料の負担感を重くしないようなスキームを組むことも可能になると思います。
水素ビジネスやスマート農業・漁業の部分でも、日本企業の技術とODAやPPPが活用できるのではないでしょうか。
日本からすれば、南太平洋の国々はあまり身近に感じることのない場所かもしれません。ただ、中国の影響力が増す中で南太平洋の国々との関係強化は地政学的にも重要です。
南太平洋の島嶼国が日本に求めているのは、海面上昇に伴う水資源の課題に象徴されるような、生活に直結する社会課題の解決策の具体的な提案です。こういったPPPを活用したインフラ支援スキームを成功させれば、社会課題解決のパイロットプロジェクトとして、ノウハウを世界のほかの地域に展開することもできるでしょう。
島嶼国はサイズが小さいがゆえに、パイロットプロジェクトを立ち上げるのに最適な場所。今回のフォーラムでの論点は7月に開催される第10回太平洋・島サミット(PALM10)でも引き続き議論されることを期待します。
ヤシが生い茂るフィジーのビーチ(写真:Jon-Eric Melsæter from Oslo, norway, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons)
WRITERレポート執筆者
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植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
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