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キャッセン大船渡・震災復興エリアマネジメント(後編)|地方創生最前線

国内における地方創生の取り組み事例について紹介するシリーズ「地方創生最前線」、初回となる今回は、岩手県「キャッセン大船渡」を取り上げて紹介していきます。
 
前編では、具体的な取り組みについて紹介しました。
後編では、まちびらき以来「キャッセン大船渡」のエリアマネージャーを務める臂 徹氏にインデックスのシニアアナリスト 橋詰がインタビューした模様をお届けします。

臂 徹(ひじ・とおる)1980年生まれ、群馬県出身。
大学院卒業後、景観デザイン事務所や建設コンサルタント会社に勤務。
東日本大震災発災後に、岩手県大槌町で国土交通省の復興計画の策定をする会社に転職し、大槌町に移住。
2013年、地域活性化をデザインする会社「株式会社Next Cabinet IWATE」を設立、代表取締役に就任。
2015年、大船渡のエリアマネジメントを推進する組織「株式会社キャッセン大船渡」を設立、取締役に就任。
2017年、子育て世代が子どもを預けながら働けるオフィス「マザー・リープス」の運営をする「合同会社Pride Cocoon」設立、CEOに就任。
2019年、大船渡駅周辺地区のタウンマネージャー就任。
都市計画と建築の経験を活かし、デザインを基軸にしたまちづくりや地域活性化、そして社会問題の解決を実践している。

1. キャッセン大船渡での取組み
——キャッセン大船渡もオープンから4年経過しました。臂さんは設立時からエリアマネージャーとして関わっていますが、オープから現在に至るまでとコロナ禍での変化、設立当初の苦労やその解決方法などについてお聞かください。
 
臂氏:オープン当初の第1期から現在の第5期まで順次街区が出来ていますが、特に2017年に商店街3街区が開店した際に開業景気があり、1年目はきらびやかに始まりました。大船渡の場合は、観光誘客というよりも地元商圏のための商店街という要素が極めて強いため、2年目で急激に売り上げが下がるということは無かったです。売り上げは当初予想と比べ、キャッセン大船渡直営の飲食店は1.3倍、物販は1.15倍程の売上高を記録しています。
2年目は当初計画から1.0倍を切るくらいの平常レベルで、3年目には少し盛り返しています。

そんな最中、2019年の冬頃から新型コロナウイルス感染症の話題が出始め、売上も落ち始めました。
ただ、物販店は感染症の流行後の方が売上を伸ばしています。ステイホームでのお家時間が伸びたためだと思われます。

飲食店は軒並み前年比3~5割減が続いていましたが、ここにきて大分戻ってきています。要因として商店にも危機意識があり、リーダーを中心にビアガーデン等の企画を商店主自らが仕掛け、危機を乗り越えようとしており、これが功を奏したと考えています。

また、キャッセン大船渡のエリア内にあるBRT大船渡線を境に、災害危険区域の第一種に指定されており、住宅の建築が認められていません。
来訪者の主たる目的は買い物や飲食になりますが、キャッセン大船渡を中心に市民活動センターなどの多様な主体がコミュニティをどう形成しているか、商業よりも生活者のコミュニティをこの街にどう作っていくか、取り組んでいるところです。

代表的なものとして「大船渡まちもり大学」というプロジェクトベースドラーニングの場を作り、住民が自らの町の課題をプロジェクト化し、実行していこうと取り組んでいます。
このような住民を巻き込んだ試みが良い形になってきており、単に買い物をする場ではなく複合的な目的を持って来る場所として時間消費の大きいエリアになっていると実感しています。

何かしらの働きかけを行うにも、チームビルディングが必要です。今はコロナ禍のため、表だって広範から人を集めにくいですが、人を呼び込む範囲を制限した上で、運営側が活動を忘れないトレーニングを続けています。
こういったトレーニングが有ると無いとでは大きく違います。
 
——物販はコロナ前よりも売り上げているとのことですが、具体的には何でしょうか。
臂氏:書店や菓子店などの小売りは比較的、コロナ禍後の方が売上を伸ばしています。
 
——キャッセン大船渡の来街者の特徴は。
臂氏:平日なら7~8割、休日は6~5割程度が地元商圏(大船渡市、陸前高田市、住田町、釜石市南部、気仙沼市北部)からの来街者となります。
三陸道が仙台まで延伸し、北も八戸まで繋がったため、地域外や沿岸部、内陸からの来街者が増えています。
客層は、当初想定では50代以上の女性のF3層が多いことを予想していましたが、実際はM2・F2層(35~49歳の男女)の子連れが多かったですね。
インデックスコンサルティング橋詰とキャッセン大船渡 臂氏のインタビュー写真
 
2. 新旧の融合:コミュニティづくり
——元々この場所で生活を営んでいた商業者と、復興後のテナント入居者とのコミュニティの形成は順調でしょうか。また、そのための工夫は。
臂氏:コミュニティは2つあり、一つはさいとう製菓から鎌田水産まで、全体のエリアマネジメントを行う体制。各社とも課題意識が高く、分担金を捻出することに対しても拒否感が少ないです。事前準備の際に分担金などで難しかった部分もありましたが、今は良好な関係になっています。

もう一つは商店街の中のコミュニティです。テナント会というものを組織しており、飲食店と物販店に分かれ、月2回程ミーティングをしています。
また、商店主が分科会を開き、販売促進案なども幾つか作ってもらっています。元々の商店街でリーダーだった物販店がリーダーシップをとっていますが、今後は若手に権限を委譲しようかと考えており、良い商店街の組織となっています。

キャッセン大船渡としても、販売促進費を集め企画を行っていますが、人員は4名程度で限りがあります。日々の細やかな販促の仕掛けに時間をかけられないのが現況です。商店主の組織と協議していますが、集めた販促費はある程度の管理費を抜き、残りは商店主に使い方を考えてもらい、組合のようにしようと試みています。
従前の課題を解決しながら新しさが入りつつ進めば良いと思っています。
キャッセン大船渡 臂徹氏
 
——古い人と新しい人、または世代間の大きな溝が生まれることはありますか。
臂氏:勿論声が大きい人もおり、その声が優先されてしまうこともありますが、運営会社であるキャッセン大船渡が間に入りながら上手く繋いでいきたいと思っています。
飲食店の方は若い世代に新しいリーダーになってもらいたいと思っています。
 
——キャッセン大船渡は設立時の人員が3名でした。今も少ない人数でやっているんでしょうか。
臂氏:庶務が1人、プロデューサー2人、サポートスタッフ2人、スポットで手伝うスタッフが数名いて何とか回しています。
 
——2017年にキャッセン大船渡は日本都市計画家協会の「日本都市計画家協会賞(日本まちづくり大賞)」を受賞しました。その際に評価されたポイントや受賞によって受けた影響はありましたか。
臂氏:評価されたポイントはいくつかあります。
一つは、市の方で官民連携のあり方を事前に検討されていたため、街の中でも官民連携に対して抵抗感が無く、リソースと特性を生かしたまちづくりに前向きだったことです。

今後どこの市街地でも官民連携は大切になっていきます。被災地の中では先駆的な取り組みをしていることや、きちんと制度に落としていることなどが評価されました。
短期間でコミュニティを形成することにも取り組んできました。エリアに関係する人や周辺の住民と一緒に物事を作る場を形成したことに対する評価だと思います。
 
3. まちもり大学:人材育成の取組み
——大船渡まちもり大学という取り組みの意図、目的、開催の頻度や参加者についてお聞かせください。
臂氏:まちを作っていく、育てていくという過程では少数精鋭で方針を決め、実行過程で人を巻き込んでいますが、旧来のコミュニティがある場所に新しい街を作るということなので、企画段階から地域の人を引き入れることが大事だと考えています。
エリアを形成している事業者や周辺住民が、日ごろ不満や不足と感じている点を受け止めつつ、課題を持っている人が解決の方法を考え、実行に移していく場が必要だと思っていました。

まちもり大学は、キャッセン大船渡と市民活動センター、東大から来ていたインターン生で立ち上げた取り組みです。
現在の受講生は60名で、半分は高校生です。

月1回外部から講演者を呼び、ワークショップと座学をセットにしたゼミ活動を行っていまする。それ以外に課外活動をプロジェクト単位で行っています。

直近では、8月15日に高校生たちが主体となり、まちなかでの文化祭を行いました。
2019年には、運動部の学生が県大会と重なり文化祭が開催出来ず、2020年は感染症対策で未開催となりました。
2021年はその後輩たちが担い手となって準備を進めています。

まちもり大学は2019年の立ち上げから約2年間、イベント毎の企画が中心でしたが、2021年現在では海洋資源への問題意識を持ち陸上蓄養の施設整備に繋がるプロジェクトが発足するまでになりました。

——まちもり大学はどこかの高校と提携しているのでしょうか。また、それは自発的な参加ですか。
臂氏:県立大船渡高校は探求学習を熱心に取り入れており、探求学習の先輩として参加していたため連携はありました。
探求学習を普段志向している学生たちが、まちもり大学を利用したいと自発的に参加していますね。
それに触発された大船渡東高校の学生たちも10名ほど参加しています。

——残り半分の参加者の傾向は。
臂氏:30~50代くらいが多いです。エリア内の事業者、そのスタッフ、次世代の店舗の担い手、キャッセン大船渡内外の商店街店主、大船渡町内の住民など。
高校生が参加する場では、大人はメンターとしての参加が多いですが、学生が大人のやる気を起こさせるようになっており、こちらも彼らを応援しています。
 
4. 未来へ:大船渡のこれから
——大船渡に限らないですが、全国的に人口減少、少子高齢化でマーケットの縮小が予測されています。キャッセン大船渡では何か対策されていますか。
臂氏:SDGs、DXなど、この先を見据えた取り組みの重要性を実感しています。
特に小売は商圏の規模に大きく依存した事業展開をしており、それをどう外向けに販路を開いていくかが重要。
小売DXは、世間に後れを取ることなく進んでいく必要があると考えています。

既存のECサイトや独自のECサイトを立ち上げ、広範に販路を広げるよりも、ダイレクトマーケティングやサプライチェーンを検討しています。
これは、某社の本社及び支社に社販を行うというもので、キャッセン大船渡と企業の間で提携を結ぶ。支社単位で注文を取り、特定の曜日に発送することで輸送コストを下げ、大船渡の良いものを手に取ってもらう生協の企業版のようなものです。
今までの繋がりを大事にした上で販路が開けるのではないかと思います。
 
——同じ商圏である(大船渡市)盛町との共存共栄の方法はありますか?
臂氏:大船渡商工会議所に商業部会があり、部会長が盛町のサンリアショッピングセンター会長理事の門田氏、副部会長が私です。
会議所の方で意識して盛町と大船渡を結び付けてくれています。
そこでは協働的に動いており、Go To Eatキャンペーン事業での共同展開や、両モールの飲食店でインセンティブ付商品券の販売などの連携はしていました。

震災後、盛町へ大船渡の飲食店が空き店舗の利用を打診した際は、了解を得られませんでした。
夜間店舗の業態など、盛町住民への配慮が理由だと思います。商店街自体の元々の性質の違いはあるものの、上手く住み分けができるのではないかと考えています。

また、エリアマネジメント、エリアリノベーションなど、地域内でも別の方法で街を活性化する手法がとれる関係性です。
震災後、そういった面では大船渡市がリードしており、緩やかではあれど実効性のルールを展開してきました。これを援用しつつ、盛町らしいエリアイノベーションのあり方を手助けするため、具体的な手段による試みを先行して挑戦していきたいと思います。

また、具体的なエリアリノベーションの推進自体が盛町にはありませんが、大船渡市は都市再生推進法人にキャッセンが指定されており、指定されたメリットや組織がある価値が市に蓄積されています。
それを盛町へも展開していくのが今後の目標です。
 
——2021年、新沼崇久氏*がお亡くなりになったことは大きな痛手ですが、持続可能なまちづくりは地域の若者がリーダーとして育っていくことが必要不可欠です。
大船渡市のまちづくりを牽引する次世代のリーダーは育っていますか。
臂氏:どうしても地方のまちづくりは属人的に進めざるを得ない面があり、キーとなる人物が亡くなると負の効果が大きいです。取り組みが引き継げないのです。
そういった意味では、次世代を牽引する若手には、他者を頼れる人物や力技で進める人物ではなくて、人と上手く付き合いながら巻き込んでいくような、属人的ではない大船渡らしいリーダーシップを構築していくことが大切だと考えています。
 
——人材育成で臂さんの担われている役割は。
臂氏:人を教育していくことは大変なことで、関わっていく人の想いがあってこそのことです。
大船渡に根を張り、その地で生きていく人が若い世代から出てくることが大事だと思っていますね。

——今日はお忙しいところ、ありがとうございました。
 
*新沼崇久(にいぬま・たかひさ)氏
キャッセン大船渡の飲食店オーナーで、復興まちづくりの牽引役だった若手世代のリーダー。
2021年6月、交通事故に遭い50歳の若さで惜しまれながら逝去。
心よりご冥福をお祈りいたします。

キャッセン大船渡・震災復興エリアマネジメント(前編)
キャッセン大船渡






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