REPORTレポート

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FM事例紹介3:神奈川県住宅供給公社「持続可能な社会構築のための広域FM」(2019年度 最優秀ファシリティマネジメント賞:鵜澤賞受賞)〜 後編 〜

(※公開されているFM事例のご紹介であり、当社の業務実績事例ではありません。)

公共組織に民間企業の経営手法をとりいれた、神奈川県住宅供給公社の大規模住宅を中心にまちづくりにも絡むFM事例、「持続可能な社会構築のための広域FM」のご紹介の後編として、具体的な取り組みや活動を詳しくご説明します。(出典:写真・イラストは神奈川県住宅供給公社HPから抜粋)
 
1.二宮団地における地方創生活動
昭和40年代に、周辺で働く人たちの人々の住宅供給を目的に、里山を宅地造成して開発された二宮団地を舞台に、再び、里山・海・畑など多くの自然が溢れる地域として、地域住民とともに自分たちで欲しい暮らしをつくれる楽しい場所にしようとする活動。二宮町の総合戦略におけるモデル地区として、二宮団地の中央に位置する一色小学校の学区が選ばれ、地域住民・二宮町・公社からなる「一色小学校区地域再生協議会」が組成され、連携して地域課題の解決へと取り組みを推進しています。

1) 共同農園の運営
団地内の公社所有地にある共同菜園や団地に近接する共同水田等を活用し、周辺地域の農業生産者や地域で活動する住民団体と連携して、共同農園を運営し、お米、さつまいも、野菜などを栽培しています。田植えや芋ほりには、子供から大人まで参加し、食の大切さを学んでいます。


2) 地域の古民家を利用したコンサートや里山ウォークイベントの実施
若手アーティストによるコンサートや町内ウォーキングには、他の地域からも多くの人が集まり、二宮町を知ってもらう機会をつくり、まちおこしにつながっています。ウォーキングのための道標整備なども、地域活動として住民が自ら行っています。


3) コミュナルダイニング
団地の商店街の一角に、ピザ窯まであるダイニングが開設されています。日常のカフェ、パーティーや収穫祭、近隣の飲食店の協力による食イベント、住民集会などに活用されています。プロの伴奏も交えて毎月開催される「歌声ダイニング」は毎回賑わっています。


4) 多様な住宅リノベーション
二宮町に隣接する小田原の杉材を使ったリノベーションプランや、自分の好きな部屋を自分で作りたい人のためにはセルフリノベーションプランも用意され、随時団地見学ツアーも開催されています。実際に二宮団地に住んで、二宮団地ならではの楽しい暮らしを自ら創造する「暮らし方リノベーター」を設置し、里山ライフの様子をホームページで発信しています。


2.相武台団地のグリーンラウンジ・プロジェクトと住替え支援プログラム
昭和40年代に小田急線相武台駅前に建てられた総戸数2,500戸超の大規模郊外型団地。50年の時を経て、高齢化・単身世帯の増加・建物老朽化・商店街の閉鎖等の課題を抱えてます。一方、都心にはないコミュニティ・住棟間の緑あふれる広い共有空間という特性を活かし、大規模団地ならではの魅力を引き出したグリーンラウンジ・プロジェクトや住替え支援策で、課題解決を図っています。

1) 店舗と町が繋がる空間づくり〜グリーンラウンジ・プロジェクト

公益社団法人かながわ住まいまちづくり協会など外部団体・企業とも協力して、店舗空間と共有空間を活用し、多様な世代が集い、団地住民と地域住民が気軽に交流できる場として、カフェ、学童保育、デイサービスなどの機能をもつ多世代交流拠点「ユソーレ相武台」や芝生広場を設置しました。


2) 住み替え支援
分譲住宅空家活用型住替支援、賃貸住宅高層階活用住替支援により、高齢者に団地内のサービス付き高齢者向け住宅や、低層階に住替えてもらい、団地外から新たに若年・子育て世帯を流入させ、空家の解消・高齢化対策を図りました。グリーンラウンジ・プロジェクトによるコミュニティサロンや地域交流スペースは、この住替えをサポートする魅力ある施設として機能しています。



3.ハード・ソフト両面が充実した高齢者施設の運営
「生涯自立」〜人生100歳時代を迎えてもなお、要支援・要介護の認定を受けずに、健康寿命を延伸し、いつまでも健康に暮らすこと〜をコンセプトとした介護付有料老人ホーム「ヴィンテージ・ヴィラ」を横浜・向ケ丘遊園など県内5か所で運営しているほか、前述の相武台団地内では、サービス付き高齢者向け賃貸住宅「コンチェラート相武台」を運営しています。


介護状態になる主な原因は、脳心臓系血管障害・認知症・骨折・老人性欝(引きこもり)と言われており、「生涯自立」にはこれらの予防が必要と考え、バランスのとれた食事・適度な運動・生きがいの日々の3つの取り組みを行っています。生きがいの日々に関しては、コーラス活動に力を入れ、県民ホールなどでの各施設合同コンサートを開催するまでになっています。また、神奈川県立保健福祉大学などと連携し、栄養調査研究、健康教育プログラム開発、食事メニューの共同企画・提供、「食」を通じた介護予防、食育セミナーの実施など、健康寿命延伸の取り組みを行い、「食事・栄養・体力づくり」の分野でのサポートを推進しています。このように、施設ハード面だけでなく、運営のソフト面に注力した総合的なFMを推進し、SDGsにもつながっています。


4.Kosha33
港横浜の歴史的建造物が立ち並ぶエリア、横浜DeNAベイスターズの本拠地横浜スタジアムにもほど近い、横浜市中区日本大通33番地に建つ神奈川県住宅供給公社ビル。その1F・2Fを開放して「Kosha33」を開設しました。「くらし リノベーション」をテーマに、人・まち・住まいをつなぎ、公社の事業と取り組みに関する情報を発信するスぺ―スです。スタジオ、ホール、ライフデザインラボ、ギャラリー、カフェなどのスペースに多様な人々が集い、様々なカルチャーに触れ合える場を目指し、公社のブランディングにも大きく役立っています。


5.SGET中井メガソーラー発電所

県・中井町・民間業者と連携し、中井町の公社所有地14haに太陽電池パネル約4万枚を敷設し、メガソーラー事業を展開しています。開発時には県内3位の出力規模(一般家庭2,870世帯分)でした。(2015年4月発電開始)
さらに、建設時に伐採した樹木を、公社の建替物件や子育て支援施設の内装材等に有効活用し、SDGsにも貢献しています。


以上、神奈川県住宅供給公社の幅広いFMの取り組み事例をご紹介しました。
 
先に、本講座02において、日本におけるFMを、下記のように定義しました。
 
「企業・団体などが、その組織活動のために保有・使用する全ての施設資産とその利用環境を、経営的視点・利用者の観点から総合的に企画・管理・活用して全体最適化をはかる経営活動」。
 
神奈川県住宅供給公社のFMの取り組みは、まさに、保有する全ての施設資産とその利用環境を、経営的視点・利用者観点から総合的に見直し、現在そして近未来の社会環境も勘案して、斬新な発想で企画し、きめ細かくかつ効率的に管理し、多様な世代の人々が満足できるよう余すところなく活用することで、各施設の個別最適解を実現しつつ全体最適化を図り、瀕死の赤字財政だった公社という組織を甦らせただけでなく、さらに発展させているという、稀にみる優れた「経営手法としてのFM事例」といえるでしょう。


前回 FM事例紹介3:神奈川県住宅供給公社「持続可能な社会構築のための広域FM」(2019年度 最優秀ファシリティマネジメント賞:鵜澤賞 受賞) 〜 前編 〜

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