REPORTレポート

面白いほどよく分かるファシリティマネジメント講座

FMコラム:FMはどこから来てどこへ向かっているのか?

これまでの講座でも、ファシリティマネジメント(FM)の成り立ちについては、折に触れお話ししてきました。
先日、FMの歴史を語る機会があったのですが、現在FMに関わっている人でも、意外にFMの歴史をご存じないようなので、事例の合間に、ちょっとご紹介しておきたいと思います。


米国で発祥したFM
世界で最初にFMが生まれたのは、1960年代末の米国。企業のオフィス管理、大学のキャンパス管理の現場からスタートしたといわれています。いろいろな企業や大学における実務としてFMが広がりを見せる中、米国ミシガン州に本社のあるオフィス家具メーカー、Herman Miller社が、1973年に、世界初のオフィスに関するFMの研究機関として、FMI(Facility Management Institute)を設立しました。筆者は、1992年にHerman Miller社を訪問し、当時の研究者の一人にインタビューした経験があります。

FMI設立から3年後、1976年に、各企業におけるFMの実務担当者、いわゆるファシリティマネジャーの職能団体組織としてIFMAが立ち上がると同時に、上記FMIの活動は発展的に解消。FMIはIFMAの前身と位置付けられています。

一方、FMを世界で初めてアカデミックに体系化し、大学院コース(Facility Panning & Management:FPM)を設置したのが、筆者が学んだ米国Cornell大学です。

少し遅れて1970年代半ば頃から、ヨーロッパ諸国でも、イギリスやオランダを中心に、企業や大学においてFM活動が広まりました。


日本にいつどうやってFMが入ってきたのか?
1986年夏のある雨の午後、池袋サンシャインの会議室の一室に人があふれ、むせかえっていたことを覚えています。正式名称は忘れましたが、「米国インテリジェントビル視察報告会」のようなシンポジウムだったと思います。

「FM」が、日本で初めて公に紹介されたのは、この株式会社デルファイ研究所が開催したシンポジウムでした。筆者を含め、何人もの古くからのFM関係者に同じ記憶があるので、間違いないと思います。

その前年1985年に、東京理科大学の沖塩荘一郎教授を団長に「第2回インテリジェントビルの調査研究」で訪米した調査団が、ニューヨークのWorld Bankのオフィスを訪問した際、CADを使ったCAFMを利用して、ユーザーサイドがオフィスファシリティのマネジメントをしていることに驚愕したことが、日本の建築等関係者のFMとの衝撃の出会いでした。翌年、この視察報告が、上記のシンポジウムで行われ、日本に初めてFMが紹介されたのです。

もちろん、外資系企業の日本オフィスでは、本国からの指示で、このとき既にFMが実践されていたと思われますが、日本国内の企業・団体にFMが紹介されたのは、後にも先にもこのシンポジウムでした。


その後の日本でのFMの動き
その後、前述の沖塩教授のほか、日建設計の小倉善明氏、イトーキの村谷博義氏などが加わってFMらしきものの研究・啓発活動が、スタートしました。

また、翌年1987年からはFM協会の設立準備活動等も始まりました。
日本企業が、本格的に、オフィスのマネジメントにFM手法を導入するのは1990年以降です。日本IBMの中津元次氏がオピニオンリーダーとなり、1987年頃から、「日本的なFMの体系」が次第に構築され、そのタタキ台ができたのは1991~92年頃です。

一方、ちょうど同時期に、日本の高度成長は、ウサギ小屋のような住宅と労働環境の上に成り立っているという欧米からの批判を受けて、通産省(現在の経済産業省)主導で、1986年にニューオフィス推進委員会が発足し、1988年に「ニューオフィス化の指針」が発表されました。(註)

そこで、オフィス家具メーカーを中心に、このニューオフィス化推進に併せて、オフィスでのFMの活用を視野に入れた活動が始まりました。各社から、盛んに、米国企業におけるFMやFM手法の手引きなどを紹介した広報誌(コクヨのECCIFOやイトーキのOffice Ageなど)が、発行されたのもこの頃です。

このように、「ニューオフィス」と「FM」を、同時に推進したことで、日本では、「オフィスのFM」がFMの主流になりました。公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)・一般社団法人ニューオフィス推進協会(NOPA)・公益社団法人ロングライフビル推進協会(BELCA)が共同で、1997年から毎年実施している「認定ファシリティマネジャー資格制度」は、オフィスのインハウスファシリティマネジャーが主な対象で、FMの体系も「オフィスのFM」が大半を占めているのが日本のFMの実状です。病院や大学の一部にもFMが導入されてはいるものの、なかなか拡がりません。


最近の世界のFMの動き
いまや、世界のFMは、組織が保有または利用するあらゆるファシリティ、すなわち、病院、学校、駅舎、空港、官庁施設、商業施設、オフィスなどに拡がっています。先ごろ制定されたFMの世界標準ISO41000(ISO FM)も、このベースに立っています。

また、広義には、道路や橋等のアセットやまちづくりもFMの対象と考えるようになってきています。一方、オフィスも、いわゆるセンターオフィスだけでなく、コロナ禍で急速に現実化したサテライトオフィスやコワーキングオフィス、在宅ワークのホームオフィスにも広がり、FMの対象はどんどん拡大しています。


註)ニューオフィス推進
1980年代半ば、自動車輸出交渉での日米貿易摩擦等の経済摩擦や、日本の住環境に対する「うさぎ小屋」批判など、日本の高度成長は国民生活を犠牲にして成り立っているとの批判を、欧米から受けていました。また、経済のソフト化・サービス化が急速に進み、全就業者の半数3千万人がオフィスワーカーになっているにもかかわらず、生産現場である工場のみを重視する傾向にあり、オフィスの重要性が未だ理解されていませんでした。さらに、オフィスにコピー機やファックス、ワープロ等が導入され、いわゆるOA化が進んだ時期でもありました。

当時の通産省(現経済産業省)は、「ゆとりと豊かさ」を政策最大のテーマとして掲げ、諸外国からの批判を退け、内需拡大も図ることを目的に、1986年にニューオフィス推進委員会を立ち上げ、オフィス環境の改善に着手しました。

1987年にはニューオフィス推進協会(NOPA)が設立され、1988年には、「ニューオフィス化の指針」が公表されるとともに、NOPAと日経新聞共催で、第一回日経ニューオフィス賞がスタートしました。

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