REPORTレポート
面白いほどよく分かるファシリティマネジメント講座
FM事例紹介1:板橋区の公共FM(2021年度 日本ファシリティマネジメント大賞最優秀賞受賞)|面白いほどよく分かるファシリティマネジメント講座06
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(※公開されているFM事例のご紹介で、当社の業務実績事例ではありません。)
FMについてさらに理解を深めていただけるよう、今回からしばらく、日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)主催の日本ファシリティマネジメント賞受賞先におけるFMの実践事例をご紹介していきます。
FMについてさらに理解を深めていただけるよう、今回からしばらく、日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)主催の日本ファシリティマネジメント賞受賞先におけるFMの実践事例をご紹介していきます。
最も直近の優秀事例として、2021年12月発表の、2021年度最優秀ファシリティマネジメント賞(鵜澤賞)受賞、「東京都板橋区における公共施設マネジメントの取り組み」、いわゆる公共FMの事例をご紹介しましょう。
東京都板橋区とはどんなところ?
板橋区は、東京都の北西部、荒川沿いに拡がる、面積32k㎡(23区中9番目)、人口約566千人(2022年3月現在、23区中7位)、年間予算規模2,209億円(2021年度当初一般会計)の特別区です。東は北区、西は練馬区、南は豊島区に隣接し、北は荒川を挟んで埼玉県です。武蔵野台地の北端と荒川低地の境目に位置するので、坂道の多い区です。
都心大手町まで地下鉄都営三田線で20分弱、副都心池袋まで東武東上線で5分足らずのアクセス。 2021年12月には「共働き子育てしやすい街ランキング」で23区中1位にランキングされるなど、都心で働くファミリー層に魅力ある区になっています。
板橋区役所は、職員数3,644名(2020年4月現在)。連結された北館(地下1階地上13階建)と南館(地下1階地上7階建)からなる本庁舎は、都営地下鉄三田線 板橋区役所前駅と北館地下1階で直結し、地下鉄駅の真上に庁舎があります。
東京都板橋区のFMとは?
東京都板橋区のFMとは?
板橋区が管理運営する公共施設は、2021年4月現在、428施設(学校教育施設が6割)、延べ床面積約 87 万㎡(区民1人あたり1.53 ㎡)に及びます。板橋区役所では、これらの公共施設に関して、2011年から約10年間にわたり、継続的に公共FMに取り組んできています。
FM導入の背景には、板橋区がおかれている下記の状況があります。
1)人口減少:総人口・労働生産人口減少、高齢化率急上昇2045年29%。
2)財政逼迫:民生費の急増で扶助費による経費圧迫。施設経費縮小が急務。
3)公共施設劣化:築50年以上4割、30〜50年4割。建設費の高騰。
板橋区では、施設の現況把握と施設白書作成からFMをスタートし、そのデータに基づき、2013年に、3つの基本方針<1.総量抑制、2.計画的な管理・保全による耐用年数の延伸、3.区有財産の有効活用>を定めた「公共施設等の整備に関するマスタープラン」を策定しました。
具体的には、3つのマネジメント<①人口構造の変化による需要・ニーズ変化に対応したマネジメント:総量抑制と区有財産有効活用、②LCCの把握管理に基づくマネジメント:総量抑制と耐用年数延伸とLCC縮減、③時代の要請に対応したマネジメント:施設の質の向上>により、環境負荷や財政負担を軽減し、バリアフリー対応された適正量の公共施設運営を目指すというもの。これを受けて2015年には個別整備計画を立案して実行に移しました。マスタープランは、度々の改定を経て、2019年に「いたばしNo.1実現プラン2021公共施設等ベースプラン」、2021年に「いたばしNo.1実現プラン2025公共施設等ベースプラン」として、継続中です。
板橋区のFMの成功の秘訣
一般的に、組織が縦割りで、全庁横断的な権限を、容易に獲得しにくいのが公共経営です。そうした枠組みの中で、板橋区のFMが成功したカギのひとつは、総務部や建設部ではなく、「政策経営部」が統括的なマネジメント機能を発揮している点です。この部署が、保全規程と維持改修経費の優先順位を作成し、プロジェクト計画段階での事前調整の仕組みをつくり、公共施設等総合管理計画と、ベースプランを定期的に改定しながら、 PDCA サイクルを回しています。
政策経営部は、政策企画課(基本計画、実施計画、公共施設マネジメント、施設跡地活用)・経営改革推進課(行財政改革、民間活力の活用、行政評価等)・施設経営課(区施設の保全・点検、営繕工事の計画・施工等)の3課からなっています。政策企画・経営改革・施設経営が三位一体になり、統括的なマネジメント力を発揮して実効性のある活動ができているのです。「人材育成・活用計画」と「実施計画」、「経営革新計画」が相互に作用し、「公共施設等ベースプラン」の情報に基づいて、エリアマネジメントや多面的な施設経営が行われています。
維持改修経費の優先順位の判断にあたっては、施設整備のサイクル、施設整備基準、改築・改修・修繕の優先順位を設定する基準等を定めて総合的かつ計画的な管理を進め、予防保全に取り組み、プロジェクトマネジメント要領による事前協議制度を活用しています。
具体的なFMプロジェクトの数々
具体的な活動としては、環境配慮や省エネ化、ユニバーサルデザインへの配慮により魅力ある公共施設づくりに取り組んでおり、下記のようなプロジェクトを推進しています。
・板橋区本庁舎南館改築:オープンな防災拠点化、窓口業務改革、オフィスレイアウト標準化、快適なサイン計画等。
・板橋区立美術館改修:築40年を見据え、「継承と刷新」によるSDG’s体現施設への大規模改修。
・板橋こども動物園改築:築45年の施設を省エネとSDG'sを推進する草屋根の畜舎に改修。ヤギが屋根で草を食むのが見どころ。
・中央図書館移転改築:絵本のまち“板橋”を象徴するボローニャ絵本館併設。
・東板橋体育館改築:改築に合わせ「植村冒険館」を複合化。
・小中学校改築・改修・長寿命化:改築5校、大規模改修19校、新設2校、長寿命化改修2校。
・区営住宅再編整備:単身者用⇔世帯用変換可能な間取り等、3か所で整備中。
また、「エフエム通信」等による庁内の意識啓発はもとより、FM先進自治体として他の自治体への講師派遣による情報発信や、 23 区の FM ネットワーク構築等、広域連携の取り組みを積極的に続けています。
トップダウンとボトムアップ
現在4期目、2010年から板橋区長をつとめる坂本たけし氏が、建築の博士号を持ち、大手建築設計事務所出身の建築のプロでFMに造詣が深いことも、板橋区のFM推進に大きく影響しており、トップダウンとボトムアップの両面の良さが出ているみごとな FM 実践例といえます。
WRITERレポート執筆者
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古阪 幸代
インデックスコンサルティング 顧問
富士銀行在職中に、ファシリティマネジメントに出会い、米国コーネル大学大学院で研究。シリコンバレーでのコンサルを経て、同銀行に復職し国内銀行初のFM部門を設立。コンサルタントに転身し、Genslerで東アジアの各社をコンサルした後、インターオフィス、明豊ファシリティワークス、三機工業等で代表・役員としてコンサル活動を継続。文科省・国交省・各種団体の委員・役員も歴任。自らもオフィスづくりに関わるネットワークWFMを1997年から主宰。会員600名超。一貫して、人を中心においた働きやすい環境を、経営戦略的に計画・構築・運営する戦略的FMを提唱・推進している。講演・執筆も多数。
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