REPORTレポート

代表植村の自伝的記憶

芸術文化のポテンシャルを活かし切れていない日本

【2024年2月16日掲載】
※このレポートは2023年10月22日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。
 

陶磁器がお好きな方であればご存じかもしれませんが、「せともの」の町として知られる愛知県瀬戸市には、愛知県陶磁美術館という陶磁の専門ミュージアムがあります。

現在は改修のため休館していますが、重要文化財を含む国内外のコレクションに加えて、やきものの魅力を伝える展覧会や陶芸体験、敷地内から発掘された平安時代の窯の展示など、瀬戸と常滑という、「六古窯」と呼ばれる陶磁窯の二つが集まる愛知県ならではのミュージアムです。

陶磁の歴史における愛知県の重要性を鑑み、日本最大級の窯業地である瀬戸市に1978年に開館しました。愛・地球博記念公園(2005年に開催された愛・地球博記念公園、現在のジブリパーク)は陶磁美術館の横にあります。

愛知県には、この陶磁美術館のほかにも、世界に誇ることのできる芸術・文化関連の施設があります。名古屋市中心街の栄にある愛知芸術文化センターがそうです。


新国立に匹敵する愛知芸術劇場


愛知県芸術センターは名古屋駅から近く、アクセスが抜群の場所にあります。愛知県美術館と愛知県芸術劇場の二つの施設が一つの建物に集約されており、それについては賛否両論ありますが、空間、仕様、機能の面から見ても、日本を代表する施設と言ってもいいと思います。

美術館の開館はおよそ30年前の1992年。収蔵されている作品は、ピカソやマティス、クリムトといった西洋の著名画家や梅原龍三郎や横山大観など日本の洋画家によるものもあれば、江戸絵画や日本絵画、陶磁器、考古遺物などもあり、バラエティに富んだ作品が展示されています。

木村定三コレクションが典型ですが、愛知県には昔からアートコレクターが多く、寄付や寄贈によってこれだけの作品が集まったのです。西洋絵画から日本絵画、モダンアートや20世紀の作品から古いものまで幅広く集まる、日本を代表する総合美術館です。

愛知県美術館で開催された「あいちトレエンナーレ2019」では芸術・文化の表現の自由と西欧近代システムの価値規範の関係性について世界が考察する機会となりました。

2010年から3年ごとに続いた「あいちトレエンナーレ」は、2022年に新たに組織委員会を立上げ、国際芸術祭「あいち」に名称変更しました。2025年には、世界的なキュレーター、デイレクターとして知られるアラブ首長国連邦出身のフール・アル・カシミ氏を芸術監督に迎え、日本最大のアートイベントを開催します。

もう一つの愛知県芸術劇場も、美術館と同じ1992年に開館しました。こちらは新国立劇場に匹敵する日本を代表する劇場で、オペラ、バレエ、ダンス、演劇など最高水準の現代舞台芸術が可能な大ホールや、世界三大オーケストラの公演に対応したコンサートホールなどがあります。


来館者数が減少傾向にある県美術館
 
このように、愛知県には芸術文化に関連した優れた施設が点在していますが、そのポテンシャルを十分に活かしているかと言えば、残念ながら言えません。

冒頭の愛知県陶磁美術館は、自然豊かな広大な敷地の中に素晴らしい建物が点在しています。コレクションも重要文化財を含む7000点以上の近代・現代の陶芸作品です。陶磁文化を次世代に発信する、世界屈指の陶磁専門ミュージアムと言っても過言ではありません。

それにもかかわらず、いかんせん知名度が低く、陶芸が好きな人でなければ愛知県民でさえも訪れたことのある人は少ないのではないでしょうか。

愛知県美術館は、上述したように名古屋市の中心部にあるためアクセスも良く、収蔵作品も素晴らしいものが並んでいますが、来館者数やギャラリーの展示利用は減少傾向にあります。

劇場の方も、日本屈指の設備と内装を誇る大ホールやコンサートホールの存在を考えれば、世界最高水準の劇場に生まれ変わる可能性を秘めています。

愛知県は大村秀章知事の下、愛知県の芸術文化を世界に発信するため、さまざまな施策を打ち出しています。その目的は、愛知県に訪れる国内外の観光客を増やすのみならず、スタートアップの起業家を含むクリエイティブな人材を愛知県に呼び寄せるため。街の魅力を高めるためには、スポーツや芸術文化、エンターテインメントが不可欠だと大村知事は考えています。退屈な街に人は来ませんから、当然ですよね。

ジブリパークを誘致したのも、愛知県アリーナを新設するのも、愛知県に国内外の観光客を増やし、クリエイティブな人材が世界中から集まる街にするという方針の一環です。

そう考えると、愛知県陶磁美術館、愛知県美術館、愛知県芸術劇場という3つの施設の連携を進め、新たなエコシステムをつくること、それが愛知の芸術文化を世界に発信する起爆剤になるのではないかと考えています。


3つの拠点の有機的な連携が必要
 
単体の美術館でいえば、収集、展示、保存、調査、研究、教育、普及と行った美術館の基本的な使命のほかに、世界中のコレクターやディーラー、アートファンが集まるアートフェアとの連携が考えられます。アーティストの育成や創作体験を組み合わせた場にするという視点も重要です。

今の時代、いくら有名な作品であっても、アート作品をただ並べるだけでは来場者を増やすのは難しいでしょう。また、発信力を高め、国内外の芸術文化に造詣の深い企業や個人に自ら接触しなければ、海外の美術館や博物館のように寄付や寄贈を集めることもできません。

そのためにも、美術館独自の強みを打ち出すとともに、才能あるアーティストを集め、育て、その制作プロセスを来場者が観覧し、時に追体験できるような仕掛けが必要になると思います。

もちろん、アーティストを育成するのですから、作品の販売や制作プロジェクトの資金調達を支援するソーシャルファンドも必要になるでしょう。また、愛知県のスタートアップ事業として、次世代を担う世界中のアーティストの卵が集うアートインキュベーションも取り組む必要があると考えています。

陶磁美術館も同じです。過去の陶芸作品はもとより、現代陶芸の作品やアーティストは世界に日本の魅力を訴求できる、多様性と独自性を備えたコンテンツです。敷地も、愛・地球博記念公園の豊かな自然に囲まれ、ジブリパークにも隣接しているので、宿泊施設や飲食・物販施設など観光客の受け入れ体制をしっかりと整備すれば、国内外から観光客を呼び寄せることもできるでしょう。

なお、前述したように、陶磁美術館は老朽化のため、2025年3月31日まで改修工事で休館となります。

最後の芸術劇場についても、卓越した既存設備と人材を最大限に活かすとともに、自主事業の企画力や世界に対する発信力を磨けば、必ずや世界の訪れたい劇場の仲間入りができると感じています。

素晴らしいポテンシャルを持つ3つの施設のオペレーションやマネジメントを強化し、うまく組み合わせれば、先行する香港や韓国をしのぐ、アジア有数の芸術文化の拠点になると思うのですが、どうでしょうか。
 
写真:No machine-readable author provided. Nyakaman assumed (based on copyright claims)., CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons
 

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