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2025年問題に向けた病院の機能更新と分化のポイント
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困難に直面している病院経営
新型コロナは経済の様々な部分に深い爪痕を残しています。コロナ禍の日本を支えている病院の経営は、難局に立っています。
「日本病院会」「全日本病院協会」「日本医療法人協会」の3つの病院団体が実施した調査によれば、2020年度第4四半期(2021年1月から3月)の医業利益が「赤字」と答えた病院は全体のおよそ半分に達しました(3団体に加盟する4410病院に対する調査で、有効回答数は1277病院)。コロナ対応のために、通常の医療提供を削減していることが大きな要因です。
実は、病院経営はコロナ前から厳しい状況に直面していました。
厚生労働省が2年に1回、出している医療経済実態調査(令和元年実施)を見ると、コロナ前に赤字に陥っていた病院は、公立や国立、医療法人などすべてを含めて48.3%に達しています。
もともと日本は病院数や病床数が多く、小・中規模病院の病床利用率が低く非効率という問題を抱えていました。県立病院や公立病院のようにそれなりの規模があっても、都道府県が赤字を補てんしている場合が少なくありません。医療費が増大し続けていることを考えれば、今のままの経営で黒字化することは至難の業でしょう。
加えて、施設の更新が必要になる病院病棟は、今後増えることが予想されます。
日本には、築50年を超えるような古い病棟は全体の2%弱ですが、1980年代に病院建設が相次いだため、築30~40年の病棟はそれなりにあります。病棟におけるITの導入もさることながら、今後、進むとみられるオンライン予約や診療などのデジタル化を考えれば、建て替えとまでは言わなくとも、機能の更新が求められるようになることは確実です。もちろん、コロナのような新しい感染症への対応も必要になるでしょう。
当たり前と思っていた病棟の空間が不要に
それではどのように対応すればいいのでしょうか。
施設を更新する際に、建設費や維持管理費など運営コストの最適化を考えること。発注者として発注戦略や入札戦略をしっかり立てる、効率的な運営や動線を考えた無駄のない施設をつくる、競争原理に則った維持管理業者を選ぶ──といった視点です。
その上で、今後、加速すると思われるデジタル化やオンライン診療に見合った施設を想定することが重要です。
今は診察後、精算や処方箋の受け取りのために、患者は待合室で待機しています。でも、スマートフォンやスマートウォッチとの連携が図られるようになれば、デバイスに順番が通知されるようになるでしょう。わざわざ待合室で待つ必要はありません。
また、オンライン診療は緒に就いたばかりですが、感染症対策や診察の効率化という観点から、国や病院はオンライン診療を拡大していかざるを得ないと思います。もちろん、疾病や診察内容によりますが、オンライン診療が広がれば、病院に行く頻度は確実に減ります。そうなれば、待合室をはじめ、当たり前と思っているスペースも今ほど必要なくなります。
さらに、自身の病院の役割を再確認するという作業も不可欠です。
病院の機能分化にどう対応するか
2014年から国は超高齢化社会に対応する医療提供体制を構築するため、地域医療構想を推し進めています。似たような総合病院が乱立している状況を解消すべく、地域の病床の機能分化と連携を進め、効率的な医療体制を構築する取り組みです。
病床には、救命救急病棟や集中治療室のような高度急性期、手術などの措置が必要な急性期、在宅復帰に向けた医療やリハビリを提供する回復期、長期にわたり療養が必要な慢性期と4つの機能があります。それぞれの地域で必要となる病床の数を推計し、地域の病院の再編や機能ごとの適正配置を目指しています。
病院の収入は診療報酬が6~7割を占めています。病床が固定費だということを考えれば、稼働率の多寡が収入に大きな影響を与えます。そして、機能別に病床を最適化できれば、稼働率が向上し、病院経営は改善するでしょう。
こういった機能分化には、在宅医療や介護も含まれます。中等症や重症の患者は地域の中核病院が対応する、軽症の患者は周辺のクリニックや在宅でのオンライン診療でカバーするという棲み分けです。
こういった機能分化には、在宅医療や介護も含まれます。中等症や重症の患者は地域の中核病院が対応する、軽症の患者は周辺のクリニックや在宅でのオンライン診療でカバーするという棲み分けです。
私が政策顧問を務める愛知県では、認知症対策の一環として「あいちオレンジタウン構想」を進めています。大府市や東浦町にまたがる「あいち健康の森」には、国立長寿医療研究センターをはじめ、医療機関や高齢者福祉施設が集積しています。ここをベースに、認知症に関する研究やリハビリ、食事療法など新しい治療法の確立に取り組んでいます。
あいちオレンジタウン構想でも、医療機関、施設、在宅などの機能分化と連携は前提です。認知症やフレイル(加齢に伴って運動機能や認知機能が低下している状態)の高齢者が安心して自宅で生活できる社会を地域全体で官民が支える。通信・モビリティ・エネルギーなどの分野で、AIやIoT関連の最先端技術を駆使して公共・社会インフラを整備し、すべての人々が幸せを分かち合えるダイバーシティの実現を目指しています。
病院経営を安定させるためには、施設というアセットを活用しつつ、時代の要請に対応することが求められます。裏を返せば、更新は経営をアップデートさせるいい機会と捉えることができます。
参照:一般社団法人 日本医療法人協会(https://ajhc.or.jp/siryo/20210603_covid19ank.pdf)
WRITERレポート執筆者
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植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
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