REPORTレポート
リサーチ&インサイト
MICEやアリーナのイベントビジネスは本当に終わったか?
新型コロナウイルスの感染拡大はさまざまな業界に変革を迫っています。その中でも、イベント業界は飲食業界や宿泊業界とともに、ビジネス自体がフリーズしています。
新型コロナの感染を防ぐため、MICE(展示場や国際会議)やライブコンサートなどのイベントは軒並み中止になりました。展示会や国際会議、ライブイベントなどは大勢の人を一カ所に集め、企業同士のマッチングやエンターテインメントを提供するというビジネスモデルで成長してきました。「三密」回避による感染防止が重要な今、イベントビジネスの将来像は不透明なままです。
初年度から黒字化を実現した愛知県国際展示場
私は愛知県の政策顧問として、2019年8月にオープンした愛知県国際展示場(AICEC)のコンセッション(一定期間、インフラの運営権を民間コンソーシアムに売却すること)を推進しました。現在は老朽化が進む愛知県体育館(新アリーナ)の新築、移転に関わっています。
愛知県国際展示場の建設では、大型公共建築として初めてアットリスク型CM(ゼネコンが原価開示をするオープンブック方式のコンストラクションマネジメント)を採用し、仕様・機能と工事費の最適化を図りました。運営権は展示場運営の世界最大手である仏GLイベントが代表企業となり取得、海外イベントの誘致などを進めました。初年度黒字が実現できたのは、愛知県との官民連携がうまく機能したからです。
2020年はコロナ禍でイベントが軒並みキャンセルになっており、足元は大変厳しい状況です。アリーナのオープンは少し先なので心配はしていませんが、集客方法も変わることでしょう。
もっとも、私自身はMICEビジネスが死んだとは全く思っていません。今後しばらく厳しい状態が続くと思いますが、感染症パンデミック時代に適応した新しい形で再生すると考えています。
感染症はハードとソフトでコントロール可能
そう考える理由の一つは、新型コロナなど感染症はハードとソフトである程度コントロール可能だということです。既存の施設は追加投資が必要になりますが、換気性能の向上や殺菌・消毒など、施設のハードの部分で感染リスクを下げることは恐らく可能でしょう。また、ソーシャルディスタンスの徹底や検温、時間帯ごとの入場制限、動線の工夫など運用面におけるガイドラインも出ています。感染リスクをゼロにすることはできませんが、ある程度はリスクを制御できると思います。
現に、2020年9月にAICECで「名古屋ものづくりワールド」が開催されました。私は初日に大村秀章知事と参加しましたが、午前中にも関わらず多くの来場者に驚きました。最新鋭のサーマルカメラ(サーモグラフィカメラ)をいたるところに配置し、消毒を徹底した中での開催でしたが、多くの人が熱心に商談をする姿を見ると、リモートにはできないFace to Faceのコミュニケーションの重要性を改めて感じました。
ただ、それ以上に大きいと思っているのはテクノロジーの進化です。次世代通信規格「5G」やその次の「6G」が普及すれば、今とは比較にならないほど大容量のデータを超高速で送受信することができます。そうなれば、展示場やアリーナのビジネスが激変することは間違いありません。
「5G」「6G」で激変する展示会ビジネス
例えば、立体物を照射するホログラフィ技術と触覚を遠隔地に伝える触覚情報伝送技術を活用すれば、自身の3D映像をつくり、あたかも実際の会議に参加するように遠隔の会議に参加させることができるでしょう。逆に、アーティストのホログラムを投射し、近くの小ホールや自室でライブに参加できるようになる日も近いと思います。
展示会であれば、本人は別室や近隣のホテルに待機したまま、ホログラムを通して展示会に参加する、あるいはブースの前まで実際に行き、ホログラムの営業担当者の説明を受けるという運用が可能になるでしょう。
企業のオフィスが本社と無数のサテライトオフィスに分散するように、展示会や国際会議も現地に行く形と、サテライト会場やホテル、自宅などからバーチャルで参加する形が混在したハイブリッドなものになると見ています。
2024年度末に完成予定の新アリーナはPFIの一形態である「BT(Build Transfer)+コンセッション」方式(※)で進められます。既に、事業者候補になりうる企業のプレヒアリングを始めていますが、イベント業界が総崩れの現状にもかかわらず、新アリーナの運営に多くの会社が極めて強い関心を示しています。その背景にあるのは、先述したテクノロジーの進化であり、この引き合いの強さがMICEビジネスに希望を見いだしている理由です。
※事業者が自らの提案を基に施設の設計・建設した後、県に施設の所有権を移転し、運営権を設定する方式
今後、既存の展示場などは「5G」「6G」に対応するため、追加投資が必要になるでしょう。コロナ前に、国際水準の展示場やアリーナが不足していたことを考えれば、新たに展示場をつくろうと考える自治体も出るかもしれません。
ただ、テクノロジーの進化で新たなビジネスモデルが生まれると言っても、これまでに比べれば投資回収に時間がかかる事態は容易に想像がつきます。新設にせよ、追加投資にせよ、発注方式の見直しやスペックの最適化などを駆使してコストを最適化することが不可欠だということは言うまでもありません。
WRITERレポート執筆者
-
植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
その他のレポート|カテゴリから探す