REPORTレポート
代表植村の自伝的記憶
発注方式から考える、今後の公共工事のあるべき姿
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先日の投稿「秩父宮ラグビー場の「BT+コンセッション」はなぜ生まれたか?」の中で、中部国際空港の敷地内に建てたAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)の話をしました。コンセッションで運営権を売却した際に、運営を担当するフランスの大手展示場運営会社、GLイベンツから「今の施設では、MICE(国際会議や展示会)のグローバル基準を満たさないので改修してほしい」という提案が入ったという話です。
この提案を受けて、建設の段階から運営を担う事業者が入る形にする必要があると考え、「BT+コンセッション」を編み出したというのは前回お話した通りです。
ただ、この時に施設のアットリスクCM(コンストラクションマネジメント)を担当した竹中工務店はとてもいい仕事をしたと思っているので、今回はその話をしようと思います。
「三方良し」が可能なアットリスクCM
アットリスクCMとは、簡単に言えば、施工者が建設費の上限を決めた上で、オープンブック(原価開示)とフィーのみで建設する方式です。従来の原価を開示しない請負契約ではなく、元請け企業のゼネコンが下請け企業のかかったコストに、ゼネコンのフィーを乗せた金額を発注者が支払う実費生産方式です。
CM方式は欧米では珍しくありませんが、日本の大型公共建築工事ではAichi Sky Expoが初めてだったと思います。
少し専門的になりますが、請負契約の場合は請負金額がすべてで、物価の変動リスクは請負者であるゼネコンの分担になります。それに対して、CM方式の場合は下請け企業に支払う実費にゼネコンのフィーが乗っかってくるので、物価変動リスクは発注者、公共工事で言えば行政が負うことになります。
CM方式の場合、コストの適正化や透明性の確保に加えて、アカウンタビリティの強化に伴う下請け企業への適正発注、ゼネコンサイドからの技術・発注戦略の提案によるコスト削減や工期短縮などが可能になります。言い換えれば、発注者と元請け企業(ゼネコン)、下請け企業の「三方良し」の仕組みが実現するということです。
それに対して、一括発注方式(請負契約)は日本においてはフルターンキーに近く、発注者のリスク低減が図れるというメリットがあります。フルターンキーとは海外のプラント建設などで見られる方式で、設計、調達、建設、試運転のすべての業務を一括して請け負い、文字通りキーを回すだけで稼働できる状態にする発注方式です。
一括発注方式は、戦後の右肩上がりの経済成長時には最適な方式だったと思いますが、経済成長が鈍化し、カーボンニュートラルやDX、働き方改革が求められる時代になると、それぞれの発注方式のメリットとデメリットを把握した上で、プロジェクトの目標と社会情勢を加味した最適な方式を発注者自身が選択しなければなりません。
特に、公共工事においては公共側の技術者不足や地域経済を支える地元企業の存在、さらには物価変動の負担を誰がどう負担するのかということを考えると、ゼネコンによるCM方式の導入が今後の公共工事のあるべき姿ではないかと考えています。
【2025年1月9日掲載】
※このレポートは2024年12月16日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。
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