REPORTレポート

代表植村の自伝的記憶

日本に欠けているインフラ経営の視点

最近は海外出張の話が続いたので、今回は日本におけるPPP(Public Private Partnership:官民連携)の意味について、改めて考えてみようと思います。
 
もはや書くまでもありませんが、日本では高齢化が進んでおり、人口も減少し始めています。人が減るわけですから、基本的には税収が減り、財政は悪化します。とりわけ人口減少が激しい地方はそうでしょう。
 
一方で、高度経済成長期の後に整備された国内の公共・社会インフラは老朽化が進んでおり、更新や建て替えの時期を迎えています。国土交通省によれば、全国の水道施設の更新費は2019年以降、2038年までの20年間で約40兆円かかるそうです。豊橋市の浄水場を一つ建て替えるのに300億〜320億円かかると想定していますから、日本全国でそれだけの資金がかかるのも理解できます。
 
浄水場一つとってもそれだけの費用が必要になるのであれば、道路や橋、上下水道、公共施設などの更新には、どれだけの費用が必要になるのか、考えるだけで気が滅入ります。
 
しかも、地震で大打撃を受けた能登地方のように、地震や洪水などの災害で被災する地域は毎年のように増えています。気候変動の影響を考えれば、自然災害は今以上に増えるでしょう。日本で暮らす以上、こうした災害対応にかかる費用もみておかなければなりません。
 
既にあるインフラの修繕や更新に莫大な費用がかかるうえに、被災地の復興にかかる費用も想定しなければならないわけです。
 
財源と経営という課題を解決するPPP

これまでであれば、国は税金投入やインフラ利用料の値上げを通して対応しようとしたでしょう。ただ、冒頭で述べた通り、国の財政状況は厳しさを増す一方。加えて、身を削るような改革もせずに、税金でインフラを更新しようとしても、国民の理解が得られるとは思えません。
 
例えば、今年4月から下水道の整備や管理を担っている国土交通省に上水道が移管されましたが、それまでは上水道は厚生労働省、下水道は国交省、工業用水は経済産業省と整備や管理の所管が分かれていました。でも、水道事業のオペレーションを一体化して管理するほうが効率的に決まっています。上下水道の広域化やDXを進め、オペレーションコストを下げる努力も不可欠でしょう。でも、そうした努力は、現状では愛知県を含む一部の地域にとどまっています。
 
こうしてみると、公共・社会インフラには更新のための財源が圧倒的に不足しているというだけでなく、オペレーションの効率化や発注の透明化など、「インフラ経営」という視点が欠けているのです。
 
財源と経営という、日本の公共・社会インフラが抱える問題を解消する方法は、PPP以外にないと思っています。インデックスがインフラPPPのプロジェクト組成を手がけていることもあり、ポジショントークだと思われる方もいるかもしれませんが、本当にそれ以外にないと思っています。PPPを事業の次世代の柱に据えたのも、そのためです。
 
これまでに何度も書いてきていますが、PPPの本質を分かりやすく言えば、「公共の資産を活用してインフラビジネスを展開する」ということです。
 
高速道路のコンセッションであれば、一定期間、公共インフラである道路の運営権を買い取り、その期間中、料金収受や維持管理などの責任を持ちます。運営するのは民間企業を主体とした企業コンソーシアムになるので、利用者を増やすためにサービスエリアなどの沿線開発を進めたり、維持管理コストを効率化したりするなどして、トップラインの増加とコストの最適化を図ります。
 
愛知県のIGアリーナ(愛知県新体育館)のような社会インフラでも同じです。
 
事業者の提案を募り、経営という観点で最も優れた提案を出した事業者を選び、実際に建物を設計・建設させたうえで行政に資産を譲渡し、公共施設となった施設の運営を事業者に任せる。いわゆる「BT+コンセッション」で、設計・建設するのは事業者ですが、完成後、譲渡された公共施設を民間が運営するという点では変わりません。
 
サービス購入料などのかたちで、設計・建設費を行政がどこまで資金を出すかという点はプロジェクトごとに異なりますが、公共・社会インフラの上で民間企業が運営事業を営むという構図では同じです。
 
行政によるインフラ整備にないPPPのメリット

公共・社会インフラの上でビジネスを営むというと、批判の声も上がりそうですが、PPPには、従来の行政によるインフラ整備にはないメリットがあります。それは、民間資金の投入が可能になるという点と、インフラ運営に経営という視点が入るという点、そして地域の活性化です。
 
アリーナPPPが典型ですが、PPPは公共・社会インフラに民間資金を活用する仕組みです。愛知県のIGアリーナも、愛知県が建設を手がければ400億円以上の設計・建設費がかかりましたが、実際には200億円のサービス購入料で済みました。県民負担が半分以下に減ったということです。
 
なぜ設計・建設費が減ったのかといえば、手を挙げた民間事業者の経営力が反映されているからです。
 
何かの施設を建設する場合、企業経営者であれば、必要な機能を最適なコストで実現しようとするでしょう。少なくとも、ムダな機能や設備を盛り、建設費を増やすようなことはしません。事業を営むために、仕様の最適化を図り、競争の原理を働かせて建設費の最小化を目指すものです。
 
また、BT+コンセッションの場合、事業者は完成後の運営までを手がけるため、完成後のO&M(Operation & Management)で収益の最大化と費用の最小化を図ろうとします。建物を建設する時も、将来のO&Mを踏まえた設計にするに違いありません。
 
さらに、完成後のトップラインを伸ばすために、民間事業者はさまざまな工夫をします。
 
IGアリーナであれば、収益の見込めるVIPルームを新設した他、ネーミングライツの売却などスポンサー収入を最大化したり、新たなチケット販売システムを導入することでダイナミックプライシングを実現したり、チケット収入以外を増やすため、フード&ベバレッジの充実を図りました。
 
事業者にアメリカのエンターテインメント企業、AEGが参画しているのも、世界レベルのアーティストやNBAなどのスポーツのイベントを呼び込むためです。
 
このように、トップラインの追求とコストの最適化を図っているからこそ、NTTドコモを中心とした事業者は180億を超える入札金額を提示したのです。結果、愛知県の負担は下がりました。
 
インフラPPPに不可欠な民間提案

それでも、公共・社会インフラを民間企業が手がけることに不安を感じる人は少なくありません。水道事業のコンセッションでしばしば挙がる論点ですが、民間の事業者が手がければ水道料金が上がるのではないか、水道の安全は担保されるのか、といった不安です。
 
私に言わせれば、現状の水道事業には国から多額の補助金が入っているので、税金分を踏まえれば水道料金は決して安くありません。今後、税金投入分が増えれば、実際に水道料金を値上げするようなものです。
 
ただ、民間の事業者による値上げが不安なのであれば、契約で対応すればいいだけです。例えば、「水道料金は合理的な理由がない限りは上げてはならない。その場合も議会での承認を必要とする」などと。PPPで特に重要になる運営段階の官民のリスク分担を契約で明確にし、予期せぬ事態が起きた場合の協議やモニタリングの仕組みを構築しておけば、たいていのことは対応できます。
 
また、安心安全に関する不安も、水道事業を運営するのは民間の事業者だとしても、水質安全の最終責任を負うのは行政です。水道のコンセッションは、あくまでも行政と民間の役割分担にすぎません。料金徴収や水質安全の確保といった仕事を事業者が経営視点をもって代行しているだけで、行政が水道事業を担っているという事実は変わりません。
 
このように、インフラPPPは必要最低限の公共資金と民間資金を活用しつつ、民間のノウハウをインフラ経営に活かすという意味において、極めて優れた仕組みです。しっかりとしたスキームと制度設計を組みさえすれば、国民にとってプラスにしかなりません。住民負担が減り、サービス品質が上がるのですから当然ですよね。
 
今後すべきことは、公共インフラや社会インフラのPPPに関して、民間からの提案を増やすことです。
 
地域が抱える公共インフラや社会インフラ、あるいはそれ以外の公共工事などに対して、社会課題を抽出し、解決策を民間サイドが提案する。イノベーティブなアイデアを民間の提案者主導で行政に申請し、審査を経て進めるか否かを決める。いわゆる「Unsolicited Proposal(アンソリ)」です。
 
日本の場合、PFI法第6条で民間提案が認められていますが、まだまだ活用されているとは言えません。制度設計にも課題が残ります。民間事業者が行政に提案しても随意契約は認められませんし、公募プロセスを踏む際に行政の都合で民間提案の革新性が失われてしまうケースもあります。
 
その中で、インフラに関する優れた技術を持つ企業にインフラPPPに乗り出してもらうにはどうすればいいのか──。私は、成功事例を増やす以外にないと思います。私は13年にわたり第一線でPPPを社会に実装してきましたが、昨今の政府主導のアリーナPPPやウォーターPPPの動きはスピード感こそ欠けますが、高く評価しています。
 
現実のところ、案件抽出や課題解決を主導するプロジェクトマネジャーは不足していますが、こうした人材も現場でしか育ちません。そのためにも、成功事例を数多く作り、案件を増やしていく必要があります。
 
 
そもそもインフラの更新はどこまで必要か?

また、今後は地方のインフラがPPPの対象になることも増えると思いますが、PPPの企業コンソーシアム(SPC)、特にO&Mのメンバーにその地域で実績のある地元企業を参画させることは欠かせません。
 
水道事業のDXは大企業や外資でなければ難しいかもしれませんが、配管のメンテナンスなどのO&Mは地域の企業に任せ、地域にお金が落ちるようにすべきです。地域の金融機関をSPCに参画させるのも同様です。
 
さらに、PPPにおける透明性の確保も重要な論点です。公共のインフラを活用して事業を営む以上、O&Mにかかる契約内容や経費、事業から得られる収益などは住民に開示していく必要があります。この部分の透明性が確保されなければ、公共資産を収奪しているという批判から免れることはできません。
 
インフラPPPを通したソーシャルインパクトの実現も欠かせない視点です。PPPを活用した脱炭素社会の実現や地方創生に対する具体的な社会貢献です。民間主導でO&MでのCO2削減や創エネが進みますし、インフラPPPで得た余剰利益の地元への還元も可能になると思います。
 
そして最後に、これからはインフラを更新する際に、本当に更新すべきものなのか、立ち止まって再考すべきです。
 
東日本大震災の復興の時にも強く感じましたが、高齢化で人口が減る日本において、これまでと同じようなインフラが必要なのか、配置も含め改めて考える必要がある。冒頭で浄水場の更新に40兆円かかるという話を書きましたが、すべての浄水場を更新する必要は恐らくないと思います。これは、浄水場だけの話ではありません。
 
本当に必要なインフラなのかどうかを冷静に議論し、見極め、そこまでの必要性がないのであれば更新はしない。そのうえで、更新が必要であれば、PPPを活用して効率的に整備していく。こうした発想に変えていかないと、今後、必要になるインフラ更新は不可能でしょう。
 
PPPについては、日本では法律的な仕組みは揃ってきており、運用フェーズに入ってきています。どのように活用していくか、本気で考えるべき時だと思います。

【2024年11月21日掲載】
※このレポートは2024年11月18日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。

 

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