REPORTレポート

代表植村の自伝的記憶

愛知県にオープンしたステーションAi、その創設の背景

【2024年10月10日掲載】
※このレポートは2024年10月9日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。

10月1日のテレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」でも詳しく報道されましたが、10月1日に愛知県のスタートアップ育成拠点「ステーションAi」がオープンしました。欧州最大のインキュベーション施設として知られるフランス・パリの「ステーションF」をモデルとした、日本最大のスタートアップ育成拠点です。
 
建築面積は2万3000㎡と、本家のステーションFに勝るとも劣らない規模。地上7階建ての建屋には、フリーアドレスのオフィススペースや個室スペース、打ち合わせスペースやラボ、フードコート、ホテルなどが併設されています。企業同士の協業が進みやすいよう、オフィススペースに壁はなく、個室もガラス張り。ホテルが併設されたのは、国内外の起業家が滞在できるようにするためです。
 
10月31日のグランドオープンの時には、約500社のスタートアップ企業と、約200社のパートナー企業が施設に入居します。パートナー企業の中には、50人規模の固定席を新規事業のために確保したトヨタ自動車のような大企業も。5年後には、国内外1000社のスタートアップを常時、集めるという目標を掲げています。
 
フランスのステーションFは、欧州のスタートアップと大企業のマッチングの機会を作り、欧米のスタートアップ拠点のハブとなることに成功しました。ステーションAiも同様に、ピッチイベントなどを通してマッチングの場を作るとともに、スタートアップに対して経営指導や財務面のサポート、行政面でのさまざまな支援やファンドによる投資などを提供することになります。
 
行政がインキュベーション施設を整備する理由
 
「日本ではなく、アジアのスタートアップイノベーションのハブにしたい」と愛知県の大村秀章知事が語っているように、ステーションAiが見ているのは世界です。
 
米テキサス大学オースティン校や中国・清華大学、フランスのビジネススクール・インシアード、シンガポール国立大学など、海外の有名大学と連携を進めているのも、世界のスタートアップに来てもらうことを念頭に置いているからです。
 
また、ここ数年間、大村知事自らが渡航し米国のテキサス州、フランスのAuRA地域圏やオクシタニー地域圏、ドイツのNRW州、スペインのマドリッド州やポルトガル政府などのトップと会談し、経済連携含むスタートアップ事業でMOU(基本合意書)を締結してきたのも、エコシステムのグローバル化を構築するためです。
 
トヨタのような企業がステーションAiに入居するのも、世界レベルの出会いを求めているからでしょう。
 
大村知事も話していましたが、東京の場合、渋谷スクランブルスクエアを開業した東急のように、スタートアップ育成拠点は大手デベロッパーを中心に、民間企業が自発的に整備しています。ただ、それは人材とお金が集まる東京だからできること。東京を除く地方都市の場合、スタートアップ育成拠点の整備を民間に任せていてもなかなか進みません。日本一の工業出荷額を誇る愛知県でさえそうです。
 
そこで、拠点となる施設を愛知県が作り、愛知にこだわらず、国内外からスタートアップを呼び込むことにしたのです。オンラインでもつながることはできますが、リアルでつながって初めてオンラインでもつながれるという側面もありますから。
 
そして、民間企業が施設の設計・建設を手がけ、完成後に愛知県に所有権を移転、10年間の運営を委託するPPP、「BT+コンセッション方式」で整備を進めました。最終的にソフトバンクが落札。Station Ai株式会社を設立し、運営を始めました。
 
先般、私も知事と視察をしましたが、ハードとソフトにおいてグローバルスタンダードを充足する、スタートアップ育成におけるアジアのハブと呼ぶにふさわしい拠点だと感じました。
 
官民連携が効果的なスタートアップ支援
 
これまで、日本ではスタートアップが育たないとよく言われてきました。米国では700社以上あるユニコーン企業も、日本には現時点で8社しかありません。スタートアップを育てるエコシステムがない、チャレンジする若い起業家がいない、人材を企業が抱え込んでいるなど、さまざまな理由が指摘されていますが、育成の核となるハブがなかったことも一因だと感じています。
 
こうしたスタートアップ支援、特に施設の建設という部分については投資資金を回収するのが難しいため、民間だけに任せていてはなかなか整備が進みません。裏を返せば、行政が施設を整備し、民間がスタートアップの誘致やエコシステムの構築といったオペレーション&マネジメント(O&M)のところを手がければ、パリのStation Fと同様なスタートアップのハブができるはずです。そう考えて、愛知県はステーションAiの整備に踏み切りました。
 
ちなみに、スタートアップの文脈で引き合いに出されるシリコンバレーは、長い歴史の中で街全体がハブに育っていきました。スタンフォードなど大学とスタートアップの産学連携がエコシステムの進化に大きく貢献しているのはご承知の通りですが、同様のハブが自然発生的に生まれるのを期待しても、時間もかかるうえに、もはや日本では難しいでしょう。改めて、スタートアップ支援事業は官民連携でないと難しいと感じました。
 
今回、愛知県はものづくりが集積しているということもあり、StationAiはAIを中心としたスタートアップの集積を目指しています。今後はスタートアップ企業や大企業に限らず、中小製造業に対するAIの実装、言い換えれば、AI Educationの仕組みもエコシステムに盛り込まれると思います。
 
愛知県には自動車やロボット工作機械、航空宇宙産業などの産業集積があるがゆえにスタートアップ拠点の整備が成立すると感じる方も多いかもしれません。ただ、日本の地方都市に目を向ければ、アニメやサブカルに強い、飲食に強い、文化工芸に強いなど、地域ごとに特徴があります。そうした地域の特性に応じて、国内外の起業家とのマッチングの場を作れば、施設の大小は関係なく、さまざまなスタートアップが生まれると思います。
 
施設についても、愛知県は新しく整備しましたが、フランスのステーションFは既存の駅舎を改修しているように、既存の施設のリノベーションでも十分です。地域の魅力に着目し、PPP(Public Private Partnership)の官民連携でエコシステムを構築し、国内外のスタートアップを巻き込む──。これも、新たな政権が掲げる地方創生のあり方だと思います。


ステーションAiの内部の様子

名古屋市の鶴舞公園の南側に建てられたステーションAi

 
 

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