REPORTレポート
2024年5月末、愛知県の政策顧問として大村知事のシリコンバレー視察に同行するため、18年ぶりに西海岸に足を運びました。
ケンタッキー州とイリノイ州を訪問した大村知事が帰国前にシリコンバレーに立ち寄ったのです。
愛知県は今年10月、スタートアップの育成・マッチング拠点として名高いフランスの「ステーションF」と連携した日本最大のインキュベーション施設、「ステーションAi」を名古屋市内に開業します。
この施設の魅力を国内外に発信するためには、世界各国の起業家や投資家との連携をより深めていく必要があります。そこで、トップ営業も兼ねて、知事自らシリコンバレーを訪れたというのが今回の趣旨でした。
アメリカで痛感した空飛ぶクルマの現在地
5月30日、31日とわずか2日間の滞在でしたが、サンフランシスコのセールスフォースをはじめ、ソフトバンク・ビジョン・ファンドやトヨタ・リサーチ・インスティテュート、グーグル、スタンフォード大学など、スタートアップ支援に力を入れている多くの企業や教育機関を訪問し、幹部と意見交換を行いました。
愛知県がトヨタのお膝元ということもあり、それぞれのミーティングでは自動走行のようなモビリティやAIに関連した話が中心になりましたが、シリコンバレーで起きているイノベーションやスタートアップ支援の現状、生成AIに関するそれぞれの会社の戦略を把握することができとても有意義な視察でした。
特に、自動走行や空飛ぶクルマに関しては、日本とアメリカでは彼我の差があると感じました。
サンフランシスコでは、400台を超えるウェイモの自動運転タクシーが市街地を自由自在に走っており、実証実験段階にとどまっている日本とはレベルが違います。
地域限定で始まった日本版ライドシェアも全面解禁に向けて動き出しましたが、まだ時間がかかりそう。自動運転タクシーの実装も後追いで2026年から地域限定で始まりますが、周回遅れは否めません。
空飛ぶクルマについても、大阪・関西万博で披露すべく各社が開発を進めていますが、国内での実装については期待が先行している状況です。
実は、今回の視察では空飛ぶタクシーを開発しているウィスク・エアロの幹部にも話を聞いています。ウィスク・エアロは自立型全電動の4人乗り垂直離着陸機を開発している、米ボーイング社が出資したスタートアップ。数千回に上る試験飛行に加えて、グラウンドと管制空域コントロールのシミュレーションを繰り返しており、今にも空を飛び回るかのような印象を持ちました。
ところが、ウィスク・エアロの幹部によれば、実装のためにはFAA(Federal Aviation Administration)との協議が必要で、それには今後5年から10年かかるという話でした。複雑化する空域の安全性と信頼性の重さを再認識するとともに、先行しているウィスク・エアロでさえこの状況であれば、日本で空飛ぶクルマが飛び回るのは、さらに先になるでしょう。
エヌビディアを訪問した理由
このように、シリコンバレーの視察はどこも刺激的でしたが、特に印象に残っているのは、やはりエヌビディアです。
エヌビディアでは、国際AI事業のディレクターを務めるジェフリー・リーベン氏と、スタートアップ支援プログラムを率いるジェニー・ホスキンス氏に話を聞きました。
人気SFシリーズ「スタートレック」に登場する宇宙船にちなんで「ボイジャー」と名づけられた本社は、インデックスの創業時のパートナーであるGenslerの設計によるもので、建物にとどまらず、すべてのシステムを最先端のAIで管理する、まさに宇宙ステーションの世界でした。
エヌビディアでは、自動走行や医療、ロボット、ChatGPTなどに関して、最先端のGPU(画像処理半導体)を搭載したシミュレーションも実体験しましたが、どれも刺激的でした。
今回のシリコンバレー視察の目的は、ベンチャーキャピタルやAI半導体、プラットフォーマー、アプリケーションソフトウェアなど各分野のメジャープレーヤーと愛知県がどのように具体的な連携を進めるかということを検討することにありました。
GPUで世界トップを走るエヌビディアについては、AI半導体の利用拡大に向けた戦略やスタートアップ支援に関する考え方を聞くことが中心でしたが、彼らが日本の製造業、ひいては愛知のものづくり産業に強い関心を持っていたのは印象的でした。トヨタをはじめとした日本の製造業が、彼らのAI半導体を使いこなせるようになれば、ビジネスは大きく変わると確信しているようでした。
ただ、その話を聞いて、エヌビディアが日本企業に関心を持ち、AIの導入を推進していくことは日本企業に重要だと思いつつも、その状況が日本にとっていいことなのか、と感じたのも事実です。
このままでは日本企業は世界の下請け
確かに、日本の製造業はAIの活用がまだまだですからうまく活用すれば、イノベーションを起こせるかもしれません。それ自体は必要なことですが、ベースとなるAI技術がアメリカ企業に握られていることを考えると、このままでは日本企業はグローバル下請け的な存在にならざるを得ません。
実際、インデックスグループが力を入れているインフラ事業を見ると、新興国や途上国におけるPPP(Public Private Partnership:官民連携)プロジェクトの中核であるO&M(Operation & Management)を握っているのはヨーロッパや中韓の企業です。
日本の設備メーカーも技術的に高い評価を得ているものの、機器の供給か、EPC(Engineering/Procurement/Construction)にすぎません。O&MではDXが不可欠だということを考えれば、日本企業にはなかなか厳しい状況です。当然、サブコン的な位置付けですから、利益率が違いますし、カーボンニュートラルに対する関与も低くなってしまいます。
また、グーグルやマイクロソフト、アマゾンのような大手プラットフォーマーが日本にAIデータセンターを置き始めていますが、これも中国のリスクが相対的に増えたため。アジアのデータ拠点はタナボタで日本にシフトしつつありますが、データそのものを持っているのはアメリカ企業ですし、地域に土地建物の固定資産税が落ちるくらいです。
現状、シリコンバレーの大企業や欧米、中国などは国を挙げてAI関連のスタートアップの発掘と育成に力を入れていますが、それも生成AIの分野で新しいイノベーションを起こし、次の時代のテクノロジーを握るため。日本もその流れに乗りつつ独自展開を見出さねば、グローバル経済の中でどんどん地盤沈下してしまいます。
ステーションAiは愛知県がソフトバンクとともに進める官民連携の取り組みですが、日本の未来のために、ステーションAiの果たす役割は大きいと改めて痛感しています。
※【掲載の写真について】エヌビディア訪問は実りの多いものだった(写真:Image by StockSnap from Pixabay)
【2024年6月21日掲載】
※このレポートは2024年6月18日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。
WRITERレポート執筆者
-
植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
その他のレポート|カテゴリから探す