REPORTレポート
2023年7月8日から15日にかけて、イギリス、フランス、ドイツの3カ国を視察で回りました。愛知県の大村知事がフランスやドイツを歴訪するのにあわせて、政策顧問の私も欧州を回ることにしたのです。
イギリスは私の単独行動で、ロンドンのハイド・パークで開催された世界最大級の野外コンサート「BST Hyde Park」に参加し、ブルース・スプリングスティーンのライブを観戦しました。ちなみに、前日はビリー・ジョエルでした。
一方、フランスでは大村知事と一緒にリヨンのあるオーベルニュ・ローヌ・アルプ(AuRA)地域圏のローラン・ボキエ議長と、ドイツでもデュッセルドルフやケルンなどの大都市を擁するNWR州のヘンドリク・ヴュスト首相と会談しました。
それぞれの成果は別の機会にお話ししますが、今回はロンドンで感じたことをお話ししたいと思います。
スポーツ・文化・芸術に力を入れる愛知県
そもそもなぜ欧州歴訪の際にハイド・パークの野外コンサートに行ったのか。確かに、私の世代はブルース・スプリングスティーンに憧れていますが、ただライブを見に行ったわけではありません。
かねてより、ロンドンの中心に位置するハイド・パークで開催される世界最大級の野外コンサート「BST Hyde Park」に世界中から人が集まる話は聞いており、実際にどんなものか、この目で観たくて参加したんです。
加えて、2025年夏には愛知県新体育館の開業も控えていますので、同じロンドンにある「O2アリーナ」を視察するという目的もありました。
O2アリーナは、愛知県新体育館の運営に関わる世界最大級のスポーツ・エンター企業、米アンシュッツ・エンターテインメント・グループ(AEG)が運営しています。実際の運営手法について、責任者からいろいろとお話を聞く機会をいただきました。
愛知県は、自動車や航空宇宙、ロボットなど工業面では世界有数の産業集積を誇ります。半面、スポーツ・文化・芸術という面では魅力に乏しく、国内外の観光客に訴求できるような発信力に乏しいという現実があります。
また、2024年10月に日本最大のインキュベーション施設「ステーションAi」をオープンさせるなど、愛知県はスタートアップの育成に力を入れています。世界中の才能を呼び寄せる上でも、スポーツ・文化・芸術は不可欠の要素でしょう。
そこで、愛知県の魅力を高めるため、大村知事は2011年の就任以来、スポーツ・文化・芸術の振興を推し進めてきました。
愛・地球博記念公園にジブリパークを誘致したのも、中部国際空港の空港島にAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)を建てたのも、国内最大規模の現代アートの祭典、国際芸術祭「あいち」を立ち上げたのも、2026年のアジア大会を誘致したのも、すべてがスポーツ・文化・芸術の振興という大村知事の戦略の一環。この延長線上に、スポーツとエンタテインメントという面でアジア最高峰になるであろう愛知アリーナがあるわけです。
「BST Hyde Park」の日本版の可能性
実際に現地を見ると、さまざまな気づきがありました。
「BST Hyde Park」で驚いたのは、その規模と企画力です。「BST Hyde Park」は20時の開演でしたが、6万5000人の観客が集まりました。しかも、参加者の中心は50歳以上のシニア層。祖父母から孫までの家族連れもターゲットにした野外コンサートなんですね。
お金のあるシニアを対象にしていますから、チケットも日本円で5万円以上と高く、会場の中ではシャンパンを飲んだり、おいしい料理を食べたりと、みんながんがん消費していました。
メインスポンサーはアメリカンエキスプレス。航空会社など各スポンサー企業もVIPエリアやVIP席を設けており、屋外版アリーナそのものでした。こういったシニア向けのイベント企画は、まさに高齢者社会の日本にもふさわしいと感じました。
もう一つのO2アリーナも、とても参考になりました。
O2アリーナがある複合施設「The O2」とその周辺は、もともとガス会社が保有する、汚染された土地でした。その後、政府はロンドンの過密状態を解消するため、このエリアを含めたグリニッジ地区の再開発を推進。有名建築家、リチャード・ロジャースによる、巨大なテントで造られたミレニアムドームを建設しました。2000年1月のことです。
ただ収益性に難があり、2005年にAEGが再開発することが決まり、2007年に「The O2」として再開業しました。従来のテントドームはそのままに、建屋内建屋の形で全体面積の40%にO2アリーナ、残りの60%にアウトレットモールやホテル、飲食店舗やナイトクラブ、シネマコンプレックスなどをつくったのです。
その後、「The O2」の周辺はみるみるうちに活性化。周辺にはオフィスやマンション、ホテル、大学や学生寮などが建ち並ぶようになりました。この話は、アリーナを活用した街の活性化の好事例だと感じています。
規模は違えど、「新たな資本主義」の一環として国が進める地方のアリーナPPP(Public Private Partnership)事業による地方創生の大きなヒントとなると思います。
◎衰退する地方経済の起爆剤になり得る「インフラPPPで30兆円」の目標設定
スポーツ・文化・芸術のグローバル化と新たな官民連携の仕組みづくりは、ものづくり王国・愛知県の魅力度向上、国内外への発信力強化につなげる戦略の一手。ぜひ期待していただければと思います。
※【掲載の写真について】「The O2」(zakgollop, CC BY 2.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/2.0>, via Wikimedia Commons)
【2024年5月24日掲載】
※このレポートは2023年8月20日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。
WRITERレポート執筆者
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植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
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