REPORTレポート

代表植村の自伝的記憶

CO2削減の切り札、愛知発・流域カーボンニュートラルとは

【2024年1月26日掲載】
※このレポートは2023年12月28日にLinkedInに掲載したものを一部編集したものになります。
 
愛知県は県内を流れる矢作川流域をモデルに、治水・利水の見直しや森林保全、水道事業の効率化、再生可能エネルギーの活用を通して流域全体のカーボンニュートラルの実現を目指すというプロジェクトを進めてきました。

流域は、起点となる水源の森林資源に始まり、ダムを用いた水力発電や治水、上水道や工業用水道、農業用水などの水利用、下水処理による水再生など、上流から下流までさまざまな段階があります。ところが、管理する役所は国土交通省や農林水産省、厚生労働省、経済産業省など多岐に渡っており、それぞれが個別に動いています。

その状況を変えるため、流域の「水循環」をキーワードに、各省庁が連携し、官民連携で分野横断的にカーボンニュートラルの実現を目指すという取り組みです。
 
7つの施策から構成される矢作川・豊川CNプロジェクト
 
2021年7月にあいちカーボンニュートラル戦略会議を設置して以来、2年あまり検討を進めてきましたが、豊川流域を含む三河全域に対象地域が拡大するなど、プロジェクトはかなり具体化していますので、本日はその進捗についてお伝えしたいと思います。
 
矢作川・豊川CNプロジェクト・ポータルサイト(愛知県)
 
矢作川・豊川CN(カーボンニュートラル)プロジェクトは、主に7つの施策から構成されています。
 
(1)ダムの運用の高度化による水力発電力の増強
(2)公共空間を活用した太陽光発電施設の設置
(3)水インフラ施設の再編による省エネルギーの推進
(4)下水処理の運転水準見直しによる省力化
(5)森林整備及び循環型林業の推進によるCO2吸収量の維持・拡大
(6)水循環マネジメントや上下水道施設の連携等の推進
(7)建設工事におけるCO2排出量削減等の推進
 
(1)の「ダムの運用の高度化による水力発電力の増強」は、既存の水力発電施設の効率活用に加えて、発電施設を併設していないダムや維持流量を活用した小水力発電設備の設置です(維持流量とは、下流河川の水利用や漁業に影響を与えないように優先して放流される放流量のこと)。

現に、矢作川の上流にある矢作ダムでは水力発電の増強、同じく矢作川上流の木瀬ダムや豊川上流の設楽ダムでは、小水力発電や新たな水力発電の事業化が検討されています。また、AIの活用によって、平常時や洪水時の流量を予測するなどダム操作やダム管理の効率化も期待されています。
 
(2)の「公共空間を活用した太陽光発電施設の設置」は、浄水場や下水処理場、洪水を防ぐための遊水池やため池、農業施設を利用した、浮体式の太陽光発電施設の設置です。

既に、矢作川の河口付近にある矢作川浄化センターでは、汚水処理施設の電力を賄うため、2024年度の事業として太陽光発電施設の設置が決まっています。また、幸田町にある菱池遊水池に太陽光発電施設を設置することも検討中です。
 
流域だけでこれだけ可能なCO2削減
 
(3)の「水インフラ施設の再編による省エネルギーの推進」は、水道施設の再編や下水道施設の統廃合による省力化。浄水場や下水施設は老朽化が進んでいるものも少なくないため、施設の再編や統廃合を通して省エネを進めます。

具体的には、県内に11カ所ある流域下水道で汚泥の共同焼却を進める予定です。第一弾として、知多湾に面した衣浦西部浄化センターに、温室効果ガス低排出型の焼却炉を整備します。こちらは既に事業を実施しており、廃熱を利用した発電も始めています。

また、老朽化が進んでいる豊橋浄水場の再整備も検討中。こちらは官民連携によって、カーボンニュートラルに配慮した次世代型の浄水場を整備します。
 
(4)の「下水処理の運転水準見直しによる省力化」は、下水処理放流水の中のチッソとリンの濃度を緩和するというもの。水質浄化の結果ですが、三河湾では植物性プランクトンや海藻に必要な栄養塩が不足しています。そこで、下水処理の水準を緩和し、下水処理における使用電力量の低減を目指す。
 
(5)の「森林整備及び循環型林業の推進によるCO2吸収量の維持・拡大」は、水源林の保全と管理。具体的には、矢作川上流の県有林をモデルに、県有林で行った森林整備によるCO2吸収量をJ-クレジット制度を通してクレジット化。そのクレジットを下流の企業に転売し、その資金を活用することで森林整備を推進します。
 
(6)の「水循環マネジメントや上下水道施設の連携等の推進」は、立地や連携の面で非効率な上下水道施設の最適化を進めるというもの。

浄水施設は人口増加に伴って整備されたため、ポンプアップで送水するなど大量の電力を消費しています。そういった施設を再編することで、位置エネルギーを活用した自然流下配水の拡大を目指す。

県と各市町村の組織的に分かれている上水や下水の運営や、オペレーション&マネジメントを一体化し効率化を図ることも目的の一つです。
 
最後の(7)「建設工事におけるCO2排出量削減等の推進」は、読んで字のごとく、建設工事のプロセス全体でカーボンニュートラルを進めるということ。産官学の多様な主体を巻き込み、社会課題の解決や地域活性化を図る官民連携プロジェクトの組成を目指します。
 
世界で展開できる日本発のインフラ事業に
 
長々とご説明しましたが、このように流域の一つをとっても、水道事業の効率化を含め、カーボンニュートラルのためにできることはたくさんあります。そういったプロジェクトを公共事業、民間事業、官民連携のPPP事業など最適な手法に分類し、分野横断的に進めるというところが、矢作川・豊川CNプロジェクトの最大の特徴です。

流域カーボンニュートラルプロジェクトは愛知県の三河地域にある矢作川・豊川を皮切りに始まりましたが、今後は尾張地域の一級河川にも拡げ、愛知県の全流域におけるカーボンニュートラルを目指す計画です。

このプロジェクトには、国も興味を示してくれており、この2023年9月には、流域自治体の首長や中央省庁の局長クラスが参加する推進協議会も立ち上がりました。

全国には109の一級水系があります。国の支援も得つつ、矢作川・豊川でプロジェクトの効果を実証し、全国の流域に横展開できれば、「2050年のカーボンニュートラル」という目標に大きく近づくことができるのではないでしょうか。

また、流域カーボンニュートラルプロジェクトには、世界で展開できる日本発のインフラ事業になるという期待も込められています。愛知発のカーボンニュートラルプロジェクト。

ぜひ期待していただきたいと思います。
 

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